雑な人の日記。20210919

曇りがちで風のあるいい日和だった。家中の部屋の窓を開け放つと、風がよく通って窓辺のカーテンが大きく膨らんで翻った。空気が動いて体に透明なものが柔らかに触れる。

そういう風通しのいい部屋が好きだ。

散歩の続きのように部屋を歩き回りながら、暫くの間、スマートフォンで文章を書いた。言葉の順番を入れ替えているうちに思い通りに並ばなくなって、指先が空を泳いだ。
一息吐いてスリープにして、ソファーへ寝転がった。そよ風がかすかに髪を撫でてゆく。風の通り道にいると、水に浮かんで漂う時みたいに体中を柔らかなもので包まれているような感覚があって、心地良い。眠気がしとしとと雨のように落ちてきて、夢を見た。

うとうと、うとうと。

お茶を飲もうとやかんを火にかけながら冷蔵庫をのぞくと、庫内は殆ど空っぽで生麺しかなかった。なのに種類だけ豊富で、ラーメン、中華そば、チャンポンメン用の麺などがあった。冷蔵庫の扉を閉じて、なにもないなあと思いつつ、キッチンの棚を開けると、キッチンスツールではなく服が詰まっていた。こんなところに服があると使い勝手が悪いので入れ替えないとと考えあぐねていると、昼過ぎになった。

日曜日なのだけれど、会社に出掛ける。同僚には遅かったねと言われた。そのうちに内線21番にお電話ですと館内放送で呼ばれて、出てみると男性が挨拶と謝辞を述べた。

この度あなたに参加をお願いしているプロジェクトに、我々は心血を注いできたのでどうかよいチュートリアルを作ってくださいと懇切丁寧に話して電話は切れた。私はまだ書類の一つにも目を通していなくて、取り急ぎ開発室に行かなければと、階段を2フロア分駆け上がった。

その途中で出会った白衣の博士が、機械仕掛けの水鉄砲で私を撃ち続けながら「お前になにが出来る。なにしにきた」とゲームのお邪魔キャラみたいに問いつめてくる。私はそれを正面から受け止めたので、服は濡れてしまったけれど、不快感もなく、直ぐに乾いた。
博士は一通り撃ち終えると、なんだかいつになくしょんぼりしているなと訊くいてくるので、私は、数日前に頼まれている仕事があるのだけれど責任者とまだ何も話しておらず、ひとつも取り組めていない。だから話をしにゆかなければならないと答えた。

開発室に着くと、床にはカーキ色と青色のビニールシートが敷かれていて、車が一台置かれている。複数の太い配線が壁際まで延びていていて、モニターの付いた自転車につながれていた。自転車には女性が跨がっていて、肩で息をしながらモニターをのぞき込んでいた。責任者と思われるスーツ姿の男性が車のドアを開けて現れ、女性に向かって声を掛けた。私は2メートルほど離れたところから男性に切り出した。

私にも開発を手伝うようにという話があったから手伝わせてください、と相手に聞こえるようにゆっくりと、はっきりと言うと、その領分はユニティだからと返ってきた。
要するに私に出来ることはないんですかと問うと、これから見つけていけばいいからそんなに怒らなくていい、と返ってきた。

怒っているのではなくてしょげているのだと私は答えた。今だけでなくずっと前からだと少し笑いながら言った。

長いすにチームの人たちと並んで座って、窓の外を眺めた。言葉少なだったけれど、そこにいる人は穏やかだった。私は慣れない人たちのそばで緊張のかけらを飲み込んだみたいにそわそわしていたけれど、左隣に座る柔和なおじさんに話し掛けられると、そわそわする気持ちが少しほぐれた。どこか安心感を抱いていた。髪をバリカンで短く刈ったおじさんは、いつも少し笑っているみたいだった。私は祖父というものをよく知らないので、こういう感じかなとぼんやりと思った。

そこで目が覚めた。頭のそばで携帯電話のメールの着信音が鳴っていた。

変な夢だった。そうして、昔から胸の中でわだかまっているものが少し形を変えたのを教えてくれたような気もした。

人を説得する時には相手の要望や希望をちょっとずつあきらめて貰わなければならなくて、気持ちを手折らずに話を通すことはどうにか出来ないものだろうかとふと思う。優しいという言葉の取り扱いは、渡す時も渡される時も難しい。昨晩まどろみながら、鏡の中に映る私が私でないのなら、しょんぼりする必要もないだろうなどと考えていた。少し腑に落ちたような所もあった。

今日は散歩に出掛けて、帰ってから部屋でドリップ珈琲を飲んで、ソファーでうたた寝をしただけの日だった。この後も「特になにもしない」をする。

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