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映画に観る整理収納 Vol.11       「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」編

観そびれた映画をホノルルからの帰りの機内で観ることができた。
想像を超えたエンターテインメントと心にぐっとくるヒューマンドラマの融合だった。

開始当初は設定を理解するのに少々時間を要したけれど、荒唐無稽な設定は実はシンプルなテーマを混沌とする日常の表現だったようだ。

父の世話やコインランドリーの経営に苦慮しながら頼りない夫ウェイモンドと暮らす主人公のエブリン。一人娘ジョイはレズビアンで、いつからかケンカが絶えず、本心を分かり合えずにいる。
エブリンはままならない日常にイライラを募らせ、口調も強く、自分以外は全て否定する勢いだ。
ところがそんな日常ががらりと変わる出来事が起こる。
コインランドリーの税金納付のトラブルで役所に行ったのをきっかけに、
エブリンはマルチバースの世界と繋がり、別次元の自分と行ったり来たりを繰り返して、果ては地球を救うという壮大なストーリーだ。

物語の最初はテーブルの上の領収書の山に埋もれ、仕事に介護に家事にと分刻みで押し寄せる「やらなければいけない」ことをイライラしながらこなしているエブリンが映し出される。

そのテーブルはおそらく食事をとるテーブルでもあるのだがそのスペースはほぼない。
食事をとるときにザーッと端に寄せるのか、片付けるのか、整理収納アドバイザーとしては気になってつい手を出したくなる状況だ。
でも問題はそんなところではないのだ。(いや、そこも問題だけれど)

エブリンはまず本音で生きているのか?
良き母、よき妻、よき娘、そしてよき経営者でもあるために、
教科書通りの自分の役割をこなす毎日に「本当の」エブリンは爆発寸前だ。

「こんなはずじゃなかった」
「父や娘や夫のためにこんなに頑張っているのに」
誰もわかってくれない(特に夫💦)

一方、夫や娘はどうだろう?
ちょっと頼りなくていつもエブリンに怒られているけれど人の良い、町の人ともうまくやれている夫、そのセクシャリティーを母(本当は祖父)に受け入れてもらえないけれど恋人とはうまくいっている娘。
二人とも本心はエブリンと仲良くしたいのだ。
そして二人はエブリンよりは本音で生きている。

様々なことに忙殺される毎日や大事な人から認めてもらえないことはとてもつらい。「自分の人生は意味がないのではないか」と自問自答するだろう。
「やらなきゃいけないこと」で日々を埋め尽くして、向き合わなければならないことから目を背けていれば「自分の存在意義への不安」という痛みからは逃げられる。
でも心はドーナツの空洞のように空虚なままだろう。

そんな心の奥の奥に圧倒的な虚無感をジョイの分身ジョブ・トゥパキは抱えている。
娘との関係がそこまで最悪になる前に何度かチャンスはあったのだけれどエブリンは選択を間違えてしまった。
人生は選択と戦いの連続だ。ただ、その戦い方で人は大きく変われるということをエブリンはいつしかウェイモンドから教えられるのだ。
ちっぽけな自分と、分かり合えない世間と、足掻き力づくで戦うのか、それとも愛とユーモアで共に道を探すのか。
そうやって選びながら生きていくうちに諦めたくないこと、諦めてはいけないことがきっと見えてきて、それこそが長くて短い人間の一生の中のほんのわずかな意味なのだ。
どちらを選択しても、その先にたとえどんな結末が待っていようとも、その後もずっと人生の選択は続いてゆくのだ。だとしたら?自分はどうしたいのか。

エブリンが額に目を付ける場面があるが、これは明王をイメージさせる。第3の目は「真実を見抜く力をもつ」ともいわれているのだが、エブリンは次第に自分にとって何が大切なのかを悟っていく。そして、自分の人生の中での「正しい選択」ができるようになり、それと共にいつもパニックになっていた日常が落ち着きと優しさをまとっていく。

「選択」に絡めて言うと、整理収納はモノのに限ったことではない。
自分に本当に必要なモノなのか、考え、向き合い続けることによって
自分の暮らしや生き方をも選択する力を得ることができる。
選択ができるようになると部屋や空間も自然と整ってくるのだ。
逆にモノが整ってくると、物事の選択ができるようになり、気持ちも安定してくる。

何度か選択を誤ってしまったエブリンだが、 
人生は長い。やり直せるのだ。
アドバイザーとしては今後のエブリンの暮らしぶりを見たいところだが
きっと笑顔を取り戻し、食卓は食卓として機能する空間を手に入れるだろう。なぜなら愛する人との穏やかな日常がエブリンにとって何より大切と気がついたのだから。

※記憶を頼りにレビューをしておりますので物語の内容、名称などにずれが生じている場合があるかと思いますが、ご了承いただけましたら幸いです。

※「映画に観る整理収納」Vol.1~9はブログ「ひまづくり日記」に掲載しております。万が一見てみたい方はこちらへどうぞ。


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