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【ひつじが週報】200104-200110

●200104

今年初営業日は本の話や地元長崎の話(長崎出身者率が高かった)で盛り上がる。話題に上がる著者や作品はその時々で異なるが、わりかし名前が上がるのが伊藤計劃さんで、この日も店内で『虐殺器官』や『ハーモニー』を読んでいる人がいたり、お勧め作家の話でも当然のように名前が出てきた。ひつじがで普段書籍の販売はしていないが、本棚に並んでいるのを見て知った『ハーモニー』を書店で買ったという報告も度々いただく。他の本でそういう動きは今はまだそんなにない中で、別に目立つところに並べているわけでも店主イチオシにしているわけでも(むっちゃ面白いけど)ないこの本がなぜひつじがのお客さんに刺さり続けているのかが不思議。来られる方々の嗜好にあってるってことなのか。

ひつじがの本棚は大半の店主私物と来られた方からの寄贈本で構成されている。後者の割合は2割〜3割ほどで、でもそれが絶妙に本棚の広がりを作っている。一人の嗜好だったらどうしても偏ってしまうけど、関わる人が増えれば増えるほどその偏りが少なくなりバランスが良い形で保たれる。今のひつじが(に関わる人たち)を映す鏡のようになっていて面白い

元々は遠方にいる知り合いが関われる手段として思いついたものだけど、むしろ近くにいる人たちの方が面白がって寄贈本を持ってきてくれる。最近では本持参で初来店してくださる方までいて恐れ多い。これまでは(その方のことがわからないと寄贈者を説明できないし、まずはお店のことを知ってほしかったので)初来店の方からの寄贈は断ってきた。あとは「いらない本」って理由で持って来られたものも断っている(これは今も受け取っていない)。でも最近は事前にひつじがのことを何らかで見て知ってくださった方がわざわざ持ってきてくださるので、初対面だからという理由で断るのは何だか違うような気がしてきてる。来店頻度に関係なく、本を介して話ができるならそれに越したことはない。そのぐらい本好きな方の初来店が続いている。むちゃんこ嬉しい。あとそういう素敵な方が持ってきてくださった本の受け取りを断るのがものすごく忍びない。

長崎土産のカステラをいただいて、それを食べてる大半が長崎出身者だった。

●200105

長期休暇最終日。明日からの仕事に備えて今日は療養、という人が多いのではとの読みがズバリ的中。当たらなくてもいい読みに限って当たるから困る。静かな日は静かな日で作業や読書が捗る。開き直るまでの時間をいかに短くするかが肝で、一旦開き直ってしまえば作業効率は恐ろしく跳ね上がる。それでも22時過ぎまで誰も来ないと流石に心臓には悪い。

ご近所に住んでいてよく通ってくれる方が、高校の恩師の周年パーティーの幹事を頼まれたらしくその相談に来てくれた。数百人規模の集まりらしくどこから手をつけたら良いかとは言ってたが話を聞いてる限り、さすが営業職と言わんばかりの段取りの良さでなんの心配もなさそう。

遠い未来に関係者全員が集まることがあったら、何が難しいって全員と連絡を取ること。仮にひつじがが20周年を迎え(られたらいいなぁ)たとして、じゃあ集まりましょうかって全員に連絡することはおそらく不可能だ。そもそも全員にどこまでの人が含まれるのかわからない。気持ちとしては全員含みたい。これから先もどんどん新しい方との出会いもあり、また逆に一旦離れる方もいて(希望を込めて一旦を添えた)、ひつじがを構成する人たちは日々移り変わる。催しにはその時々で偶然近くにいる人が集まることになるんだろうけど、そうじゃない離れた人にも届ける仕組みは考えないとなあ。まずその前に20年持つのか。

人は楽しいからその場に通うのではなくて、その場が必要だから通う。楽しいから通っている場合もあくまでその楽しさを必要としているだけで、必要じゃなくなったら(満たされたら)通わなくなる。なので楽しさだけをインスタントに提供するのではなく、色んな形で必要としてもらえる場所を目指さねば。特に「学び」や「考えること」を必要としてくれる人に刺されば尚いいな。みたいなことをぐるぐると考えている。

●200106

よく来てくださる方が近々関西に引っ越されるとのことで挨拶に寄ってくれた。借りていたCDを返す。気軽にCDを借りれる距離にいなくなると思うと、少しだけさみしい。ひつじがに通ってくださる方が転勤で福岡を離れるのはまだ二人目。だから慣れないってことでもないとは思うけど、いつか慣れてしまう日がくるのか。大学生の卒業も控えているので、あまり動じないようにはしたい。

当然これで関係性がなくなるわけではないものの、距離の近さ(家の近くにあるから)はそのお店への行きやすさに大きく影響すると思う。自分もこれまで京都、大阪で数年間ずつ生活してきたが、その当時通っていたお店への足取りは土地を離れるとやっぱり遠のいてしまう。とはいえそれは悪いことばかりじゃなくて、離れたからこそそれが近くにあったことの有難みに気づくのもある。今こうして暮らしている福岡にも見落としているだけでそういう場所がまだまだたくさんあるだろうし、いる間に掘り起こしていきたい。と、同時に今ひつじがの周辺に住んでいる人たち(ご近所さん)にひつじががあることをここにあるうちにもっと伝えていかなければなあと年始早々気合いが入った。

風来のシレンをクリアしたはずなのに、ゲームの内容をまったく覚えてなかったことに驚き。面白そうな現代アメリカ文学作品の短編集を教えてもらう。温泉に行きたいなと思った矢先に温泉で働いている人が長期休暇を使って遊びにきてくれる。お菓子をもらう。本を貸してもらう。など動きに飛んだ営業日。忙しさはないものの、全体的にじっくり話ができて濃密な時間だった。

●200107

凪営業。同世代の写真家さんと創作活動について話す。これは写真に限らずだけど、これだけ道具の性能が上がって誰でもある程度「そこそこ」のことができるようになって、そして誰もがそこそこで満足してしまうようになった今、そこそこ以上の価値を提供することの難しさは増していってる。それを提供するのがプロなんだろうけど、受容する側が求めなければどんなものも存在できない。飛び抜けた才能よりも自分よりも少し詳しい身近さが重宝されていて、そういう見せ方が上手な人ほど目立っていて、需要に合わせた供給がなされることは理にかなっているし正しいことなんだろうけど、受容する側の成長にはならないよなあ…とちょっぴり寂しい気持ちになることもある。

これは全然他人事じゃなくて、ひつじがのような店もおんなじ。店が持つこだわりと周辺の人たちが求める需要のバランスが大事で、どちらに傾き過ぎても良くないし、お客さんが少ない日が続けば弱気になることもあるけど、そこで寄せ過ぎても面白くはないし、倒れない程度にこだわりの方に比重をかけるようにはしたい。その上で周りの人たちが自然と乗ってきてバランスが取れたら最高。

●200108

「近くのお店からの紹介で」と初めての方が来られた時に、関わりのある数店舗がパッと頭に浮かぶ。ずっとひつじがを勧めてくださるカフェがあって、この日もそこ経由。僕もそのお店が大好きなので、お勧めにあげてもらえるのが嬉しいし、それを聞いて実際に足を運んでもらえるのも嬉しい。その方は普段まったく本を読まないとのことで、「入っても大丈夫ですか?」と冒頭確認された。もちろん大丈夫。ブックバーという仰々しい冠をつけているので誤解されがちだが、必ずしも本を読まねばならないわけではない。むしろ気を遣わせてごめんなさい。と、話をしていると同郷であることがわかり(九州でお店をやっていると同郷の方によく会う)、その方の隣に座っていた方も話に加わり、本の話に。まったく読まないと言ってたが、以前電車通勤をしていた頃は車内で読んでたので、久しぶりに読みたいと、隣の方がお勧めされた小説のタイトルをメモされていた。

近くの飲食店さんからのご紹介なので必ずしも本に興味がある方とは限らない。でもそれで良くて、そういう方が何かしらで本に興味を持ってもらえたら最高。お酒もおんなじで、例えば普段はほとんどお酒を飲まない読書家の方が本きっかけでひつじがを知り、そこでお酒に興味を持ってもらえたら最高。そもそもの目的じゃないところで刺されば面白いし、楽しむ人口を増やすためにそういう立ち位置の場所は必要だと思う。ひつじがはそれ(入口)で良い。

●200109

凪営業。2ヶ月間8カ国の海外旅行から帰ってきた大学生が来店。土産話を聞きながら、旅行中に書いていたノートを読ませてもらう。世界を見て日々感じたことが赤裸々に書かれていて良かった。就職活動の時に習慣にしていた「ノートを取ること」を終わっても引き続き習慣化していて偉い。

就職活動の最中だけ頑張るのが大多数だと思うけど、個人的には(せっかく一度習慣にしたのに辞めるのは)物凄く勿体無いなと思う。やってること自体は就活に限らずありとあらゆる場面で役に立つことばかり。今も習慣で続いている子は就活の最中もやらされ感なく面白がってたし、同じことでも嫌々取り組むのと楽しく取り組むので効果は全然違う。だからこそ練習の一つとして就活を面白がる方向に持っていきたいし、面白がる思考はその後長く役に立てばと思う。課題は多い。

●200110

京都から大学生が遊びに来てくれたり、大阪時代の友人が福岡転勤で寄ってくれたり、熊本から作家さんが来てくれたり、色んな地域の人たちと話して連休だったと知る。とはいえ上にあげた3人は特に連休の影響は関係なかったことをさらにその後知る。店の中だけじゃなくて、外でも色んな地域で色んな人と顔を合わせてきたので、折々で出会った人たちがこうやって足を運んで近況を話してくれるのは嬉しいし、異なる時期に知り合った人たちが同じ空間で過ごしている偶然性がまた面白い。

固定の場を構えている良さの一つとして、(開いている時は)いつでもいけるというものがある。誰かに近況を話したいとして、その人が個人だとまずは予定を聞いてお互いの都合を調整しないといけない。お店の場合は(開いている限り)自分の都合だけつければ良い。当然開店頻度が下がってくるとお店の都合も考慮しなければならなくなるけど、今の所まだひつじがは定休日もなく開いている日の方が多いのでとりあえずこちらの都合は気にしなくても大丈夫です。だいたい開いてるし、だいたいいます。

とはいえずっとお店を開けている(外に出ない)ことが必ずしも良いとは限らないので、この辺りもバランスを考えなければならない。課題。