堤未果「堤未果のショック・ドクトリン」幻冬舎新書 書籍レビュー
本書は、カナダのジャーナリストであるナオミ・クラインが2007年に出版、世界的なベストセラーとなった「ショック・ドクトリン」の影響を受け、現在、日本で繰り広げられている「ショック・ドクトリン」を、国際ジャーナリストの堤未果氏が解き明かした書籍である。
ショック・ドクトリンとは、ナオミ・クラインが、先の書籍で提唱した
のことである。
ここで、堤未果氏に触れる。堤氏は、東京生まれの国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学卒業後、ニューヨーク市立大学で国際関係論で修士号を取得。国連、野村証券などを経て現職。米国と日本を中心に政治、経済、医療、教育、農政、エネルギー、公共政策について、公文書と現場取材に基づき各種メディアで幅広く発信を続けている。
それでは、本書の概要に触れる。
本書は、
〇著者とショックドクトリンとの出会い
〇日本で繰り広げられているショックドクトリン
・マイナンバーという国民監視テク
・コロナショックドクトリン
・脱炭素ユートピアの先にあるディストピア
の内容で、日本で起きているショックドクトリンに警鐘を鳴らしている。
初めに著者とショックドクトリンについて、語った内容に触れる。
著者は、2001年9月11日にアメリカで発生した同時多発テロを現地で経験する。当時、米国野村証券に勤務していた著者は、同時多発テロが発生した世界貿易センターに隣接する、世界金融センタービルで勤務していた。テロが発生した時、逃げ惑う人々の中に著者がいた。
けれど、本当に怖かったのは、テロ当日ではなかったと著者は語る。翌朝、家々にはアメリカの星条旗が掲げられ、アメリカ国民がテロとの戦いに駆り立てられていた。TV、ネットのニュースは、反テロ一色。国会では、巨額の軍事予算、愛国者法がスピード可決される。愛国者法は、テロリストからアメリカの治安と国民を守るため、通話記録の収集をはじめ、当局が国の隅々まで監視する権限を持つというもの。かって日本にあった治安維持法を思わせるものである。テロ対策という新しい予算枠を得て、軍事産業や民間軍事会社、警察に諜報機関にセキュリティ産業などは、毎年エンドレスに税金が投入される安定した巨大利権を手にする。アメリカは、この後、イラク戦争へひた走る。自由の国アメリカに、憧れ、アメリカで働いていた筆者は、自由が奪われ、監視国家になったアメリカに幻滅し、アメリカで働くことをやめ、日本に帰国する。
失意の中、自分自身を見つめる中、筆者は、嫌っていたジャーナリストだった父の生き方に触れ、ジャーナリストになって、アメリカに戻ることを決める。そんな中、ナオミ・クラインの「ショック・ドクトリン」と出会い、彼女のジャーナリストとしての活動のヒントとなる考えに触れる。著者は、この一冊の本が、自分の次の大きな扉を開いてくれたと語る。
その後、筆者は、社会の矛盾、弱者が搾取されている事実を、社会に対して、書籍を初めとする様々な媒体で発信し、注目のジャーナリストとなる。
そんな著者が解き明かした日本のショックドクトリンを、次に紹介する。
〇マイナンバーという国民監視テク
1)マイナンバー導入の経緯
住民情報を全国市区町村で共有化して行政の利便性を上げるため、2002年に住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)が導入される。14年間で2000億円の税金が投入されながら、普及率はたった5.5%。(実は、全国9か所に設置された財団法人地方自治情報センターに、総務省から天下りした役員たちの高額報酬として流れていた。)
そんな中、さらなる情報の一元化、加速を目的とし、2016年マイナンバー制度が導入される。天下り利権が叩かれていた「地方自治情報センター」の看板は速やかに外され、「地方公共団体情報システム機構」という新しい看板に付け替えられることになる。
2020年新型コロナウイルスの感染が始まって、緊急事態宣言が発令される中、補助金給付の効率化等の目的で、デジタル政府の基盤を早急に整える名目で、マイナンバー制度の導入が加速される。
政府は国民のマイナンバー登録を加速させる目的で、登録者への給付金制度を打ち出すが、申請期限切れ直前の2022年8月末時点で申し込みは5割以下。困り果てた政府が打ち出した対策が、2024年秋、紙の保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化する案であった。
これにより、マイナンバーカードの取得は、個人の選択の自由であったものが、実質的には義務化になった。セキュリティ問題等が多く起こる中、国民の多くが不安を抱えているのにもかかわらず、政府はマイナンバーの実質義務化に邁進しているのが現状である。
2)マイナンバーカードが抱える問題
筆者はマイナンバーカードが抱える問題点に、多数の指摘をしている。その中で、ポイントとなるものを上げる。
①マイナンバーカードへの過度な情報の集約(情報漏洩時のリスク)
さらに、新型コロナパンデミックというショックの下で、ろくな審議もないままにスピード可決されたデジタル関連法案では、
・マイナンバーに紐づける情報は、マイナポータル上では、国会を通さなくても変更可能
・個人データが盗まれるなどしても自己責任。デジタル庁は責任を取らない。
の制度改正まで行われている。
アメリカの社会保険番号が書かれたカードには、絶対持ち歩かないでくださいと、注意喚起が印刷されており、金庫に保管しておく。理由は、番号を盗んだ犯人が本人になりすまし、犯罪を犯す事例が多数あるためとの事。
極めてリスクの高いものを事実上、強制的に取得させられ、それを持ち歩かざるを得ないのが、日本人が置かれている実情である。
②マイナンバー制度に群がる利権
・マイナンバー普及の広報を行うのは広告代理店大手の電通。デジタル庁から第一段マイナポイント事業費139億7000万円続き、第二段CM活動も49億7000万円で受注している。初代デジタル大臣は元電通マンの平井衆議院議員である。
・政府からマイナンバー関連事業を受注したのは、NTTデータ、NEC、日立製作所、富士通。4社で自民党に2億4000万円の寄付をしており、総務省をはじめ関係省庁の官僚が「回転ドア」をくぐって大量に天下りしている。導入初期費用約3000億円と毎年の維持費300億円、セキュリティ対策などの関連費用も含めると1兆円の事業規模である。
・デジタル関連で、直接政府に政策提言をしている竹中平蔵委員が元会長をしていた、人材派遣会社パソナグループは、マイナンバーカードの管理・運営事業をパッケージで受注している。
マイナンバー制度でも、ショック・ドクトリンのもと、政府と企業の間をキーパーソンが行き来する「回転ドア」は、回り続けているのである。
〇コロナショックドクトリン
2020年の5月、日本政府が緊急事態宣言を出した翌月、アメリカのトランプ大統領は、新型コロナワクチンの緊急開発計画である「ワープ・スピード作戦」を発表する。
民間の製薬会社と国立衛生研究所、国防総省などが連携し、通常は5年かかるワクチン開発を8か月に短縮。年内に1億人分を供給することを目指すこの計画には、緊急事態の名の下に、100億ドル(約1兆円)という莫大な政府予算が確保される。
しかし、ワープ・スピード作戦は、開発期間短縮のために、通常のワクチン開発で必ずクリアさらなければならない多くの安全テストが外されていた。
そして、アメリカFDAのワクチン諮問委員会メンバーには、コロナワクチンを世界中の政府に販売し、巨額の利益を得たファイザーの関係者が多数含まれていた。そしてトランプ大統領が任命した「ワープ・スピード作戦」のスラウイ主席顧問は、モデルナの取締役。スコット・ゴットリーブFDA長官はファイザーの取締役にヘッドハンティングされていた。
コロナ禍のアメリカでは、ショック・ドクトリンの、官と民の回転ドアが激しく回っていたのである。
日本においても、ファイザーやモデルナのコロナワクチンを爆買いしていた日本政府に続く回転ドアも回っていた。
国際医療福祉大学で、厚労省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの和田耕治委員は、2022年8月に、ファイザーのワクチンメディカルアフェアーズ部門の部長に栄転。ワクチン分科会の坂本昇委員は、ファイザー臨床開発部長を5年勤めていた。
日本政府は、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、ノバックスから、合計8億8200万回分、金額にして2兆4037億円の新型コロナワクチンを爆買いした。一方で、日本では、2023年2月までに約7783万回分、ざっと2000億円分のワクチンが廃棄されている。
著者は、コロナ禍で、日本に仕掛けられたショック・ドクトリンに、こう警鐘を鳴らす。
以上が本書の概要である。
私が本書を通じた学びは、
・国の政策、大手マスコミが発信している情報であっても、鵜呑みにすることなく、自分の頭で考え、判断することの大切さ
である。
最後に、著者が”おわりに”に記した内容が印象に残ったので紹介する、
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