丸善でノート購入のち、出光美術館『物、ものを呼ぶ』展。
はんこノート
かれこれ十年くらい、岩手在住の手製本ノート作家「すずめや」さんの文庫サイズのノートに手書きで日記を書いている。
普段は通販だけど、今月は東京に来ているとのことだったので丸の内丸善へ。
「すずめや」さんのノートは表紙が書き下ろしの抽象画で一点物になっているノートがたぶん一番人気なのだけど、私は昔からノートにスズメがとまっている絵がハンコで捺してある「はんこノート」が好きでこれ一辺倒。
だいたい二〜三ヶ月で一冊使い切って本棚に並べる。
綺麗な佇まいのノートが並んでいるのを見ていると、そこに記録された自分の日々がとても大切なものに思える。
自分で自分を見下さない、見くびらないための、大切な道具のひとつがこのノート。
出光美術館へ
歩いて行こうとすると道に迷うので、素直に東京駅から電車に乗って有楽町駅へ。
有楽町駅から徒歩5分、5月に仙厓さんを浴びるほど見て以来の出光美術館。
一番の目当てだった《伴大納言絵巻》は、やっぱり良かった。
でもそれ以外にも嬉しい出会いがいくつもあった。
定頼集(藤原定家筆)
一番嬉しかったのはこれ。
ガラスケースの中に、今日私が買ったノートよりちょっと大きいくらいの手帖が開いてあって、そこにあのお馴染みの「定家様」(いちおう書いておくと私が舞い上がって「ていかさま」と呼んでるのではなくて、「ていかよう」。定家のスタイルの書という意味)の独特な筆跡が黒々と鮮やかに。
でもサイズのせいもあって、ちょこちょことしていて、なんだか親しみが湧く。
展示の説明文に、
「ザ・くせ字」
と書いてあって笑ってしまった。
(この文言、残念ながら図録には収録されてなかった)
あの定家さんも、てのひらサイズの小さなページに好きな歌や忘れたくないことをちょこちょこと書く時間がきっととても好きで、大切だったんだろう。
許されるものならガラスケースにへばりついてずっと見ていたかった。
絵因果経(奈良時代)
今日の「なんだこれ」大賞。奈良時代に描かれた、釈迦の生涯をお経とイラストで解説した作品。絵巻物の先祖と言われているのだそうで、有名らしいけど私は今日初めて見た。
すごい画風。
人間は3~4頭身くらいで、表情やポーズは図画の時間に小学生が描いた作品のよう。配色はインドの雑貨っぽく、神獣や龍らしき生き物たちには迫力が全く無い。どこを見ても「日本で描かれた作品」とはちょっと思えない異質さ。
でもこれが、奈良時代の日本の人が見ていた世界の見え方なんだ。
伎楽が演じていたのも、きっとこういう世界だったんだろう。
中務集(伝西行筆)
これも実に使いやすそうな大きさのノートに、ぴしっとした筆跡できちっぴしっと歌が書いてあった。
使っていたノートが使いやすそうだとそれだけでその人に一目置いてしまう。一方的に文具好き仲間として認定してしまう。
でもよくよく考えたら、この人や定家さんの場合は私のノートと違って、書いたあとで綴じたのか。と、家に帰ってから気づいた。
橘直幹申文絵巻(鎌倉時代)
正直に言うと《伴大納言絵巻》よりこっちのほうが面白かった。
伴大納言絵巻ほど絵が、とくに人物の描き方が「巧く」ないぶん、かえって表情が生き生きして見えた。
題材が「内裏の火事から家財道具を救い出す」という、伴大納言の応天門炎上に較べたら地味な出来事であるぶん、描いた人も等身大の実感をこめて描けたのかもしれない。
鳥獣花木図屏風(伊藤若冲)
若冲の白象を見ていると文句無しにハッピーになってしまう。
江戸名所図屏風(江戸時代)
《洛中洛外図屏風》のお江戸版みたいな屏風。描かれている人間の数は2000人以上とのことで、洛中洛外図屏風は2728人だからそれよりは少ないらしい。
会場で実物を立ったままじっくり見るのはすごく疲れそうだったので、実物で鑑賞するのはちょっとだけにして、あとは家に帰って図録で見ることにした。
虫眼鏡で細部をひとつひとつ見ているとついウォーリーを探しそうになる。
ロビー
展示を見終わった後は前回同様、ロビーで冷たいお茶を一服。
出光美術館は建物の建て替えのために年内でいったん休館するとのこと。
新しい出光美術館がどんな場所になるのか、楽しみだけど、この絶景のロビーとお別れするのは寂しい。年内にせめてあと一回は来たい。
12月のトプカプ宮殿展も楽しみ。
このところ図録を買うのはずっと我慢していたけど、今日の展示はとても良かったし、図録そのものも良かったので久しぶりに買ってしまった。
中を見たら、見返しページがロビーの写真だった。
このロビーのことも「はんこノート」に今日の日記としてちゃんと書いておこう。冷茶(無料)が美味しかったことも。
帰りに有楽町駅構内の「ぽん太の広場」で和んだ。