「咳をしても一人」だったので夜中に死にかけた
一週間くらい前から喉が痛くて、微熱があるなとは思っていたんですが、不定愁訴部としての暦が長すぎて特に気に留めていなかったんですよね。
コロナ抗原検査陰性?ほな風邪か〜!
職場が無茶苦茶忙しい時期だったのもあって普通に出勤していたのですが、どうも咳止め薬を飲んでもなかなか咳が治まらない。次第に喉が枯れて声が出なくなっちまったのですが、それでも患者は気付きません。まあ風邪で喉がイカれただけだものね〜!
しかし処方薬に一切効果がないので、なんか前に効いたやつを試してみようと咳止め薬を市販のブロンに切り替えてみる。「ブロンは依存性があるので2日以上飲んで治らなければ医療機関を受診してください」ということでドラッグストアでサインを書かされた。今ってそんな制度になってるの?
↑この日、咳がひどすぎて眠れなくなったので2回目の受診。気管支が炎症気味だが異常なしとの診断だったため普通に出勤。吸入薬がちょっと効いたので奇跡の薬!?!?これで勝つる!!!!と信じるも願い虚しく……
事態は発症から9日目の夜、急展開を迎える。
【午前2時】
夜行性なものでそろそろ寝たいなーと思い始めたのが深夜2時。だが夜の薬を飲んで、吸入薬を吸っても一向に咳が治まらない。明日から仕事なのに眠ることもできない不満をツイッターに書き散らす。
咳のしすぎで頭の血管が何かしらの悪い影響を受けて頭痛がしてくる。吸入薬の「1日2回」という処方箋を無視し、「さっきのは上手く吸えていなかったとも捉えられる」ということにしてもう1回吸うが効果がない。
【午前3時】
おかしい。咳が止まらないどころかどんどん酷くなっていく。横になるとより酷くなるので、たとえ眠たくても強制的に直角の姿勢で座ったままでいないといけない。薬の飲み合せのことはよく分からないがとにかく痛みに耐えられないのでロキソニンを服用する。
[このときの身体の状態]
・気管支炎?
・30秒以上咳が止まっていた試しがない
・咳をするたびに頭の血管がヤバい感じに痛む
・咳が続いたことによる腹部の筋肉痛
・痛みに耐えて歯を噛み締めていたため奥歯も痛い
・37度前半の微熱による倦怠感
・謎の全身の関節痛
「殺してほしい 助けて 殺してー」のほか、苦しすぎて思想を鞍替えしたのか突然「安楽死はあったほうがいい」という文面のツイートをしている。
【午前4時】
死ぬかもと思い始める。咳の間隔が短くなりすぎて息を吸うことがままならない状態。呼吸が常に整わず、走った後みたいな感じになりつつ咳を繰り返して1時間ほど経過する。
睡魔はあるが平面で寝られないため眠ることをもはや諦める。念のために救急車を呼んでいい条件や、夜間診療の料金を調べるが、「喘息なんかで救急車呼ぶな」と炎上したインフルエンサーのツイートの形跡を見かけてそっと閉じる。
もし本当に死にかけたらまずい、と思って保険証を用意するためにベッドから立ち上がるが、すでに呼吸がヤバいのでふらついてまっすぐ歩けない。←ここでもうダメなことに気付こうよ
命の危機を感じつつも「いやでも、咳だしな……所詮は風邪による咳だし……今すぐ死ぬかと言われたら、まだ生きていられるんじゃないか……」と悩み一旦#7119に電話をしてみるも、咳と喉の痛みでまともに喋れずうまく意思疎通ができなかった結果、「自分で最寄りの病院まで行けますか?」に咄嗟に「ハい゛」と返して病院の場所を教えられて終わってしまう。故郷でない場所での一人暮らしってのは!!!!誰にも助けてもらえないってことで!!!!
「咳をしても一人」はすなわち、死を意味する自由律俳句だったわけだ!!!!
それから大きな病院で夜間診療にかかった場合、救急車は公費でも下手したら特別診療費で1万円近く飛ぶらしいと知り、貧困層なので救急車の選択肢を頭から消去する。
過呼吸みたいになって朦朧としてきた頭で1万円の支払いと吸入薬のオーバードーズによる障害を比較した結果、愚かにも後者を選んだのである。しかもオーバードーズも結局まったく効かない。
自分では一応生きているつもりだが、もしいま突然スウッ……と意識を失うことがあれば孤独死からは逃れられないわけだ。部屋に見つかったらまずいものいっぱいあるな……とかまだやり残したことがあるのに……と思いつつ、しかし人間は死ぬときゃ死ぬんだから仕方がないととりあえず自分を納得させる。
仮に生き延びていたら、まともに息ができずまっすぐ歩けないほどの意識状態でありながら、病院の通常診療が始まる朝9時まであと5時間もこの無限の苦しみに耐えなければならない。この絶望的な事実を前にして、「いや耐えろ!!炭治郎になれ!!」と言い聞かせながら自分を鼓舞する。俺が挫けることは絶対に無いッ……
しかしとにかく、座って咳に悶え苦しんでいる時間というのはまあ時の流れが遅い。睡魔が襲い来るなかであと5時間もこの苦痛に集中していなければならないと考えると気が狂いそうになるし率直に言って「もう殺してくれ」以外の感情がない。
そこで朦朧としたオタクは、「そうだプロセカをやろう」という結論に到達する。
【午前5時】
朝陽が昇る頃、喘息の発作のように激しく咳き込みながらプロセカをやる狂ったオタクの姿がそこにはあった。
当然身体がガタガタ揺れるのでいつもはクリアできる譜面もろくに叩けたもんじゃない。しかしYouTubeやTwitterを見ているだけではコンテンツから気が逸れて苦痛に目が向いてしまう一方で、難易度の高い譜面を叩くことに指を集中させている間だけが、この死にかけた病人から苦痛を忘れさせてくれる唯一の時間なのである。
腫れて血の味がする喉の痛み。苦しい呼吸。筋肉痛になっても酷使され続ける腹筋の痛み。誰もが寝静まった真夜中、いつ解放されるとも分からない苦痛の無限地獄。そこに響き渡る
にっこりこりこりこりコリアンダ〜〜!!!!
あちらもこちらも
千客万来!!!!!
君の笑顔も
コレクションさせて !!!!
いいぇ〜〜いいぇいいぇい
いぇ~〜い!!!!!
ワンダーランズショウタイムだけが俺の救いなんだよ
【午前6時】
咳でも喘息でも発作というのは夜間から早朝までが一番酷くなることが多いらしくて、治るとまではいかなくても完全に夜が明けると少しはマシになってきた。
まだ横にはなれないが、呼吸はきちんとすることができ、ヤバい感じの頭痛も引いた。とにかく峠を越えたことへの喜びを噛み締めつつ、「でもまだ診療開始まであと3時間ある」ことに改めて絶望する。
タイムラインのフォロワ〜たちがそろそろおはようを言いにくる。もう会えないかと思ったよ。
………………
そんなこんなで、朝には這いながら自力で病院に行くことができました。てっきり「風邪による咳に違いない」「そうでなかったらいきなり喘息を発症したんだろう」と思っていたのですが、正体はマイコプラズマ肺炎だったらしいです。
じゃあ救急車呼んでよかったじゃね〜〜〜〜〜〜〜〜か!!!!!!!!
ということでみなさんはインターネットに書いてあることなど信用せず、命の危機を感じたらすぐに救急車を呼ぼう!
本当に緊急性がある症状だったらありえないほど高額な診療費がかかることもないらしいし、そもそも命と1万円を天秤にかけないほうがいい。意識が朦朧としている時に自分の判断を信じるな!!
お医者さんには規定を大幅に越えた吸入薬のオーバードーズに「えヤバ……」みたいな引きの反応をされて(絶対マネしちゃ駄目だぞ)、それから正しい薬を処方してもらった。もう喉が使い物にならないのでずっとスマホを使った筆談である。不自由なのに薬剤師さんも優しくて泣いちゃいそうだったよ。
調剤薬局を出たら、午前9時半の空は青く晴れ渡っていた。人々はいつもと何ひとつ変わらず、会社や遊びに出掛けて街を歩いている。
私は谷川俊太郎の「生きる」という詩を思い出していた。生きているということ。いま生きているということ。それはミニスカート。それはプラネタリウム。それはマイコプラズマ肺炎。それはプロジェクトセカイカラフルステージ。なのだ。
咳の出ない身体でいられるということがどれだけ恵まれていたのかを理解しなければならない。人間は愚かなので、私も死ぬほど辛い思いをした一晩のことを多分すぐに忘れてしまうだろう。忘れないために記録を書いた。
これから生に悩むときがあったら思い出してほしい。「咳をしても一人」という偉大な自由律俳句のことを。
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