デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン『裸足の季節』(2015)
「楽しかったあの頃」は、カメラの横移動と共に過ぎ去っていく。画面いっぱいに五人姉妹を詰め込んだショットが、彼女らが置かれている状況とは何の関係もなしにただただ幸福に満ちているのは、「あの頃」が時を経るにつれて美しい記憶として変換されるからだろうと思う。近所のおばさんが着ている服を「クソ色」と叫んだときは、将来自分が純白のドレスを身に纏うとは思っていない。あの暗い牢獄の中で見るドレスは、果たして「クソ色」じゃないと言えるのだろうか……。
ピンク色の蝿叩きでさえ可愛いアイテムとして映ってみえるのは女性監督だからか?とも考えたけど、やっぱり色に対して人一番敏感なんだろうなと思う。シーツに「赤色」が付いているか?というくだりが極めつけなのだけど、そんなことよりも顔に「赤色」をつけてサッカー観戦する方が絶対に重要だし、取って置きの「真っ赤」な靴を履いて道を駆けてみせる方が女の子にとっては幸せなことなんじゃないの、と観ていて苦しかった。彼氏に会いに行くならミントグリーンの服だよね、みたいなシーンは楽しいんだけど。
ロミジュリ的配置の男女の別れを告げる投げキッスの後に彼女の髪をそよがせる風は素晴らしいし、後ろ髪を握りしめながら窓を拭く姿も良かった。気に入らないものには全部火をつけて窓から放り投げてしまえばいいのに!みたいな感性も笑ってしまうけど好き。だけど、この映画には外から家を捉えたショットがあまりにも少なすぎるのが欠点。囚われの状態がどんなかってこと、監督は一回女の子たちから離れて(突き放して)考えた方がいい。あれではあまりにも近すぎる。カメラが優しいのは映画としてオッケーなのだけれど、ともすると過保護になりかねない怖さ。レンズは全てを正直に告白してしまうからなぁ、と痛感。とはいえ好きな映画だった。ソフィア・コッポラのアレに似すぎてるって意見はまぁ無視して良い。『オフサイド・ガールズ』の名前が出たら「おっ」と思うかもしれないけど。