みなし○○
おはようございます。🐤
みたらしじゃなくて「みなし」のお話です。みなしっていうのは、実際にはそうじゃないけど仮にそうであると仮定することです。
FPの世界にはたくさんの「みなし」が現れます。
300月のみなし計算(厚生年金:若くても、300月=25年働いているとして遺族厚生年金/障害厚生年金の受給額を計算します)
みなし被保険者期間(雇用保険:休職日から2年間さかのぼり、そのうち一定以上の勤務実態がある期間のこと)
みなし賃金(雇用保険:高年齢雇用継続給付金では60才以前の賃金の75%未満になっていたら給付されますが、欠勤などで75%未満にするなどのズルを防ぐため、働いてなくても働いたものとみなして賃金を計算します)
みなし仕入率(消費税:簡易課税制度を採用した時の計算に使う、業種ごとに決まっている仕入れが売り上げに占める割合)
みなし贈与(贈与税:適切な価格よりも安く譲渡すること、脱税防止)
みなし配当(法人税、所得税:配当じゃないけど配当みたいな性質をもつお金)
みなし相続財産(相続税:相続財産とは被相続人から受け継ぐものをいいます。死亡保険金は保険会社から受け取るので相続財産とは言えませんが、相続税法上は相続財産に分類して課税されるもの)
みなし○○の特徴として、とにかくややこしいんです、こんがらがるんです。みなすのやめてくれって叫びたくなるのです。
今日はその中でも特別に一番こんがらがる「みなし配当」について学んでいきましょう。
なぜみなし配当が難しいのかというと、そもそもみんな「非上場株式の配当」について知らないのです。
無理ありません、普通は非上場株式なんて所有したこともなければ発行したこともないのですから。
しかし、一連の流れを理解してしまえばそう難しいものではありません。一度理解してお友達になってしまえば、あとは暗記に頼らなくても答えは導けるはずです。たぶん…
そもそも論から話を始めるのでちょっと話は長くなります。来週FP1級実技試験の方は冒頭の「結論」だけを読んでください。あとは緊迫感のない暇な人だけが寝る前に読み物として読んでいただけたら嬉しいです。
結論
出資して得た非上場株式をその発行会社に売る(会社側から見ると自社株式を買い取って「金庫株」にする)時は、「配当所得」がかかる場合があります。
譲渡なのに、税金の計算上は配当とみなすから「みなし配当」といいます。
これは個人にとっては不利なことです。
なぜかというと、非上場株式の譲渡所得は分離課税が採用されて、20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の課税ですむのに、非上場株式の配当所得は総合課税なので累進税率が最大で55.945%(所得税45.945%+住民税10%)の税率がかかってしまうからです。
しかし、相続した非上場株式には特例があります。
非上場株式を相続してその相続税を納めた人を対象に、3年と10か月後(つまり、相続税の申告期限から3年後)までにその株式を発行会社に譲渡したらすべて譲渡所得とすることができます。(みなし配当を回避できる)
一方で、個人ではなくて法人が発行会社に株式を売却し「みなし配当」とされると、配当所得は益金不算入なので、譲渡所得よりも有利になります。
以上が結論です、続いて説明パートに移ります。
説明パート1:なぜ配当とみなすのか
そもそも配当とは、その前にそもそも資本金とは
その前にそもそも株式会社とは、というところから始めます。すいません、話長くなります、そしてうざいです。うざい人は絵だけパッと見てなんとなくやりすごしてくれたらありがたいです。
株式会社を始める時は、出資者から資金を出資してもらいます。これが「資本金」になります。(厳密には資本金+資本準備金=資本金等ですが、ここでは簡単のためにすべて資本金としておきます)
例えば資金を1,000万円提供してもらって、1,000株発行したとします。1株1万円です。
提供してもらって、というものの、中小企業の場合ほとんどがその提供者は身内です。1級実技の設例でありそうなのは、父Aさんと叔父Eさんが共同創業者で、
Aさん:700万円出資し、700株ゲット
Eさん:300万円出資し、300株ゲット
そして会社をスタートしたとします。その後順調に会社を経営し、毎年利益を積み重ね、純資産の部には利益剰余金が1億5,000万円積み上がりました。
純資産の額は1億6,000万円です。
そして非上場株式の株価はいくらだっけ?
これくらいのタイミングで叔父Eさんが「そろそろ引退したいな」「私の持株を買い取って欲しいな」と言ってくるわけです。
さて、買取価格はいくらにすればいいんでしょうか。
非上場株式には市場価格はなく、次のような計算方法によります。
類似業種批准方式
純資産価額方式
上記2つの併用方式
配当還元方式
試験問題には次のように「類似業種比準価格/純資産価額」それぞれの株価が示されています。
純資産価額=16万円(計算方法は、純資産の額/発行済株式数=16,000万円/1000株)
類似業種比準価格=7万円(計算方法は学科の応用編でやったアレ、省略)
会社の規模からすると併用方式になるはずですが、その額は書かれていません。ここでは仮に1株あたり10万円の評価額でEさんから買うとして、Eさんから見たお金の動きは次のようになります。
1株1万円で300株⇒300万円を出資
1株10万円で300株を会社に売却⇒3,000万円ゲット
利益=2,700万円
みなし配当とは
このEさんから見た利益2,700万円は、株を売ったんだから普通は「譲渡所得」と考えるでしょう。跡継ぎの子Cさんとか、他の第三者に売ったらそれでいいのですが、もとの発行会社に売る場合は少し違ってきます。
それを考えるために、そもそも配当とは何かを考える必要があります。(まどろっこしい)
会社は原材料や商品を仕入れ、製造販売し、利益をあげ、設備投資を行います。売り上げから仕入れや設備投資や経費などを引いたものが当期純利益になります。
配当は、その利益のうちの一部を株主に支払うものです。
当期純利益から税金と配当を引いて残ったものは、「当期未処分利益」として貸借対照表の「利益剰余金」に加えられていきます。
この利益剰余金は今後営業車を買ったり設備投資をしたりなど、会社の経営に使うことができます。また配当金として支出することもできます。
「当期純利益」は1年間の営業の成果を切り取ったものとして損益計算書に記録されるもので、「利益剰余金」は長年積み重なった資産額であり、現在の状態を表すものとなります。
そして、一定の制限はあるものの、この利益剰余金のほとんどは株主に配当することが可能です。
つまり、貸借対照表の「利益剰余金」は、何かあれば配当金になり得る、配当金の性質を色濃くもっている部分だということです。
ということで、個人の株式を会社に売った時、その譲渡金額が最初の出資額=資本金を超えると、その超えた部分は利益の積み重ねであり「配当」に似た性質だとして「みなし配当」と名付けて、総合課税となります。
なんとなくわかったでしょうか。なんとなく。
法人の場合
個人ではなく、法人が所有している非上場株式をその発行会社に売った場合はどうでしょうか。
FP1級の学科試験応用編の問3、第四表でやったあれですね。
これどうするんでしたっけ?
配当は「益金不算入」として所得から一定額を控除(減算)できるんですよね。(非支配目的なら20%、完全子会社なら100%など)
もしこれが譲渡所得であれば、減算はできずに約37%の法人税がその全額にかかります。だから配当とみなされると法人にとっては有利になるのです。
会計と税務
ところで、株主への配当は法人税を計算するうえで経費に算入できません。
考えたら当たり前の話で、売り上げから経費などを引いた残りが「当期純利益」なので、そこからさらに経費を引けるわけがありません。
なので、もしオーナー社長が株主(自分)に配当を出すと、配当を支払う会社としては経費にできない(税金が減らない)、配当を受け取る個人としては総合課税で多くの税金をとられてデメリットしかありません。
なので、オーナー社長は株主(自分)に配当をしません。
配当を出す代わりに「役員報酬・賞与」を出します。役員報酬・賞与は一定のルールで経費として認められ、その分税金が減るからです。
配当所得の税率のよくある誤解
よく誤解されるのですが(そして私もずっと間違えて覚えていたのですが💦)、個人の配当所得は原則として総合課税です。
上のような表を見たことがあると思います。
これで誤解してしまうのは、「非上場株式等の配当所得は20.42%で源泉徴収されて終わるんだ」ということです。
しかしそれは誤解で、この源泉徴収は配当時にとりあえず徴収されているだけで、最後に総合課税として確定申告し、実際の税率との差額を納める必要があるということです。(まあ、なかなか非上場株式をもった経験のある人も少ないので無理ないと思います)
なぜ相続の場合は特例があるのか
例えば叔父Eさんが300株を持ったまま亡くなって、その子に相続されたとします。相続財産が仮に7000万円だとして、子はいくらかの相続税を支払います。
考えてみてください、子は売れもしない株をいきなり渡されて、「これには3000万円の価値がある、その分の相続税を支払いなさい」と言われて相続税が370万円ほどかかってきます。
そして、そのお金を捻出するためにその株を売ろうとします。
そんな時に「みなし配当だから2,700万円に対する所得税よろしく、あなたの年収ならだいたい963万円ね」と言われたらどう思いますか?
私なら「はああああ??? いらんもん無理やり押し付けられて、その相続税も払ってるのに!!!!」となります。
というわけで、非上場株式を相続してその相続税を課税された個人を対象に、救済措置が設けられています。
この場合、取得価額は相続人のを引き継ぐので300万円だから、やっぱり利益は2,700万円となりますが、掛け率は20.315%だから納税額はおよそ548万円となります。(やっぱりはあああ!!??)
というわけなので、例えば基礎控除の範囲に収まったとか、妻だからという理由で相続税を支払っていない人にはこの特例は適用できません。やりがちなミスなので気をつけないといけませんね。(;^_^A
まとめ
長い時間おつきあいをありがとうございました。
まとめると、
非上場株式の配当は総合課税(最高税率55.945%)
非上場株式の譲渡所得は分離課税で20.315%
非上場株式を発行会社に譲渡した時は「みなし配当」が発生する場合がある
非上場株式の配当を受けた時は、20.42%の源泉徴収をされるが、確定申告時に差額を納税する必要がある(所得税+住民税=最大55.945%)
非上場株式を相続で受け取り、その相続税を支払った人を対象に、特例ですべてを譲渡所得にできる制度がある(税率20.315%)
みなし配当が課税されるのは、譲渡価格のうち資本金の割合を超える部分です。
面接官「Eさんが株式をX社に譲渡した時の課税関係を説明してください」
受験生「X社株式の譲渡価格のうち、資本金に対応する部分を超える部分については"みなし配当"となり、配当所得として総合課税の対象になります」
こんな感じで答えられるのではないでしょうか。
というわけで、それではまた~(@^^)/~~~
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