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「めんどくせえ」の数だけカタルシスも:『In Stars And Time』

日々すてきな言葉がつづられている「ゲームとことば Advent Calendar」、これまでのいい流れをぶった斬ることになりはしないかと不安なのですが、宣伝です。先月リリースされたタイムループRPG『In Stars and Time』を宣伝します。私が何か書いたところでリーチはほとんどないけどね、1人でも多くの人に知ってほしいし、1本でも多く売れてほしいのだ。

ということで『In Stars and Time』(以下「ISAT」、私は「あいさっと」と略しています)ですが、今年のテーマである「〇〇な人にオススメしたいゲーム」ということで考えると「いろんな人にオススメしたいゲーム」としか言いようがなく、でもさすがにそれだとざっくりし過ぎているので、がんばって対象を絞っていくと、「リアルなタイムループ体験をしたい人」「クィアゲームに興味がある人」「かわいいキャラが大好物な人」あたりになるでしょうか。

はじめにゲームのご紹介
どこからともなく現れ、強大な力で時間を操作し、町や村を次々に静止状態へと追い込んだ「王」。その王から世界を救うべく、主人公シフランと仲間たちは王のいる館へと乗り込む――というのがゲームの設定で、物語は決戦前日から始まります。いろいろあってシフランは死亡、したかと思いきや気づけば決戦前日に昼寝をしていた草地に戻っている。仲間にはタイムループの記憶がなく、シフランは誰にも頼ることなく謎を解き明かし、ループからの脱出に挑む……。本作はカナダ在住のフランス人クリエイター interdisc5さんの作品で、日本語版は架け橋ゲームズがサポート、翻訳は江野朋子さんと私・柴田が担当しました(余談ですが江野さんは『Eastward』の翻訳でもご一緒した方で、今回は6:4ぐらいで江野さんが半分以上翻訳されています)。

タイムループはめんどくせえ!
タイムループでは主人公が途中でちょっと壊れながらも機知と強靭な精神力でループを克服するというのがひとつの型となっていますが、『ISAT』は実際にその状況に放り込まれたらどうなるのか、ゲームプレイを通してかなりリアルに体感させてくれます。

仲間との会話、敵との戦闘、必須アイテム収集など、ゲーム体験としては大きなマイナスになりかねない「同じ作業の繰り返し」をあえてプレイヤーに強いることで、プレイするうちにシフラン同様、プレイヤーの心もすり減っていく――プレイヤーと主人公とのシンクロ率を高めさせるこのあたりの塩梅が絶妙で、会話のスキップ機能や敵が自分を避けるようになるアイテム、すでに到達したエリアまでジャンプする機能など、ストレス軽減手段を用意しつつ、しっかりプレイヤーの心を削ってくれます。仲間とのエモい会話も何度か聞いているうちに「アーハイハイ」とうんざりした気分になるし、一撃で倒せるようになったザコ敵を避けるつもりがうっかりエンカウントしてしまうと「ンアアアアア!」とガチで叫ぶし、いちいち同じ部屋に入って同じアイテムを拾って同じ会話が発生するのも「メンドクセエエエ!」と思うようになる。けれども以前と少しだけ会話の内容が変わったり、これまでになかったイベントが発生したり、何気なく見ていたオブジェクトから新しい情報を得られたりと、何かしら背中を押してくれる要素が出てくるわけで、だからこそシフランはループからの解放を期待して前に進むし、プレイヤーもクリアに一歩近づいたと感じられる。

そう、やめるわけにはいかないんです

そうして50回、100回というループの果てに物語が結末を迎えるころには、シフランや仲間たちがたまらなく愛おしい存在になっていることでしょう。

クィアゲームとしての『ISAT』
Steamのストアページで「LGBTQ+」のタグがついているこの作品、クィアゲームとしての側面もあります。ゲーム本編の舞台となるのはヴォーガルドという国。主人公シフランはこの国の出身ではないため、ことあるごとに「ヴォーガルドって変な国」との感想を漏らします。

ひとんちのドアを勝手に開けようとするきみも変わってるけどな

ヴォーガルドでは「ウツロイ」の信仰が盛んで、人は変わるのが当たり前、変わることを良しとする文化が根付いています。また、ここはさまざまなクラフト(=魔法)が存在する世界で、なかには「体のクラフト」というものもあり、現代の我々にとっての性別移行(トランジション)も一般的です。こうした設定も仲間との会話を通して自然に受け入れられるので、押しつけがましいという印象を受ける人はいないはず。これも本作の巧みなところです。

ただ、代名詞の扱いは翻訳をしていて悩ましいところではありました。プロフィール画面ではキャラクター名と共にそのキャラの代名詞(he/themなど)が書かれているのですが、英語圏で増えつつある代名詞によって自分の性的アイデンティティーを表明する文化は日本になく、三人称代名詞があまり使われない(固有名詞を使ったり主語を省いたりすることのほうが多い)という言語の性質上、これは今後も変わらないと思われるので、どうしたものかと。

男性よりのノンバイナリーであるシフランの代名詞は「he/they」

そこで、1) プロフィールの代名詞欄をカットする、2) 代名詞の代わりにジェンダー(男性、女性、ノンバイナリーなど)を記載する、3) 基本の一人称(僕、俺、私、オイラ)を載せる、といった処理案を考え、開発者と相談したうえで 2) の「ジェンダーを載せる」に落ち着きました。この代名詞問題は多くの翻訳者が日々頭を悩ませているところでして、まだこれといった解答はありませんね……。

LQAでは収まってたのに文字がはみ出ちゃってる……
ちなみに物語の進行度合いによってプロフィールの表情も変わるので要注目です

カニったれはカニったれだよ
独特な世界観ゆえに悩んだところ、工夫したところは他にもあって、作中に何度も出てくる「カニったれ」という表現があります。原語では「oh, crab」や「holy crab」で、これは「crap(くそ)」をもじったもの。ヴォーガルドではカニが忌み嫌われているという背景があり(これについての会話もゲーム内で発生します)、その設定を無下にするわけにもいかず……。で、代名詞同様いくつかオプションを考えたうえで開発者に相談し、最終的に「もうカニのままでいこう、そういう世界観なんだよ、カニったれ」となったわけです。また、ビジュアル面の特徴であるモノクロの世界。これも設定と深くかかわっているところなので、「黒々と」の代わりに「暗々と」とするなど、色が使われる表現や色を表す漢字を地道に排除しました。

あーもう日付が変わってしまう……
日付が変わる前に投稿しなければならぬ。なのであとは丸投げ。そのほかゲームのさまざまな要素については、Steamのストアページに熱量高めのレビューが上がっているので、ご覧になっていただいて、自分に合うかもと思った方はぜひお買い上げを!(現在レビュー450件で99%好評、もうちょっとで「圧倒的好評」になるので、できればレビューにもご協力を!)

さらに宣伝
『ISAT』の作者 interdisc5さんはマンガも制作されています。『ISAT』のキャラデザが刺さった方はご本人のサイトもチェックしてみてください。

グッズもいろいろ発表されています。Tシャツ! ピンバッジ! シフラン人形!

ミンナカワイイネー。Tシャツとピンバッジのプレオーダー期間はたぶん日本時間の14日まで。シフラン人形は期間限定でオーダー締切は日本時間の25日?まで! いそげー!

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