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第4話 マーケター(ギャビンの話)~ビットコイン物語

ビットコインは一夜にしてならず。

ビットコインを生み出したのはひとりの天才、サトシ・ナカモトです。

しかし、現在のビットコインは他の技術者たちの手で更新されていて、サトシが書いたコードはほとんど残っていません。

そもそもビットコインは技術者やプログラマーだけが作り上げたものではありません。起業家や投資家、詐欺師や密売人など、いろんな国のいろんな事情をもった人々に必要とされ、時代の大きなうねりに飲み込まれて揉まれながら、奇跡的にも成長を続けてきました。

この物語では、ビットコインに関わった人物にスポットをあてていきます。

今回は、本格的な普及活動に入り、いろんなマーケティング戦略がでてきます。理想だけじゃなく、実際にものを売ろうと思ったら技術とか思想以外のところ、もっと人間の感情に寄り添った草の根的なことをどれだけ泥臭くできるかが大事なのです。

技術者兼広報担当、ギャビン・アンドレセンさん

ギャビン・アンドレセンさんは1966年生まれのコンピュータプログラマーです。2010年春にビットコインに出会ったときは44才でした。(※下の図に間違いがあったので7月3日に訂正しました)

ここまでビットコインに関わった人はみな例外なくコンピュータ技術者かプログラマーでした。ギャビンさんもプロのプログラマーだったのですが、これまでにかかわった人と明らかに違うのは、人づきあいが上手ということでした。

ギャビンさんはプログラミングの技術に優れていただけではなく、町内委員会の役員を何度も務めた経験があり、「自分が納得のいかないことでも話をまとめて前に進めることができる」ということができました。

コンピュータ技術者にはオタク気質な人が多く、一つのことに集中する力はとても高い代わりに、どうしても人とのコミュニケーションのように総合力が必要な分野には弱いのですが、ギャビンさんは持って生まれた人づきあいの能力を生かして、表には決して出ようとしないサトシの代わりに長きにわたってビットコインコミュニティの代表的な存在となり、のちにビットコイン財団設立の立役者となります。

このことは現実的なこととして、後々とても大事なこととなります。真のコンピュータ技術者はサトシを信頼しなくてもコード(ビットコインのプログラム)を読めるから良いのですが、世の99.9%の人はこのコードの安全性を確かめることができないから、どうしてもギャビンさんの「人がら」「社会的地位」といったウェットな信頼が必要だったのです。

今では定番? ビットコイン・フォーセット

ギャビンさんがビットコインに強く興味をもったのは、その分散性にありました。システムとしてのネットワークの分散性、完全なオープンソース、そして一人の開発者ではなくユーザー全員がアップデートや維持管理をするという考えがギャビンには理想的に思えたのです。

そして、この頃はユーザーがビットコインを得るための唯一の方法は、ビットコインのプログラムをダウンロードしてインストールし、マイニングに参加するというものでした。

つまり、PCを用意してブロックチェーンの更新に貢献すればタダでもらえる代わりに、買うことはできなかったのです。

それは現在よりもずっとハードルが高いことでした。ハルさんでさえ、PCをつけっぱなしにすることを家族から文句を言われてやめていることからもわかると思います。(第1話参照

家庭用のノートパソコンが1台あれば、ビットコインを立ち上げておくだけで数日に一回はマイニングに成功して50 BTCが得られるという、現代の私たちからするととても羨ましい時代だったのですが、それは1 BTCが何百万円という価値があるからで、当時は数日コンピュータをつけっぱなしにして、やっと50 BTCを獲得したとしても1ドルにも満たない利益だったので、思想に惚れた人しかできない作業だったのです。

🐤 5日歩いてやっと1ドルしか稼げないSTEPNを想像してみてください、あなたは続けるでしょうか?

ということで、ビットコインをもっとお手軽に、少しでも興味をもってもらうために、ウェブサイトにアクセスするだけで5 BTCがもらえる「ビットコイン・フォーセット」を作りました。

フォーセット(Faucet)とは「蛇口」の意味で、ひねれば簡単にビットコインが出てくるというイメージです。

これは暗号資産の世界でその後よく使われる「Giveaway」のはしりとなりました。今でもビットコイン・フォーセットを実施しているサイトはいくつかあり、そこにアクセスすれば、0.0000005 BTC~もらえるチャンスがあるそうです。(ギャビンさんが立ち上げた当時とは違い、現在は広告料で運営されています)

このようなサイトは、今でもビットコインの普及と啓発に役立っています。

  • ビットコインは小さな単位でも買える(小さな買い物にも使える)

  • 世界中に即時送金出来て、手数料がとても安い

  • 個人情報が必要ない

というようなことを実体験できるサービスになっています。

その後…

ギャビンさんは、サトシが去ったあとビットコインのコードの更新をしながら普及活動を行い、起業家や投資家を巻き込み、CIAなど公的機関にも説明し、ビットコイン財団を設立してビットコインの成長に貢献します。

成長の結果として、ビットコインが取引所に集中して分散化の魅力が薄れたり、法定通貨でビットコインを売買することが主流となり「政府に依存しない通貨」という魅力が薄れたりと、当時の思想に惚れこんで始めた人と現実のビットコインとの溝が徐々にあらわれてきます。

そんな溝を埋めてきたギャビンさんの力ですが、やがて自身も我慢ならない技術的な溝、「スケーラビリティ」が大きな問題になってきます。

ビットコインの利用者が増えてくると見えてくる課題で、要するにたくさんの送金を処理できなくなるというものです。

ビットコインは1秒当たりおよそ3~4件の送金をすることができますが、例えばクレジットカード(VISA)はその間におよそ5万件の送金が可能です。

今後もっと利用者が増えることに対応できないとビットコインは使われない技術になってしまいます。これを解決するためにギャビンさんは1つあたりのブロックサイズを大きくすることを提案するのですが、それは受け入れられず、別の方法で解決することにコミュニティは決定しました。

自分の理想から離れてしまったビットコインを支援することをやめたのが2016年のことで、それ以降は新しいビットコイン=ビットコイン・キャッシュの支援をされています。

また、2021年に自分のブログで「A Possible BTC Future(未来のビットコインを予想するよ)」というタイトルで文章をつづられています。

そこには、未来のビットコインの価値とドルのインフレ、そして新規コイン獲得から手数料収入がメインとなるだろうことについて書かれていました。

そしてやがてビットコイン本体の流通はなくなるだろうとも書かれていました。

かつての金と同じように、その引換券だけが市場で取引されているイメージです。引換券は誰が発行しているかというと、銀行かもしれないわけで、そうなるとビットコイン本来の意味があるのか? と考えずにはいられない、とても皮肉で興味深い内容でした。

次回予告「商業化待ったなし!マウントゴックスの誕生」


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