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『ミクを愛する男・殺人鬼を愛する女』2022-09-30

 先日、ある種の筋で有名な近藤顕彦さんが、ディズニーランドにある問い合わせをしたというツイートが注目を集めた。近藤氏は、現在でも根強い人気のVOCALOIDキャラクター・初音ミクと「結婚」したことで知られる人である。
 近藤さんは等身大フィギュアや通常のぬいぐるみなど、数多くのミクグッズを所持しているが、その等身大ミク(本人の言い方では「我が家の大きなミクさん」)を東京ディズニーランドに連れて行っていいかと問い合わせたものだ。

 ディズニーランドの対応は「大きなミクさん」は無理だが、通常のぬいぐるみ程度であれば持ち込み可ということであった。
 近藤さんは自身のミクさんへの愛を性的指向と捉えており、2013年に同性カップルの結婚式を挙げた東京ディズニーランドに、まだ自身の性的指向が受け入れられなかったのは残念としている。
 が、執拗な要求をしたりディズニーランドを罵ったりして炎上を煽るようなこともなく、数年後にまた問い合わせてみようという、ごく穏当な態度を貫いている。

 こうした近藤さんの態度は、たとえば女性専用スペースに対するトランスジェンダーの入場規制へのクレームの付け方などと比べても、極めて平和的なものだ。
 また、2021年にJR来宮駅で降りたいから駅員を集めろとその場に来て初めて要求し、しかもその迷惑行為が計画的なものだったことで批判を受けた伊是名夏子を思い出した人もいた。

 いっぽう私が思い出したのは、ハイブリストフィリアと呼ばれる現象である。

ハイブリストフィリアとは

 ハイブリストフィリア(犯罪性愛)とは、連続殺人犯などが異常な人気を獲得し、ファンレターが殺到したり、果ては獄中結婚まですることがあるという時おり聞かれる話のことである。フィリアと付いていることからも分かるように、パラフィリア(いわゆる性的倒錯)の一種と見なされることがある

 ……のだが、「変態性欲の名前」というやつは何々フィリアとかナニナニズムとかさも学問的な名前がついていても、その学問的に認められた程度はさまざまである。命名者が学者であったとしてもただそれだけのことであったり、単なる俗称である場合もある。
 特に世界的に権威ある診断基準であるICD-11やDSM-5に認められている「変態性欲名」は意外と少ない。これは、そもそも医学的な治療のための基準であるため、単に特殊であるものは対応外になるという事情もある。「確かにヘンっちゃヘンだけど、それって治さなきゃ困るもんなの?」というわけだ。
 実際に多くのパラフィリア診断名や、性欲以外でも行動嗜癖といって「その人がやらずにはいられないこと」を病名とする場合には、多くが「自分または他人が著しく困っている」「その状態が6ヶ月(ものによっては12ヶ月、ゲーム障害など)続いている」などの限定を掛けている。
 これは本人が困っているか、あるいは不当に他人に迷惑を掛けているかしていないものであれば、いくら「ヘン」であっても病気として治療の対象にすることには慎重であるべきだという事情がある。
 もしも誰の迷惑にもならない行為に他者が「ヘンだから」という理由で治療対象にするのであれば、それは医者や学者個人、ひいては世間の偏見によって少数派の趣味を「治療」の名のもとに弾圧することになりかねない。同性愛者がかつて受けてきた仕打ちがまさにこれだ。

 さて、ハイブリストフィリアはどうかというと、実際にこれらの診断基準には入っていない、けっこう「俗な」ほうの変態性欲名になっている。
 しかし実際に、連続殺人犯をはじめとする有名な犯罪者に異性からファンレターが殺到しているとか、果ては獄中結婚したといったニュースが、しばしば彼らの事件の「こぼれ話」としてメディアを山の枯れ木程度には賑わせているのも事実だ。
 テッド・バンディやチャールズ・マンソン、ヘンリー・リー・ルーカス、ジェフリー・ダーマーなど著名な殺人鬼が幾人もファンレター攻勢を浴びているが、日本でも宅間守(大阪池田小襲撃事件)や市橋達也(リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件)といった殺人者がこうした人気を集めていた。
 ちなみに安倍晋三元首相銃撃事件の山上容疑者もすでにこの対象になっているようだ。

犯罪性愛は「女→男」が特徴

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