「雨音時計」
「物語の発想法を学ぶ」講座受講させていただき、
ショートショートの創作、トライしてみました。
せっかくなので私も投稿してみます。
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『雨音時計』
彼女の部屋には、雫の形をした透明なガラスの時計が置かれている。部屋の中でひときわ存在感を放ち佇んでいるこの時計は、彼女が初めて愛した人からプレゼントされたものだ。彼女はこの時計を今も部屋に飾って大切にしている。
この時計にはあるひとつの特徴があった。静かに秒針の音に耳を傾けてみると、6月の長雨を思わせる繊細な雨音が響く。
しとしと・・・しとしと・・・。
彼女は、毎日仕事を終えて帰宅すると、眠りにつく前のひと時に、彼が好きだったエスプレッソを味わう。苦味の効いた深い味わいは彼の記憶を呼び起こし、彼女を最後の雨の日へと誘う(いざなう)。雨の中、遠くなっていく見慣れた背中を、追いかけることも出来ずに、ただ佇むしかなかったあの夜へ・・・。
彼を忘れられない。忘れられるわけもない。記憶の断片を何度も何度も思い出しては苦しくなる。こんな不確かで儚い夜を繰り返し、時だけは淡々と冷静な正確さで過ぎて行く。彼は戻って来ない。わかっていても、心の中に面影を探してしまう。
彼女の孤独が強まるのに合わせて時計の雨音も強まる。この不思議な時計は、彼女の心の動きを鏡のように映し出す。彼女の気持ちを見守り、そっと寄り添ってくれる唯一の存在だ。
彼女は時計の刻む雨音に包まれながら彼の幻影を抱きしめて、雨音に溶け行くかのように眠りに落ちる。
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音楽を乗せたくなったので、
私のオリジナル曲「雫」と共に音声配信してみました。
稚拙な朗読ですが、良かったら聴いてください。
https://stand.fm/episodes/611f5d4df4ef5e0007209409
↓公式サイト
https://hiyokomasumi5277.wixsite.com/masumi-hiyoshi
(+オリジナルの音楽付けました!)