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可食部への執念 男性育休記17/68

2歳児が収穫した二十日大根、どうしたらいいんだろう。
葉っぱ立派なのだが、大根部分は大人の指一本分くらいしかない。これで何を作れというのだ。
先に、葉から考える。
タイミングの悪いことに、先日鍋に使った蕪の、余った葉をみじん切りにしてゴマやら醤油やらで炒める常備菜みたいなものを拵えてしまったばかりだ。昨日のことだ。大根の葉単体でどうするか、ほぼ似たような使い道しか思いつかない。
母は料理をしないので、私の料理人としてのアイデンティティは祖母にルーツがある。にんじんの皮できんぴらを作ったり、こないだも鰤大根の残り汁で切り干し大根を作ったりしてしまう。戦争を生き抜いた祖母から隔世遺伝した私の貧乏性の才能が、可食部に対する底なしの執念が、今日ばかりは憎い。蕪の葉の常備菜はまだタッパー一杯にある。
いろいろ考えたが、菜飯にしようという結論に達し、確か塩昆布があったのでそれとゴマと塩少々で菜飯を作る。作りながら、我ながら「菜飯て、渋すぎんか?」と思っていたが、案の定2歳児は初見で「これいらない、ふりかけごはんたべる」と冷たく言い放ったので、私は魔女の宅急便出てくる、ニシンのパイを焼くババアのような気持ちで、顔で笑って心で泣きながら菜飯を食った。美味い。だが間違いなく2歳児の好みではない。渋すぎる。
そして、二十日大根の、実の部分だ。
最初、浅漬けかピクルスかと思ったが、どちらも2歳児が食うとは全然思えない。味噌汁は飲むので、味噌仕立てなら食うかもと思って、かつ便秘気味だという妻の体調も慮り、ごぼうと豚肉と春菊とかの味噌仕立ての鍋を作り、そこの中央に輪切りにした二十日大根をぶち込んでみた。一枚食べてみたが、やはりこのサイズの大根ならむべかるかな、辛味が強くて鍋の具としては美味しくない。
「幼稚園で育てて採ってきてくれた大根さんだよ」
ストーリーも添えて提案してみたが、あえなく2歳児に「たべない」と瞬殺された。葉も、実も、食べてくれない。さすがに不憫に思ったのか「私が食べるよ」と妻が二十日大根をすべて自分の小皿にとって食べたが、「辛くて美味しくない」という忌憚のないご感想をいただき、気を遣うなら最後まで貫き通してくれと思ったり思わなかったりした。

どちらかと言うと、思った。

そういうわけで、おそらく幼稚園の皆さんは良かれと思って、食育的な意義があると思って二十日大根を植えさせたろ、となったことと思うが、ご覧の通り少なくとも我が家においては関係者全員悲しい気持ちになっている。

私から言いたいのはこれだけだ。

「芋掘りとかにしてくれませんか」

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