生まれ月の色を買う。

最近、失くし物が増えた。

ビニール傘に始まって、一年前に買ったばかりの冬用の手袋に、携帯電話、コピー機に挟んだ原紙、ネックウォーマー、お気に入りのピアス。
それらのうち、携帯電話と原紙は親切な人に見つけて貰った。ピアスは飾りのないほうの、キャッチャーと呼ばれる部品をなくした。

部屋で落としたのか、家に入る直前に落としたのかも見当が付かず、ピアスのない耳を気にしては、ここのところ無意識に耳たぶを触ってしまう。

なんとなく物足りない。

落とし物を拾うこともある。歩道の真ん中に堂々と財布が落ちている事も時々あって、そういうときは内心ヒヤヒヤする。

基本的に物を落とすとしばらく心当たりを探す。そうして後ろ髪引かれる気持ちをバッサリと切り上げて、一旦探すのをやめる。そうすると、少ししてから大体半々の確率で見つかる。
去年も同じピアスのキャッチャーを外出先で落とした。上着に引っかかって耳元から外れ、足元の地面に転がり落ちた感覚があった。私はコンタクトレンズを踏んで割らないように探す人みたいに、その場にしゃがみ込んだ。
グレーの石畳に落ちたチタンポストのキャッチャーは、保護色になっていて、15分ほど目を凝らしても見つからなかった。それでも近くにある気がして、しばらくの間、伏せていた。どのくらいそうしていたか定かではないけれど、あんまりじっとしているので、通りすがる人の目には、ちょっとした不審人物に映っていたかもしれない。

「あ、あった」

見つけたとき、思わず声が出た。

今回はどこに落としたのか、全く勘が働かなかった。

放っておくとピアスの穴が塞がってしまうので、足を伸ばしてお店へ買いに出掛けた。雑貨屋さんにアクセサリー店。滴のように揺れながら輝く石たちは可愛いくて、眩い姿やデザインを眺めているのは楽しいけれど、目星いものは見つからなかった。足で探してなければインターネットで買うのがいいかと、帰ってからノートパソコンを起ちあげた。

石の小さなピアスがいい。透明に澄んで輝くよりも、少し色が付いているほうがいい。

そうして、今は早急に欲しいのと、耳に付けると失くしてしまうのが前提なので、お手頃価格のものがいい。そのうち、きちんとしたものをゆっくりと選ぶ。……多分。ものぐさなのと、自分の装飾に無頓着なのとで、必ずや、と言い切れないけれど、善処はする。

検索窓にキーボードで『ピアス』と打ち込んだ。マウスをカチカチとクリックして商品一覧のページをめくる。

ふと、手が止まる。

「あぁ。誕生石か」

それもありだなと思い、『ピアス 誕生石』と入力し直して、幾つか見繕った。
赤い石、水色の石、薄紫の石、黒い石、淡いピンク色の石。自分と身近な人の生まれ月の誕生石を探してみると、イメージに近かったり、逆に少し印象が違っていて面白い。様々ある中で、淡い乳白色に近い色の石を選んだ。

石にまつわる言葉も知らないまま、ただなんとなく身に付ける。そのうちに、付けていることも忘れてしまうくらい当たり前になる。誰かに「ピアス可愛いね」と指摘されるまで気が付かない。

『当たり前』は、失くなるとちょっと淋しい。その当たり前をなくした淋しさには、失くした時に初めて出会う。通い慣れた道の歩道の角のタバコ屋。更地になって草が生えたままになっているスーパーの跡地。夏がくる度に青い稲穂が夕方の風に揺れていた田んぼ。

もうないのだなと気付いたときに、ふと淋しくなる。

なるべく失くさないようにしていても、するりと抜け落ちてしまったり、置き忘れたりする。今頃、あのビニール傘は、どこでどうしているのだろうなんて、ふと考える。

生まれ月の色をした石。指で摘まんで、片方の耳に付ける。

短いおつきあいになるか、意外と長ーいおつきあいになるのか。その先はこれから。ひとまず、どうもこんにちは。

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