朧月の夜に、日本酒に魅せられたあの日を想う。|原宿【「圓」FUKUI TRAD by PERIMETRON 】
「 大原や 蝶の出て舞ふ 朧月 」ー内藤丈草
25歳にもなって未だに、
わたしは星座の本やおとぎ話の本を腕いっぱいに抱えてはしゃいでいる。
図書館帰りの細々とした道をトボトボ歩いている。
トボトボと歩いているものの、胸の中ははしゃいでいる。
3月。
ビルの向こうの頼りない朧月(おぼろづき)を眺めていると、
霞んだぼんやりとした月の輪郭に、
少し前にほろ酔った日本酒を思い出す。
朧月って、たしか春だけに見られる月ではなかったかしら。
そんなことを考えているうちに、
わたしと腕いっぱいに抱えた本たちは、
もう家の玄関の前にたどり着いていた。
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ご無沙汰です。
普段家にいると、毎日同じものばかり食べてしまう、
相変わらずズボラな オザワ ミナミ(入社4年目)です。
ある日、
「おもしろい発想のレストランがあるので行こう」
と友人に誘われたわたしは、
いつも通り軽い気持ちで「いいよ〜〜〜!」と言ってしまったのだが、
これがまた、とんでもなく特異で独創的な体験に足を踏み入れる事となったのである。
今回伺ったのはこちら:
期間限定ポップアップレストラン「圓」
FUKUI TRAD
by PERIMETRON
週末の昼の11:30の部を予約。
当日の午前中。
わたしは前日に飲みすぎたのが原因の、
二日酔いと寝不足で意識が朦朧としており、
いわば「心身ともに朧月状態」(上手いこと言ってないで早く書け)で、
原宿へ向かったのである。
外観
アジトさながらの鉄筋と巨大な旗。
奮える子ウサギのような面持ちで、
友人とわたしはおそるおそる暖簾をくぐる。
内観
古民家調でありながら洗練された上品な内観。
温かい雰囲気のスタッフの皆様が席までご案内してくれた。
11:30の部は素敵なご夫婦と、私たち子ウサギ二名の、二組のみのようだ。
おしながき
スタッフさんが早速今回の「おしながき」について説明してくれた。
1.福井県の伝統工芸
2.福井県の日本酒
3.著名な料理人2名による料理
による今回のコラボにぜひ注目いただきたい。
1.伝統工芸
2.日本酒
3.著名な料理人2名による料理
先付『玉』
■ 料理〚穀粒吟醸豚のリエット〛
■ 食器〚月見玉座〛
越前焼のまるで石のような「月見玉座」の上には黒龍吟醸豚のリエットが。
黒龍吟醸豚とは「黒龍」の酒粕を食べて育った豚のことを言うそうだ。
一口噛むと吟醸豚のドライな味わいのあとに、酒粕の芳香な香りが広がる。
■ 日本酒〚黒龍〛
■ 食器〚大きな盃〛
浦島太郎の竜宮城の宴に出てきそうな、両手で持つ事しかできない
「大きな盃」には、すっきりとした味わいの「黒龍」が注がれていた。
秀逸なペアリングと食器の美しさに既に虜になっている私はこう思った。
「浦島太郎が浮かれて玉手箱を開けてしまった気持ちもわからなくもない。
きっと彼も日本酒と食事にほろ酔いになり、判断力が鈍っていたに違いない。」
椀物『重』
■ 料理〚カリフラワースープ、ライスパフ、酒粕入りの白和えと発酵トマト〛
■ 日本酒〚常山〛
ワトム農園の紫色のエディブルフラワー(食用花)が散りばめられた豆乳の泡を掬うと、
下からまったりとしたカリフラワースープが出現。
美山産の米から作られたサクッとした食感のパフは、
クミンシードのツンとした刺激がいいアクセントとなる。
また、常山の酒粕の入った白和えと発酵トマトは、今回ペアリングのフルーティーな日本酒〚常山〛ともピッタリな濃厚でクセのある風味を楽しめる。
■ わたしのお気に入りはこれ!!!
柔らかな白の泡の中に散りばめられた小さな紫色の花。
ずっと見つめているとそのまま吸い込まれて迷い込んでしまいそうだ。
幼かった頃のわたしの頭の中を視覚化するとおそらくこのスープのような感じだろう。
(母によるとだいぶ夢見がちな少女だったらしいので)
■ 食器〚 朧月〛
椀物で使われていた食器は、水面に浮かぶ朧月をイメージした応量器。
しっとりとした艶と、微細な曲線で朧月を表現した応量器は、
手で触ると、穏やかさの中にどこか品のある冷たさを感じる。
特殊な形と模様を再現する為に、樹脂を光造形3Dプリンタで形作り、
最後に漆加工を施して完成させた越前漆器である。
伝統工芸と最新技術がコラボしてできた、オリジナルの作品だ。
きっと、
かぐや姫を迎えに月の都からの使者たちが地上へ降り立った時、
庭の池の水面には濡れた月が映し出され、
この器の模様のような波紋が立っていたに違いない。
三付『圓』
■ 料理〚塩ぶり、蟹のブランデー漬け、へしこのブルーチーズ和えとインドの蜂蜜〛
■ 食器「三つ巴圓盤」
塩味の強い3つのお料理は少しずつお酒のお供でいただくのにちょうどいい。
新鮮なぶりは少しずつと言いながらぺろりとたいらげてしまった。
蟹はブランデーの贅沢な香りをまとい鼻まで香が抜ける。
へしこの一品は、ブルーチーズが大の苦手のわたしでも
美味しくいただけるくらい臭みが少なく、蜂蜜がデザートらしさも演出。
日本の伝統的な家紋である「三つ巴」をイメージした食器が厳かな雰囲気を演出する。
■ 日本酒〚FUKUI TRADオリジナル〛
■ 食器〚上流の川石〛
一緒にいただく日本酒は、FUKUI TRADオリジナルの日本酒で、もともとドライな日本酒として知られている「早瀬浦」を四段仕込みし、四段目に吟醸甘酒を使用したとの事。
ドライさの奥に柔らかさを感じる奥深い一杯であった。
器は手に持つとすっぽりと手に収まり、ごつごつとした感触はたしかに、
川に削られきった下流の石ではなく、まだ主張の強い上流の石に近いのかもしれない。
食器や料理の澁さに今回は「武将」という言葉が思い浮かんだ。
芯のあるくっきりとした料理と、ドライながらも奥ゆかしさのある日本酒、
そして家紋、石を彷彿とさせる存在感のある食器はの組み合わせは、
まるで、平家一門の「平清盛」を、聡明な頭脳かつ優しく良心的な人間性で
支え続けた息子の「平重盛」ではないか!!!!!
(明らかにアニメ「平家物語」の見すぎである。先日、全話を一気見してしまった。)
毎度妄想を広げ、グルメレポートから話が脱線するのをどうかお許し願いたい)
丼物『渦』
■ 料理〚熟成鮨の丼〛
■ 食器〚大螺旋〛
料理人・木村氏が得意とする熟成鮨を丼で楽しめるこちら。
赤酢の酢飯(福井県産「俺の米ハニー」という銘柄の米を使用)の上に、
甘酢のズワイガニ、小鯛バッテラ昆布巻き(押し寿司)、
柑なんばのほどこされたイカ、燻製のさわら、ぶりが、
まるで芸術作品のように緻密に盛り付けられている。
1つ1つの素材に丁寧な職人技を感じるこちらの一品は、
どこを食べても思わず「うう、、、」とため息(というよりは唸り?)が漏れてしまう。
■ 日本酒〚ESHIKOTO AWA 2019〛
■ 食器〚竜巻銀河〛
華やかなちらし寿司と合わせるのは、黒龍酒造のスパークリング酒。
麹の甘い香りとドライな後味がちらし寿司にぴったりとマッチした。
細身の竜巻のような酒器・竜巻銀河にお酒が注がれると、漆黒の器の中で、
小さな龍の赤ちゃんのような泡が賑やかに上ってくるのを眺めることができる。
それにしても、額縁に収めたいほどの美しさである。
高校の地学で習った地層や地形もこれくらい美味しく彩り豊かであれば、
当時もう少し地学に興味を持てたかもしれない。
(今は非常に興味があるのだが、当時は「なんで地面について知らなきゃいけないの」ってきゃぴきゃぴした声で文句を連ねるくらいには興味がなかった)
甘味『御縁波紋』
■ 料理〚美山の蕎麦粉のパンドジェンヌ〛
蕎麦粉のパンドジェンヌはしっとりしていながらもシャリシャリとしており、
みかんの食感もまたユニーク。
■ 甘酒〚穂の実〛
■ 食器〚序の口-波紋〛
パンドジェンヌの下には甘酒が。
舌触りがなめらかで、まろやかな甘みがありつつも爽やかな後味を残す。
モダンで無機質な越前漆器と金の匙で、どこか洋風な雰囲気を感じる。
甘酒を飲み干すともうこのコースが終わってしまうのかと思うと、
瓶の中の甘酒が徐々に減ってゆくのが妙に悲しくなってくる。
朝食で、
きつね色のバタートーストの最後の一口にかぶりつく時もこんな気持ちにさせられる。
毎朝バターと小麦の布団に顔をうずめられる時間はこんなに短いのか、と。
最後に、今回登場した「早瀬浦」「黒龍」「常山」各酒蔵の日本酒用に
FUKUI TRADがオリジナルで作成したラベルについて説明してくださった。
素材は、福井の伝統工芸品「越前和紙」を使用。
真ん中の漢字を中心に、うねった文字を周りに重ねていき、
波紋が広がっていくようなデザインはどこかサイケデリックな印象。
また、色は同じ白、凹凸のみで表現したことで、
米によって表情の違う日本酒の奥深さを表現したという。
輪郭がぼやけ、周囲と溶け込むような
朧月の面影がここにも見えるような気がする。
一切の妥協を許さず、
福井県、伝統工芸、歴史、芸術、人、日本酒、食材、料理、
すべてを細密に計算しハイブリッドな作品を作り上げた当プロジェクト。
伝統と未来とオリジナリティーがこんなにもバランスよく混在できるものなのかと、
2時間あまりの食事ではあったが、すっかり完敗してしまった。
「食事体験」ではなく「総合芸術体験」といった感じだろうか。
今回のポップアップレストラン「圓」は既に終了しているが、
今後FUKUI TRADによるレストラン企画があれば、
声を大にしてみなさんに勧めたい。
五感が満たされ、
日本酒にからかわれ顔が真っ赤になった子ウサギ二人は、
アジト(UNKNOWN HARAJUKU) を退出し、
満腹なおなかをしずめるように、両腕を使って伸びをした。
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「 大原や 蝶の出て舞ふ 朧月 」
ちなみに、こちらの歌に登場する(大原)は、
「建礼門院(平清盛の娘)」が出家後に過ごした地であり、
この歌も彼女の悲しい生涯を連想させるという諸説があるという。
今回、たまたま興味を持ち、焦点を当てた「朧月」という季語をスタート地点に
noteを書き始めたのだが、読んでいただいたとおり、
かなり妄想が膨らんでしまい、四方八方に話題が散らばり
(図書館の帰り道、グルメレポート、かぐや姫、平家物語 etc. )
かなり頭の中を大忙しにしながら書いてしまった。
25歳オザワ ミナミが「朧月」というキーワードに、
ぶんぶん振り回されながら書いた文章はこうなるらしい。
あなたは今こう思っただろう。
「何を言っている。
今回のnoteで一番振り回されたのはこれを読まされた私だ。
そもそも、全然グルメレポートじゃないじゃないか。無駄に長いし。」と。
そして、
「なんとハチャメチャな思考回路をしているんだコイツは。」と。
しかし、しょうがない。
わたしの頭の中はこうなのである。
そして、はたまた、
わたしもあなたの「朧月」ストーリーを読んでみたい。
「朧月」についてでなくてもいい。
とにかく想像力が開放された状態の他者の頭の中を覗きたいのである。
きっとわたしもその時には振り回されるに違いない。
さて、
最後にまた今回のnoteを締めくくる一曲を載せて終わろうと思う。
Meitei / 冥丁 - 八百八町
エレクトロニック/アンビエントミュージックに
日本の伝統楽器、民謡、小唄などを用いるスタイル。
まさしく福井トラッドのように、
枠に囚われることなく、今と昔が心地良く共存しているように思える。
それでは、また。
あなたにも素敵な朧月の夜を。
あなたのスキを原動力に、ヒトサラnote部は活動中です!