『歌と物語の絵』@泉屋博古館東京の《是害坊絵巻》など。
ギロッポン
《是害坊絵巻》が展示されてると知って、どうしても行きたかったこの展示。
今月頭からの猛暑で身体も脳もへろへろにバテてしまって、これはもう行けないかな…とあきらめかけていたけれど、ここ数日は常識的な気温に戻ってくれたのでチャンスを逃さず六本木へ。
六本木一丁目駅から、エスカレーターが直通で「泉屋博古館東京」まで続いてた。道に迷いようが無くてありがたい。
《是害坊絵巻(ぜがいぼうえまき)》
とにかく楽しみだったのは、是害坊という天狗を描いた14世紀の《是害坊絵巻(ぜがいぼうえまき)》。
是害坊というのは『今昔物語集』にも登場する、震旦(中国)から日本に渡ってきた大天狗。
ついでに言うと、黒田硫黄の『大日本天狗党絵詞』の「Z氏」の本名。
大天狗・是害坊は大口を叩きながら自信満々で比叡山の高僧に法力対決を挑むもあっさり敗北。
満身創痍で倒れ伏していた是害坊を、比良山の天狗・聞是坊や愛宕山の天狗・日羅坊をはじめとする日本の天狗たちが救助。
賀茂川の河原でお風呂に入れるなどして手篤く手当てしてやり、すっかり完治した是害坊を送別するために歌会まで開催してあげた、というお話。
この絵巻を私が知ったきっかけは小学館の『日本古典文学全集23 今昔物語集(三)』。
この本の口絵にカラーで載っていたのを見て、その可愛らしさとユーモアでいっぺんにファンになってしまった。
展示されていた実物は撮影禁止だったけれど、ポストカードが2種類出てたので2種類とも購入。
ポストカード
ポストカードには載ってないけど、この絵のさらに左のほうに、担架に乗せられて「もっとそっと運んでくれ」と弱々しく訴えながらふんどし一丁で運ばれていく是害坊が描かれていた。
うちに帰ってきて気づいたけど、この日私が泉屋博古館で見た《是害坊絵巻》は、小学館の『今昔物語集(三)』に載っていた《是害坊絵巻》とは別物だった。
別物と言っても、描かれている絵は同じ。
ただ、絵柄が少し違っていて、別の人が描いたらしいこと、つまりどっちかがどっちかを(あるいは両方が同じ絵を)写したことが分かる。
描いた絵師の人柄が反映されているのか、それぞれの絵に描かれた天狗の表情を見比べると、ちょっとキャラが違っていて面白い。
泉屋博古館の《是害坊絵巻》の日本の天狗たちの表情は「やれやれ、しょーがねーな」感が強め。「こいつ口ほどにも無えな」とか思いながら介抱してやっている感じ。
それに較べると小学館の本に載っていた《是害坊絵巻》の絵の天狗はもうちょっと人が良さそう。「あらあら、大変だこりゃ」と言ってそうな顔つき。
台詞
展示のキャプションには簡単なあらすじしか書いてなかったけど、小学館の『今昔物語集(三)』にこの場面の台詞が全部書いてくれてあったので抜粋。
「痒いところ掻いてくれえ」と、洗ってもらいながらぬけぬけと言う是害坊のふてぶてしさと、(やれやれだぜ)と困った顔で介護してやっている日本の天狗たちの甲斐甲斐しさの対比がなんとも言えない味わい。
この絵を本で見たときは、いつか自分が(別の絵師だけど)ナマでこの絵を見られる日が来るとは思いもしなかった。
しみじみ嬉しい。
そのほかの作品
是害坊以外の作品もけっこう楽しめた。これは撮影可だった《三十六歌仙画帖》。
イベント直前の同人作家みたいな人の絵ばっかり並んでいて、親近感が湧いた。
菊池容斎の擬人化漫画
あとは、撮影不可だったうえにポストカードも無かったのが残念だったのだけれど、菊池容斎の鼠の嫁入り&狐の嫁入り(正式な作品名は《鼠狐言帰図巻》)が最高に私好みで素敵だった。
菊池容斎と言えば、考証も技術もしっかりした、骨太な歴史人物画を描く人、というイメージだったけれど、あんな可愛い擬人化マンガも描く人だったなんて。
ますます好きになってしまった。
小さいけれど画像が載ってるサイトがあったのでリンク貼っときます。
https://www.museum.or.jp/eto-colle/2020/724
次の予定があったので、見終わったらすぐにまた六本木一丁目駅へ。
でも緑に囲まれた喫茶室が居心地良さそうで、だいぶ後ろ髪を引かれた。
それは次来た時のお楽しみということで。