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ヴィランティ牧野祝子著「ポジティブフィードバック」書籍レビュー

 本著は、国際エグゼクティブコーチのヴィランティ牧野祝子氏が、組織マネージメントにおける、ポジティブフィードバックの効果と具体的な活用法を紹介した書籍である。著者は、20年あまり10か国でのビジネスを経験した。そして、コミニュケーションにおいて、ポジティブフィードバックの有用性を認識する。それは、国籍や年齢、バックグラウンドを問わず、効果があるものだった。そして、ポジティブフィードバックを広めるために、国際エグゼクティブコーチ、企業研修コーチ、コンサルタントに活躍の場所を移し、本書の出版に至る。ポジティブフィードバックの効果と具体的な活用法は、ビジネスの場にとどまらず、さまざまな場でのコミュニケーションを改善し、自身が関係する人々と、良好な関係性を築くために、有効なヒントになると考え、本著のレビューを書くこととした、それでは、本著の概要を記す。

 まず初めに、著者は、ポジティブフィードバックとは、”相手の成長のための思いやりを言語化した良質なコミニュケーション”と定義する。

 相手の行動、存在や結果を「承認」したことを肯定的な言葉で伝えること。相手の可能性を信じ、成長を第一の目的として行います。「肯定的に」「思いやりを持って」コメントするために、ポジティブフィードバックを受けた側が「大切に思われている」と感じ、傷ついたり、凹んだりせず、お互いが前向きに進むことができるようになる。ただ褒めるわけではなく、改善点も伝え、成長への道筋を示す。

ヴィランティ牧野祝子著「ポジティブフィードバック」より

 そして、その有用性を、以下のように、説明する。

 ポジティブフィードバックは、どんな人にも効果があると私は確信しています。というのも、人間の根本的な欲求である「承認(の欲求)」を満たすものだからです。
 アメリカの心理学者アブラハム・マズローが考案した「マズローの欲求5段階説」というものがあります。人間の欲求は5段階(生理的な欲求、安全の欲求、愛と所属の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求)に分かれ、ピラミッドのように構成されているとする心理学の理論です。(中略)
 ポジティブフィードバックが満たすのは、ピラミッドの第4段階に位置する「承認(の欲求)」です。
 「自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されること」は、生きて日常生活を営むうえで非常に大切です。

ヴィランティ牧野祝子著「ポジティブフィードバック」より

 また、「心理的安全性」との関係にも言及する。

 人は、承認欲求が満たされなかったり、妨害されたりすると、劣等感や無力感などの感情が生まれます。(中略)
 ここ数年注目されている「心理的安全性」は、まさにこのような状態にしないことの大切さをうたっています。
 ハーバード大学教授であり、組織行動学の研究者エミリー・エドモンソンによって提唱されたものですが、ポジティブフィードバックは、まさにこの「心理的安全性」をつくり出します。「心理的安全性」が高ければ高いほど、発言も行動も自由にでき、パフォーマンスが上がることがわかっています。

ヴィランティ牧野祝子著「ポジティブフィードバック」より

 次に、ポジティブフィードバックの土台にある4つの「承認」の基軸を挙げる。

1 成果・結果に対して承認する【結果承認】
 結果を承認し、成功体験を認識することによって、部下と喜びを分かち合い、絆の強い人間関係をも構築します。
2 相手が行った行為(まだ結果が出ていないものも含む)に対しての承認行為【行為承認】
 結果が出る前に「行為」や「存在」を承認されると、人は「これでいいんだ」と確認でき、やる気や自身が生まれ、より良い結果を素早く出すことができるのです。
3 相手の存在を承認し、大切にあつかう【存在承認】
 一人の人間としてリスペクトし、笑顔で挨拶をする、アイコンタクトをとる、など。
4 将来(未来)の可能性について信じ、期待し、それを肯定的に応援する【可能性承認】
 こうなったら良いという改善ポイントを未来の期待として肯定的に応援する。

ヴィランティ牧野祝子著「ポジティブフィードバック」より

 そして、ポジティブフィードバックでしてはいけない2つのことを挙げている。

〇感情的に叱らない
 大事なことは叱ることではなく、解決策を見つけ、前に動くこと。そして、部下が成長し、素晴らしい結果を出してくれることです。
〇他人との比較
 比較するなら、過去の相手と現在の相手です。過去の相手と比べて「成長したところ」と「できたところ」にフォーカスしてポジティブフィードバックをして下さい。(中略)

 成長を支えるのはやる気です。
 人は強みに気づくことで、やる気がうまれます。

ヴィランティ牧野祝子著「ポジティブフィードバック」より

 ポジティブフィードバックの5大効果を上げる

1 やる気がアップする
2 自信がアップする
3 人間関係がアップする
4 仕事の理解度がアップする
5 主体性がアップする

ヴィランティ牧野祝子著「ポジティブフィードバック」より

 筆者は、ポジティブフィードバックがない場合を、”はじめての場所にナビなしでいくようなもの”であり、相手は不安になり、能力を十分に発揮できないと表現し、今すぐにでも実践することを進める。
 そして、そのための、5つのポイント、7つのコツを挙げている。

■5つのポイント
ポイント①【頻度】
短いスパンで定期的に行う
ポイント②【タイミング】
「その場ですぐ」で効果は何倍にも上がる
ポイント③【場所】
会議室でなくとも、歩きながら伝えてもOK
ポイント④【何を、どうして】
「具体的に」「なぜ」を明確にする
ポイント⑤【どのように】
相手がポジティブになるように伝える

ヴィランティ牧野祝子著「ポジティブフィードバック」より

■7つのコツ
コツ①承認と改善点の割合は8対2で行う
「見ているよ」「認めているよ」の肯定的メッセージと「改善点」のメッセージの割合を8対2にするのが理想的
コツ②ネガティブをポジティブで包む
サンドイッチ方式で、ネガティブフィードバックをポジティブで包む
コツ③「では、どうするか」と未来思考で考えさせる
過去について否定的に話すのではなく、「では、どうするか」と未来に目を向けること
コツ④改善点は相手への期待と共に伝える
「改善点」の裏にある「期待と承認」を全面的に出す
コツ⑤言葉使いや言い方をポジティブにする
否定的に叱るのではなく、言葉使いや言い方をポジティブにすること
コツ⑤一緒に考えて、相手に答えを出してもらう
叱る前に、「なぜ、できなかったか」を「相手目線で一緒に分析」して相手に答えを出してもらう
コツ⑦「どう思う?」と聞いてみる
「なぜなら」を説明、そして相手に「どう思う?」と聞くこと

ヴィランティ牧野祝子著「ポジティブフィードバック」より

 以上が、本書の概要になる。

 本書を購読した私の所感を、以下に記載する。
ポジティブフィードバックの大切さは何気なく感じていたが、論理的、系統的に、言語化されることにより、ポジティブフィードバックへの理解が明確になった。
・本書に書かれている内容は、ビジネスの場に限らず、さまざまな場面において、他者との良質なコミュニケーションを築くために、適応可能なコミニュケーションスキルである。
・内容は、極めて実践的で、すぐにでも、実行可能な内容である。

 本書には、ポジティブフィードバックの実例の紹介も記載されており、本書を購読すると、より理解が進むと思われる。ポジティブフィードバックに興味を持たれた方には、一読をお勧めする。

 最後に、本書のおわりに、著者が記した内容に感銘を受けたので、紹介する。

 私には先天性の障がいがある娘がいます。
 彼女と出会って十数年ですが、彼女を通じて多くの方々から受けたポジティブフイードバックに、私は何度、救われたかわかりません。
 娘は、1.4キロと非常に小さく生まれ、なかなか成長せず、上海で生活していた時は「特別な」子どもたちのための幼稚園にかよっていました。
 6年前、イタリアに引っ越したのですが、とても驚きました。娘のような「特別な」子どもがいわゆる健常児とされる子どもたちと一緒の学校に通えるというのです。
 とはいえ、当時の彼女は同じ学年のお子さんたちの半分くらいの身体の大きさしかありませんでしたし、言葉も話せません。
 親として、娘が「普通の学校」に通えることを嬉しいと思う反面、不安でいっぱいで、「他の子どもたちに、娘はどう思われるだろうか。迷惑をかけると申し訳ない」「他の親ごさんたちと、どうやって接したら良いのだろうか」と、最初の頃は娘が学校のお友達からお誕生日会に呼ばれてもお断りし、クラスの集まりがあっても徹底して参加しませんでした。
 そんな私達に、学校の先生やクラスのお友達、親ごさんたちは、何度もポジティブフィードバックをくださいました。
 先生からは、「彼女は人懐っこくて、誰からも好かれているよ」。
 お友達からは「私のお誕生日会に必ず来てね」。
 通信簿にも「去年に比べ少し集中力がついたようです。〇〇〇の分野を今年は頑張ろう」。
 彼らは娘に対しても他のお友達と同じように接してくれるだけではなく、娘の成長に合わせて、良いところも改善点も、ポジティブフィードバックを頻繁にくれたのです。
 人知れず、彼女を世の中に迎えたことに「責任感」と多少の「申し訳なさ」を感じていた私の心は、彼らからのポジティブな言葉がけに、だんだんと「誇り」と「嬉しさ」に変わっていきました。そしてだんだんと、私も娘のクラスの親ごさんと親しくしていただいたり、放課後に遊んだりするようになりました。
 おそらく、先生や親ごさんたちは、自分たちが何気なく発した娘に関するポジティブな言葉が、親である私をどう勇気づけ、どう自信を与えたかを知らないでしょう。
 何気ないポジティブフィードバックが、相手にとっては一生の思い出やその人の原動力になるのです。

ヴィランティ牧野祝子著「ポジティブフィードバック」より


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