私のカラダのこと、一番分かってるのって私なんだけど、信じる? #テレ東ドラマシナリオ


■ 主な登場人物は

アスミ(20代)  割と新人の女性操縦士
ユタカさん (50代)  割とオジ様なイケメン機長
イソノさん(40代後半)  口うるさいお局的チーフCA
ルナちゃん (年齢不明)  飛行機


■ ざっくり言うと

割と新人の女性パイロット、アスミ。
密かに憧れていたオジ様パイロットと、同乗することになったのは良かったんだけど、
「このコクピットでオジ様と長時間2人っきり、きゃーっ♡」
なんて、むふふな妄想をしていたら……飛行機が喋りだした。

「私、ちょっと具合悪いのよねー」
再点検しても異常は見つからないし、だけど、飛行機は具合悪いって言い続けてるし……。
飛ばしていいの? 飛ばさないのがいいの?

おまけに飛行機のくせに、私に嫉妬してるみたいだし……。
もしかして、飛行機が具合悪いのってそのせいなの?

オジ様への下心と、パイロットのプライドとの間で揺れ動く、
密室系トラブルコメディ!


■ くわしく


「ユタカさん、長い間お疲れさまでした」

CAから花束を渡されているユタカさん。
一同から拍手されて、

「ありがとう」
はにかんだ笑顔で花束を受け取るユタカさん。

「ユタカさんのあの笑顔……」

「……ガチで尊い」
うっとりした表情で見つめているアスミ。

ここは航空会社のオフィス。
そしてユタカさんはわりとベテランのパイロット。
50歳になったかならないか、それくらいの年齢。
とはいえ、わりと穏やか系のイケメンで、おっさん臭さは微塵も感じさせない。

今ちょうど、そんなユタカさんのラストフライトのセレモニーが行われていた。早期退職して、田舎でのんびりと暮らすらしい。
アスミがぼんやりとしていると……、

「今日はよろしくね」
とユタカさんから肩をぽんぽんとされた。

「はいっ、私こそよろしくお願いしますっ!」
慌てて返事するアスミ。

そう、今日のラストフライト、
副操縦士として私も一緒に乗ることになっている。
ユタカさんのご指名なんだとか。


「もしかしてユタカさんって、私のこと……」
なんて妄想をしていたら、

「しっかりしてちょうだい。ユタカさんのラストフライトなんだから」
イソノさんに釘をさされてしまう。
イソノさんは40代後半、やたらアスミのことを目の敵にしている。

「ちっ、あの(ピー)」
心のなかで毒づくアスミ。

***

そしてオフィスの一角で2人きりの打ち合わせ。
真剣なユタカさんの横顔をうっとりと眺めているアスミ。

「じゃ、アスミさん、それでいい?」
「あ、はいっ……もちろんですっ!」

アスミ、上の空で答える。


***

コクピットにやってきたアスミ、

「このコクピットでオジ様と長時間2人っきり……、きゃーっ♡」
一人で盛り上がっている。そして……、

あは~ん♡
とか、

うふ~ん♡
な妄想をしていると、


「飛行前点検おわりました。異常なしです」
整備士から連絡が入る。

「そうそう、ラストフライトを無事に成功させることが、ユタカさんが一番喜ぶことなんだから」
我に返って気合を入れ直すアスミ。

「ん、んっ」
作業を始めた途端どこからともなく聞こえる咳払いの声。

「へっ?」

不思議に思って周りを見回すアスミ。
なんだ、気のせいか、と思っていると、


「オシリがカユイです」

再びどこからともなく聞こえる声。
そのタイミングで入ってくるユタカさん。

「ユタカさん。今なにか言いました?」
「いや何も? どうかしたの」
「いえ、なんでもないです」
「僕はもうちょっと機体の外部点検してくるよ」
「でも、今異常なしです、って整備士から」
「名残惜しいんだよね、最後だから」
「ですよね、了解です。こっちは私がやっておきます」
「うん、頼むよ」
「ところでこの機体、自動音声システムとか付いてましたっけ?」
「ついてないけど、どうかしたの」
「いや、じゃあいいんです。私の気のせいです」

的な会話を交わして、ユタカさんは出ていってしまう。


「よし、ユタカさんためにも、がんばらなきゃ!」
気を取り直してコクピットのセットアップをしていると、


「ふぁぁぁ、だるいで、ほんまだるいわ」
再び声が。

「誰っ?」


「誰って、私やがな、ルナちゃん」
「ルナちゃん?」
「あんたが今乗ってる、これ」
「これ? 飛行機?」
胡散臭いコテコテの関西弁で受け答えする飛行機のルナちゃん。

「嘘でしょ?」
「嘘なことあるかいな。ウインクしたろか」

と機内の照明をチカチカさせるルナちゃん。

ピロロロロ、ピロロロロ。


「ちょっと、操縦室、なにしてんのよ!」
すかさず、イソノさんからクレームの機内内線がかかってくる。

「すみません、ほんとすみません」
平謝りするアスミ。


「どやっ!」

自慢げな飛行機のルナちゃん。


「どや、じゃないわよ、バカ!」

「さっきも言うたけどな、尻カユいねん」
「どゆこと?」
「にぶいなぁ、尻んところに異常ある、言うてんねん」
「でもさっき、整備士さんから……」
「あほか、整備士は整備士や。どっち信じんねん、自分」
「でも整備士さんはプロですから」


「はぁっ?! もっかいチカチカさせたろか?」
と、機内の照明をチカチカさせるルナちゃん。


「ちょっと、操縦室! なにしてんのよ!」
イソノさん、今度はコクピットにすっ飛んできた。

「すみません、ほんとすみません。ちょっと疲れてるみたいで……」

「ちゃんとしてよね。ユタカさんのラストフライトなんだから」

「はい、ほんとすみませんでした……」
平謝りのアスミ。
プンスカしながら出てゆくイソノさん。


「で。やるの、再点検? なんならもう一回……」

「……わかったわよ」
仕方なく、尾翼の再点検を依頼するアスミ。


***

「あんっ、そこぉ♡」

「はぁ?」

「整備士さんが私の敏感なところ弄ってるの……」

「あっ、そこぉ♡ あっ、いや~ん♡」

「……。」

ルナちゃんの卑猥な喘ぎを、ジト目で見つめるアスミ。
そして……、

「異常ありません」
整備士からのそっけない回答。

「……ほら、異常ないってよ」
「あかん、あいつはヤブや」
「プロの整備士に対して、ヤブって言うのは流石に失礼なんじゃない?」
「せやかて、尻カユいねん、しゃーないがな」
「気のせいじゃないの?」

「私のカラダのこと、一番分かってるのって私やねんけど? 信じる?」

「えーっ?!」
アスミとルナちゃんがそんなやりとりをしていると……。


「なんだか、尾翼を再点検させたみたいだけど」
入ってくるユタカさん。

「なんか、尾翼に異常があるって言ってるんですよぉ?」
「言ってる? 誰が?」
「飛行機です、この飛行機」

「喋るの? この飛行機? へぇー」
いたずらっぽく問いかけるユタカさん。

「しゃべるんですよ。不思議なことに。実際に今だって……」


「……。」
ルナちゃん、だんまり。


「ちょっと! なんか喋りなさいよ!」
ブチ切れるアスミ。

「でも、僕はうれしいな。念入りに準備してくれてるってことだよね」
「あ……はい……」
「でも大丈夫だよ。プロの整備士が2度も点検してくれたんだから」

ユタカさんになだめられて、準備を再開するアスミ。
今度は隣にユタカさんが座っている。


「ちょっと。仲よさげやな、あんたら」

隣では黙々と準備しているユタカさん。
ルナちゃんの声は聞こえていないらしい。

「ちょっと、女操縦士。何か答えぇや、聞こえてんねやろ?」
アスミも聞こえないふりで準備を続ける。


「あーあ。 飛ばすん? ほんまに飛ばすん?」

「ちょっと黙ってて!」
ルナちゃんにブチ切れるアスミ。

「大丈夫?」

訝しげな表情でアスミを見るユタカさん。

「大丈夫です。続けましょう」

「知らんよ、落ちてもしらんよ、私のせいちゃうよ」
「私ちゃんと言うたもんねー」


「……。」

迷っているアスミ。
迷っている……。
迷っている……。

そしてアスミ、何か決断した表情に。

「ユタカさん、お願いがあります……」


***

「はぁ?! あんたバカじゃないの?!」

アスミを怒鳴りつけるイソノさん。

「あんた、分かってるの? 今日はねぇ、ユタカさんの大事なラストフライトなのよ!」

ここは機内の客室。
イソノさんたちCA全員と、整備士、そしてアスミとユタカさん。
緊急ミーティングが行われている。

「僕は大丈夫だと思うんだけどな。でもアスミさんが言うから」
とユタカさん。
「機体に全く異常はありませんでした」
整備士も同意する。

「でも……」
アスミだけが腑に落ちない表情で。

……と、
「いい加減にしなさいっ!」
イソノさん、ブチギレ!


「根拠を示しなさいよ! 根拠をっ!」
おっかない顔のイソノさん。

「この飛行機が喋ったんです! 具合が悪いから私を飛ばすなって」


「うわぁ……」
ざわつく一同。

「具合悪いのはあんたでしょ! 頭ん中、よく調べてもらいなさい!」
イソノさん、怒りを通り越して、半分呆れている。


「まぁまぁ」

なだめるユタカさん。

「いろいろありましたが……フライトは通常通りということで……」
「頼むよ。ねっ、アスミさん」
と、ユタカさんが機長らしくみんなをまとめにかかる。

状況的に、万事休すのアスミ。

「でもダメなんです。……飛ばしちゃダメなんですってば! 絶対にっ!」

アスミ、やけくそになって、叫びながらギャレーに走っていく。


そして戻ってくるアスミ。
その手にはワインボトル。


「アスミさんダメーーーーっ!」

イソノさんの制止も聞かず、ワインを一気飲みするアスミ。

「ぷはぁ。どうよ、これで飛ばせなくなったでしょ!」

ドヤ顔のアスミ。
唖然とするスタッフたち。
そしてアスミは連れ出されてゆく。

アスミのおかげで無事に(?)フライトは欠航になりましたとさ。
                          (おわり)



■ 今回使用したテーマは

石澤大輔さん作の
【#100文字ドラマ】聴こえるはずのない声



■ 最後に

こんにちは、ひとつもです。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。
今回はセリフ多めで書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。


ちなみに6本投稿できることを目標にやってます。
これはそのうちの 6本目です。

ひとつでも、これ好き、って思ってもらえるストーリーがあったらいいなって思います。

台本の本文は、書けたら書きます。





それはもう、とてもとても大切に使わせていただきます。