思い出の上書き
「別府弁天池、行ったことある?」
私は少し前まで山口県に住んでいた。
付き合って1年とちょっとの彼とも山口県で出会った。
ふたりで一緒に唐戸市場でお寿司をお腹いっぱい食べたり、秋吉台に星を見に行ったりしたけれど、まだまだ山口県を堪能しきれていなかったなと引っ越してから気づいた。
その中の一つ、別府弁天池。
たまたま観光雑誌で目について、そういえば彼は行ったことがあるのだろうかと気になり尋ねた。
返信は「あるよ」の一言とともに
透き通る青い池の綺麗な写真が一枚。
綺麗ね、と最初は思えたのに。
少ししてからその写真はいつ?誰と?と思ってしまった。もしかしたら前の彼女かもしれない。だなんて、我ながら見えない相手によく嫉妬心を抱けるものよと自嘲したりもする。
それを言葉に出して尋ねるほど子どもではないし、そんな恥ずかしいことは出来ないとも思う。
だけど、思い出の上書きができたらいいのにな、と願ってしまう。
「私は行ったことないから、今度そっち行ったら連れてってほしいな」
と彼にお願いすることで嫉妬心を隠す。
お互い成人を迎えて何年も経つ。彼は私よりも年上な分、経験だって豊富だ。それはわかっている。今までお付き合いをしていた人をなかったことにしてくれなんて言わないけれど。
でも、どうか、思い出の最新は私であってほしいと願うほどに、私はまだまだ子どもらしい。
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