鳥瞰

今日も今日とて仕事が始まる。
今日はくるみを30個も割らなきゃいけない。これだけで今日一日につき100羽が食いっぱぐれなくなる。
手間でしかないが、やりがいはある。

いつもの電線につき、人の動かす鉄の塊を見つめる。赤い光と青い光に頼ってアレは動くようだから、タイミングを合わせてくるみを落とし割ってもらう。まぁこの道150日の俺からしたら朝飯前だ。とっとと終わらせよう。
よし、まずはあのご機嫌な黄色の塊の中で、青ざめた顔をしている青年のところを狙おうか。

トーン　コロ　コロ
………ガキッィ！！

よし一つ目だ、今日は調子が良い気がする。

………ガキッィ……………………ガキッィ…

それにしても人はなぜ急いで鉄の塊を動かすのだろうか？そんな切羽詰まった生き方をせないかんのか？皆さっきの黄色い塊の人のように具体の悪そうな表情で、なんというか、魂がカサカサなように感じる。

まぁあいつらが考えることはよくわからんが、さして気にすることでもないか。

それよりも春という川の水が気持ちいい季節になったんだ。今日の仕事が早く終われば、ゆっくり水につかることも出来るだろう。ああ、楽しみだ。

…ガキッィ！

最後の一つが割れた。さぁ汗もかいたことだし、春の水を堪能してやろう。

バサッバサッ、シュッーシュッー

カァーカァーカァー

おう、仲間もたくさん来ているぞ。やはり皆考えることは同じようだな。

ザバァッ

ああ、気持ちいい。今日一日の疲れが染み出るなぁ。それにしてもこの川も変わっちまった。昔はもっと土もふかふかで、春なんて花が踊り子のように咲いていたのに。今じゃ灰色の固い地面ばかりだ。なんでか、そこを楽しげに歩く人が多くてうるさくて仕方ない。良いとこっていやぁ、光がたくさん増えたことくらいか。

バシャ　バャ　バシャ　バャ

さてもうそろそろ帰るか。

タ　　タ　　タ

あれ、あれは朝一発目の黄色い塊の青年じゃないか。
朝とは真逆の赤い顔をしながら、メスの人と歩いている。何をしているんだろう。

……れから先に何があろうと、あなたと一緒に進んで……

あれは…人のオスとメスのよくやるやつか？昔人好きの一羽にきいたことがある。つくづく人はよくやるさ。よくもまぁ、あんなにコロコロ感情を表情に現しちまうもんだ。朝は真っ青、夕には真っ赤ときたもんだ。そんな風に顔の表現は上手いくせに、自分の思うことを伝えるのは難しいらしい。
今までいろんな烏と一緒に水浴びをしたオレを見習うといいさ。

ただ、少しだけあんなふうなのも面白いかも知れない。恥ずかしくなるような、でも必要な言葉ってのは確かにあるかも知れない。

今日寝床に帰ったら、オレもアイツに少しくらい何か言ってやってもいいかもな。