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『ボイパレ(2)、または表現規制反対派への女性参加について』2023-6-27

 前回指摘したように、表現規制反対の多くが男性によって主張されている理由には、男性は女性に比べ、自分の利益にならない他人を守るために立ち上がることに積極的であるということが挙げられる。
 むしろそれこそが社会的弱者や困窮者に対する支援の男女格差が広がる一因になっている。男性が弱者救済に乗り出すとなれば、差別的に男性だけを救うことなどまずない。男性はついついすべての弱者を救ってしまうか、下手をすると(頻繁に下手をするのだが)「レディファースト」してしまうのである。
 その結果、あらゆる社会的な弱者救済策が、女性優遇か、男性に最も有利な場合がせいぜい50:50の男女平等ということになる。

 一方、女性が主張するのは女性の権利である。というか、自分に関連しない限り同じ女性すら支援しないことが多い。なけなしの「女性支援事業」とやらが蓋を開けてみれば公金チューチューだったりする。
 まして性表現規制に至っては、ただの加害である。彼女たちが掲げる子どもたちを含め、誰のことをも守っていない。もちろんこんなものは「他人を守るために立ち上がって」いるうちには含まれない。
 
 よって、女性に限らない誰かを守る、助けるという活動は、いきおい男性が中心となる。表現規制反対運動も規制や弾圧の危機にある表現者を助けるという活動であるから、例外ではない。

 もうひとつの理由は、もともと法を含めた社会のルールは、現実的には女性にかなり甘いからだ。そしてそれを女性自身も理解しているからである。
 東京都の不健全図書指定を考えればわかる。いろいろなジャンルの男性向けの表現が規制され、「女性向けの表現」であるBLが指定の大多数を占めたのは、他に指定するものがなくなった最後の最後であった。
「そんなことはない!BLは外国では男性向け表現のようなあからさまな性描写がないものでも弾圧されてる!」と女性たちは言うかもしれない。たとえば中国やイスラム圏、あるいはロシアではあからさまでないBLも規制弾圧されていることを根拠に。
 男性が自分たちよりもより過酷な状況に耐えている事実を認めることほど彼女らの嫌いなことはないからだ。
 しかし、それらの国がBL的な表現を弾圧しているのは女性向け表現だからではない。弾圧されているのは同性愛そのものであって、それを二次元の形であらわしたり、好意的に示唆したから弾圧されているのである。
(なお、対照的に日本のフェミニストも「ロリコン」「ペドファイル」の表現だとしてアニメ漫画を弾圧しているが、それは本来の憎悪対象がロリ表現なのではなく、むしろアニメを弾圧するとっかかりにする言い訳として子供を持ち出しているだけである。)

 要するに「女性向けの表現」はニーメラーの警句で言えば、ほとんど常にニーメラー本人の立場にいるのだ。彼よりも先にナチスに攻撃された共産主義者や、社会民主主義者や、労働組合員の立場ではなく。

ナチスが共産主義者を攻撃し始めたとき、私は声をあげなかった。なぜなら私は共産主義者ではなかったから。

次に社会民主主義者が投獄されたとき、私は抗議しなかった。なぜなら私は社会民主主義者ではなかったから。

労働組合員たちが連れていかれたときも、私は沈黙していた。私は労働組合員ではなかったから。

そして彼らの手が私に迫った時、私のために声をあげる人は、誰一人残っていなかった。

マルティン・ニーメラーの警句

 つまり女性にとって、ルールが男性同様に自分たちにもそのまま適用されてしまう事態は、非現実的なことだというイメージがあるのだ。

 これは小学校の頃から男子が体感している事実である。と同時に、大人の司法の世界にあってさえ厳然と実在する傾向なのだ。

殺人罪については,女性犯罪の中でも比較的高い割合で発生し,男性と は異なる特徴を示すと言われている。
(略)
平成以降の殺人罪についての第1審裁判所の終局処理人員中の執 行猶予率については,前出の(表―1)に示すように,平均で20.3%となっている。ここでの執行猶予率は,あくまで有期の懲役・禁錮により有罪となったものに占める執行猶予率であるが,この数値と比べると,(表―2―1) に示した平成以降の事例における執行猶予率:42.7%(有期刑においては 43.5%)という数値は高率なものといえる。ここから,従来から指摘されているように,女性が一般に寛大に扱われるとの傾向は,全体的な厳罰化傾向にあっても,なお維持されていると評価することも出来よう。

岩井宜子 渡邊一弘「女性による殺人罪の量刑の変化

 暴行や傷害のような普通の単純暴力犯罪が少ないのに殺人は高い割合を示すというのは、精神疾患者の犯罪統計などにもみられる「お目こぼしされている」属性の特徴だ。
 普通なら暴行や傷害程度なら本格的に立件され起訴されにくい属性のが、殺人までいくとさすがにお目こぼしできなくてこうなる。しかしそれでも非常に執行猶予がつきやすい、というのが女性による殺人の傾向である。

 事程左様に女性は「ルール」を厳格に適用されることが少ない。そのため、穴の多いルールも「どうせ自分たちには運用者が手加減してくれる」と思ってしまうのだ。

 だからこそ女性は「規制反対」への動きがにぶい。いよいよ自分自身の仕事が規制される段階にでもならない限り。今回のあおちゃんぺさんや、月島さくらさん達AV新法に反対するAV女優たちもそうした、ナチに逮捕されそうになったニーメラー達だ。

 その上に、女性は規制反対運動から簡単に離反しやすい。

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