短文バトル9「靴」/いつまでもあなたにとっては
「学校、卒業だから」と、父は黒い革靴を差し出した。その男物の靴は小柄な割に足の大きい私にはぴったりだった。うれしかった。戦後間もない頃。
一日中畑で真っ黒になっていても「女の子はきれいにしてなきゃダメだよ」が口癖の父だった。
玄関で靴を履く。ヒールのあるのは久しく履いていない。
病室のドアを開けると、父がベッドで力なく笑う。
横に座ると「女の子はきれいにしてなきゃな」と言う。
こんなおばあちゃんでも? でも、ちゃんと口紅を塗ってきてよかったと思った。
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