トンネル

残業から解放されて疲れた体を引きずりながらいつもの電車に乗り込む。帰宅ラッシュを過ぎた車内ではまばらに座席が空いていた。中途半端に空いていた座席に体を沈ませる。隣の女は鬱陶しそうに体を少し避け訝しげにこちらを一瞥するとすぐに目を閉じた。
自宅までの最寄駅まではここから20分くらい。束の間の休息。家に帰ればやりかけの家事が待っている。これをやるためのエネルギーを温存するために私も目を閉じた。

かれこれ10分くらいだろうか。気付いたらトンネルの中だった。車内から流れるアナウンスは最寄駅にもうすぐ着くことを知らせていた。私は席を立つために鞄を持ち直し腰の位置をずらした。しかしまわりは狭く息苦しいほどの暗闇で一向にトンネルを抜ける気配はない。ゴトゴトと音を立てる車両には春の生ぬるい空気が立ち込める。

いつのまにか隣に座っていた女は消えていた。

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