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『「エキストラ男優AV差止事件」の法的検討』2022-10-31

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 2022年10月25日。いわゆるAV新法の「差止請求権」が使われた事案が発生した、という業界の方のツイートが界隈を震撼させた。

 さて、AV新法の「差止請求権」とはどういうものか復習しておこう。
 それはAVの出演者が

・そのAVの発売前~発売後1年間にもおよぶ好きな時点で
・出演強要はもちろん、契約にも撮影にも一切問題がなくとも
・そのAVを法の力で強制的に発売中止に追い込み
・一切の損害賠償責任を負わない

 という制度である。

第四節 差止請求権
 第十五条 出演者は、出演契約に基づくことなく性行為映像制作物の制作 公表が行われたとき又は出演契約の取消し若しくは解除をしたときは、当該性行為映像制作物の制作公表を行い又は行うおそれがある者に対し、当該制作公表の停止又は予防を請求することができる。
 2 出演者は前項の規定による請求をするに際し、その制作公表の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。
 3 制作公表者は、出演者が第一項の規定による請求をしようとするときは、当該出演者に対し、その性行為映像制作物の制作公表を行い又は行うおそれがある者に関する情報の提供 、当該者に対する制作公表の停止又は予防に関する通知その他必要な協力を行わなければならない。

性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律

 引用の下にある小さな「性をめぐる~法律」とはAV新法の正式名称である。本当にこんな法律が国会を通ったというのが狂気じみていて、書くだけで頭がクラクラしてくるような話だが、ようするに差止請求権とは、その作品の制作公表そのものに対する差止なわけだ。 

 筆者もなんどか『シンカ論マガジン』『センサイクロペディア』で同法の問題を取り上げているが、今回はこの件について条文を照らしながら、法的な整理をしたいと思う。

「エキストラ男優」とは何か?

 まずここからなのだが、カリスマAV男優として知られるしみけん氏の用語解説によると、一般的に「エキストラ男優」とはこういうものである。

AV男優業界にははっきりとした階級があり、頂点は「トップ男優」。そこから下へ向かって順に「印紙男優」「男優」「お口のみ男優」「汁男優」「エキストラ男優」と広がっていくという。

最下層の「エキストラ男優」は、例えば電車の痴漢モノなどで壁を作る乗客役や、学園モノで抜けに映っている“勉強しているだけの人”といった具合。「汁男優」は女優には一切触れられず、ただ“出す”だけの仕事。「汁男優」は女優には一切触れられず、ただ“出す”だけの仕事。(強調引用者)

しみけん“AV男優の階級”解説、2番目に位置する「印紙男優」って何だ?

 要するに「エロいこと」はせずに舞台演出の為の背景として出演する男優であるというのが慣用的な用法であるらしい。輪姦プレイ中の1名、のような人も入るのかなと思いきや、含まれない可能性が濃厚だ。

 しかし、実はAV新法の条文には、そもそもこうあるのだ。

第二条 この法律において「性行為」とは、性交若しくは性交類似行為又は他人が人の露出された性器等(性器又は肛門をいう。以下この項において同じ。)を触る行為若しくは人が自己若しくは他人の露出された性器等を触る行為をいう。
(略)
3 この法律において「性行為映像制作物への出演」とは、性行為映像制作物において性行為に係る姿態の撮影の対象となることをいう。
4 この法律において「出演者」とは、性行為映像制作物への出演をし、又はしようとする者をいう。

性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律

 一般的な言葉で出演者といえば、エキストラだろうがなんだろうが出演者なのだが、AV新法では「性行為に係る姿態の撮影の対象」になっている人に限られるのである。
 普通に前掲のしみけん氏の説明する定義でいうなら、エキストラ男優はこの「出演者」には当てはまらない。

 あるいは冒頭のツイート主(もしくは本件の情報をツイ主に伝えた人物)が言った「エキストラ」は、たとえば輪姦プレイ中の一名などの意味だったのかもしれない。普通はそうは言わないようなのだが、そうであればAV新法の「出演者」の定義にはあてまはる。


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「差止請求権」と「任意解除等」の関係 

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