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ある証明 ①

私はガムを踏んだことが無かったので、その会話に参加することが出来ないでいた。


田村の、さっきガム踏んじゃってさぁ、から始まり途中杉本の、まぁウンコよりはマシじゃん、で一つのピークを迎え、最終的には野呂の、いやぁカレーがウンコの味してきた、で最高の盛り上がりを見せ、その後昼飯の場はややトーンダウンしていた。


すると突然私に、何で黙ってんの、と杉本から話が振られたので、少し考えた後、何味のガムを踏んだの?、と田村に訊ねた。


田村は、えっ、と言い二秒ほどの沈黙の後、三人は再び笑った。私は即座に、おそらく自分が今、場にそぐわない話の展開の仕方をしてしまったことを理解したが、皆に合わせて笑った。しかし何をどう具体的に間違えたのか分からなかった。


私は何を聞くべきだったのか。


ガムは本来噛むべき物のはずなので、それを踏むということはかなり非日常的光景と思われる。勝手で無根拠な推測だが、週4回ガムを踏むようなことはないのだろう。話はかなり省略されていたのでガムを踏む前後の行動がわからないが、田村の話したニュアンスから、意図的に踏んだのではないという点、踏んだことをネガティブな結果として捕らえているという点が汲み取れた。ガムを踏むという行為は、人にどんな感覚をもたらすのだろうか。


踏んだのは右足?それとも左足?


これも違う気がしたが、やはり何が違うのかわからなかった。何味かを訊ねた場合とどちらが正解に近いのか、会話の展開における正解とは何なのか、そもそも田村のさっきガム踏んじゃって発言に非はないのか、殆ど何もかもわからなかった。


コンビニでボトルに入ったミント味のガムを一つ買い、明日ガムを踏んでみることにした。


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