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『2000年度上智大英文問題の《アニメキャラ白人説》にツッコミを入れる(後半)』2022-10-16

著者の奇妙な「鼻」観

 さて、前回の本文から、著者の「鼻」についての見解をリストアップしてみよう。

「香港にある私のオフィスの外にある新聞売り場では、どのコミックも、丸い目で、ヨーロッパ風の鼻をした、金髪のヒーローを描写している。」

「どのキャラクターも、私の子供たちのような黒髪・細く小さい目・平たい鼻を持っていないのだ。香港マンガの主人公たちは、議論の余地なく、例外なく、白人である。」

「東京でも似たようなルールが当てはまる。漫画のヒーローは高身長で、丸い目、まっすぐな鼻、そしてしばしば金髪だ。日本のアーティストは頻繁に、目を水平よりも垂直方向のほうが長い楕円形のオーブとして描き、鼻にはしばしば鼻梁だけにしかインクを使わず、鼻の穴を無視する。

「南アジアのコミックでは(映画でも)ダークブラウンの肌とインド風の大きくて表情豊かな鼻を見ることはめったになく、ヒーロー・ヒロインは小さな鼻とピンクの肌を持っている。」

「しかし私がこれらに拍手を送るのは、そのためではない。私が賞賛するのは、アラジンが大きい鉤鼻――本当に中東人らしい力強い鼻――を持っているからだ、私の幾人かのアラブ人の友人のように。彼の恋人、ジャスミン姫もまた大きな鼻を持つ。」

「アフリカを舞台にした『ライオン・キング』のムファサ(引用者注:ライオンです)も広くひろがった鼻の穴を持ち、ホット・チョコレートな声をしている。」

 見てのとおりこの英文では、目の形・色や肌の濃さ以上に、くりかえし鼻に着目している。鼻の形状が人種を示す、という著者の信念は、ただごとではない。

 著者の人生に何があってここまで強固なハナ・ステレオタイプを持つに至ったのかは分からないが、どうにも理解しがたいのは「東洋人の鼻を平たいと理解しながら、日本のマンガキャラの鼻は白人風だと思っている」らしいことだ。

 これは我われ東洋人が実際に持っている感覚からは、まったく逆である。
 我われは白人の鼻を高く大きいものだと思っており、白人の仮装をする際には高い付け鼻すら付けたりする。実際に芸能人にそのような付け鼻をさせたCMが「差別表現」と叩かれた実例もある。

 いっぽう、日本のマンガが「しばしば鼻梁だけにしかインクを使わず、鼻の穴を無視する」のは、鼻を小さく、省略して描いているからだ。

 再度クリリンに登場してもらおう。彼には「鼻がないために敵の悪臭攻撃が通じずに勝った」という有名なエピソードがある。

 これは鳥山明が、キャラの鼻をその鼻梁すらも省略して描いていたことについての一種の自虐ギャグだ(彼は『Dr.スランプ』でも、同じ顔をいいことにキャラクターが別のキャラに変装するというエピソードを描き、自分の絵柄を自虐ネタにしている)。
 そしてなぜ省略していたのかといえば、そもそも漫画・アニメの絵では鼻は小さく描かれるのがむしろ普通だからだ。点にしか見えないことも多い。

 高く大きな白人の鼻と、まったく無くなってしまうことすらあるほど小さく省略された日本マンガの鼻。
 なぜそれが同じだという話になるのか。

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