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ニュースレター試し読み | 第0号 -この冬、どうだった?

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第0号 - この冬、どうだった?

いたかった?おもかった?かたかった?やわらかかった?ぽつりぽつりと振り返る、この冬。

−この冬、どうだった?

この冬はどうだったんだろう…春が差し迫っている今、冬のことなんてすっかり忘れて、あたらしい季節のことばかり考えてしまう。

私は寒いのが苦手だから、冬の生活が大変でとにかく冬はつらい、という前提を保ったままずっと生きてきている。だけど、長野の冬は長いし、体感として一年の半分くらい冬、という感じがする。

この前の冬は雪かきを何度もやった。掻いても、掻いても雪は積もりつづけて、じゃあ掻くことに意味はあるのかな?とか考えながら、それでもやるんだよ、っていう感じでみんな黙って体を動かしているから、私も一緒になって雪かきをやった。

あと、いつだったか大寒波が来ていたときに私は北陸に出張していて、帰りの新幹線が動かなくなった。窓の外は真っ暗で、ここがどこなのかまったくわからない。

綿みたいな雪が、暗闇の中で止むことなく降って、ふって、ふって、それを見て、ここはどこだろう、とか、これはいつまで続くんだろう、とか私は家に帰れるのかな、とか考えたり、考えるのをやめたり繰り返していた。結局予定よりも6時間くらい遅れて長野市のおばあちゃんの家に辿り着いた。(松本まで辿り着く気力と体力はなかった)新幹線が新潟から長野に入った瞬間になぜかすごく安心して、まだぜんぜん着いてないのに、やっと帰ってきた、と思った。おそい時間だったのに、おばあちゃんは起きていてくれて蕎麦を茹でてくれた。部屋はあったかくて、人が居て、食べものがあって、涙が出そうになった。ふかふかの布団に入って眠った。外はまだまだ雪が降り続いていて、何の音も聞こえない。雪が音を吸って、街全体が静かになるのは冬の中でもかなり好きな現象で、冬は生きるだけでも大変だけど、大変だったからこそ受け取れる感動や、美しさがあるのかも、ときらきら光る朝の雪を見ながら思った。

雪のいいところは、白くてきれいなところと、それからみんなに平等に降るところ。

歩道と車道の境目がわからなくなって、誰かに決められていたルールが一旦まっさらになる。いつからここに線が引かれてしまったんだろう。土地を切り分けることや、ものは当たり前に誰かの所有物である世界の中に私は生まれてしまった。空だってどこかしらの国のものとして分配されているらしいけど、それは昔教科書で習っただけで、実感があまり湧かない。領空を超えても咎められない鳥みたいに、車道と歩道が雪で曖昧になった道を、わたしはいつもより堂々と、自由な気持ちで歩く。

最近あなたの暮らしはどうですか。なにを見て、どんなことを考えている?

書いた人|文月


いつもそう
ままならないから
うなだれる

せいかつなら
あさじかんどおりに
おきれないとか

しごとなら
いけんをうまく
いえないとか

でもいつも
わがままよりかは
ましかとおもう

おもいどおりに
いかないけれど
おもいをおしとおそうと
おもいもしない

ここちよいのよ
なんだかんだ
ままならないなら
ままならないまま

書いた人|真拓



花冷えはまだ遠く

朝起きると目の周りが痛い。これは、寝ている間に無意識に搔いてしまったんだと思う。花粉症がとにかくつらくて、部屋の中にいるのにどうして花粉があるのかとても不思議……。

鏡を見ると、目の周りが赤く腫れている。アイボンで目を洗って、目薬をさす。

今日はどんより曇っていて、雨が降っている。あったかくなったかと思ったら、ひんやりしている。春の季語で「花冷え」という言葉を思い出したけれど、それは花見の季節の頃をさすらしい。こっちはまだまだ花なんて咲いていない。花冷えはまだまだ先。

引っ越しのことを考えて、洗濯機の洗浄をしようと思い立った。水を水槽にいっぱいに溜めて、クリーナーの粉を一気にいれる。しゅわしゅわ音がして、自分の中の汚いものも一緒にきれいにしてもらっているような気分になる。

この家に引っ越してきたときに自分で洗濯機のホースを設置したら、翌日床が水浸しになった。それもたしかこんな風にひんやりした朝のことで、靴下までびしょびしょになって、それがかなしくて、ちょっと泣いた。以前松本でなぜか知り合った、工具屋さんのおじいさんに電話を掛けたらすぐに来てくれて、「こんなことはなんでもないことだよ」って言いながらきっちり直してくれた。ひとりの生活がままならなくて、困ったことがあるとすぐそのおじいさんに電話をかけてしまう。

おじいさんは頼りにしてもらっていることが嬉しそうに見えるけど、それは私がそう思いたいだけかもしれない。

洗濯機が止まったので、見に行くと槽の中はあまり汚れていなかった。特にこれといったことを成し遂げないまま、もうすぐ正午になろうとしている。

サバサンドがうまい

雨がやんだ。でもまだ薄暗い。気圧が低いからなのかもしれないが、全然仕事が捗らない。ぼーっと上の空で、おまけに花粉による目の腫れも相まってなかなかにグロテスクな顔をしてるのではなかろうか。そんな状況とは裏腹にこんもりと積もった仕事。気を抜くと雪崩れてしまいそうな「やらなきゃいけない」の山に、気持ちが先に雪崩れていく。正気を保つために外に出てみた。

雨上がりの山から降りてくる冷たい匂いが好きだ。いつも、林間学校で朝早く叩き起こされてラジオ体操をさせられたことを思い出す。腕の角度、足の向き、寸分狂わず揃ってないと怒られたあの時間はなんだったんだろう。冷たい匂いを鼻からいっぱいに吸い込む。くしゃみをする。そうだ、花粉だった……。

今日は午前中の雨のせいで雲がだいぶ低く、山の先っちょにもよんと乗っかっている。この風景はいつも写真に収めたくなる。すごく高くにあるようなきがするけれど、実はそうでもないんだな、と毎回思う。掴めないのに、掴めそうだ、と毎回思う。

近くの湖を見にいくと、いつもより少し荒んだ水面が自分の心模様をうつしているようだった。昨日よりちょっと寒い。つい先月まで少し凍っていた湖は、完全に春の様相を呈している。もう凍るつもりはさらさらないらしい。こっちに来て、全部凍るのをちょっと楽しみにしていたから、ちょっと悲しい。近所のうまいパン屋で買ったうまいサバサンドを頬張る。やっぱりうまい。

ぼーっとしていると、少しずつ雲の切間から光が差し込んできた。ほんの少し、水面が照り返す。あたたかい珈琲が飲みたい。私は仕事に戻ることにした。

山に海魚を期待しちゃいけない

夕方、友人が訪ねてくる。昨日「明日いる?」と急に連絡がきて会うことになった。たしか前回は年末のカラオケオール以来だから、3ヶ月ぶりくらいだろうか。

到着してからお互いやることを済ませて、夕食の準備。その前にお腹がすいていたのでつくってあった粕汁をすする。そんなに気を遣う相手でもないので「まあお互いなんか適当につくろうや」と伝えておいた。代わり番こで台所に立ち、何品かつくる。

友人がうちから最寄りの商店で買ってきた魚(何だっけ)が怪しい色をしていて、「山に海魚を期待しちゃいけない」「だって食べたかったもん」と笑い合う。でも、酢漬けにした魚と赤カブのスライスのマリネは結果的に美味しかった。ごちそうさま。

まずはビール。そしてワイン。白、そして赤。ほんとによく飲むよね。途中でカルボナーラをつくる。複数人分のパスタって量とか塩とか毎回戸惑う。いつものベーコンじゃなくてパンチェッタを買ってあったのでちょっぴり特別な気分。まあまあな味だったのでオーケー。

9時くらい、友人が1話しか見ていないというNetflixの『First Love 初恋』を観ようということになり、プロジェクターを引っ張り出す。見始めて数分で視界がぼやけて、2話分きっちり睡眠をとる。酔っ払ってからの映画やドラマって寝落ちするに決まってるじゃん。なのに毎回やってしまう。

お互い意識と無意識の境を過ごしたあと、1時前になってようやく「寝よっか」という話になる。皿洗いは明日の仕事。おやすみなさい。

朝|文月(松本から)
昼|真拓(諏訪から)
晩|大雅(根子から)


ここは長崎

春の日差しの下、すこしだけ汗をかきながら坂を登る。呼吸を整える。振り返ると海が見える。坂と海のあるまち、長崎。あのしゃびしゃび(って標準語?)な感じがこれまで苦手だった、ちゃんぽん。喫茶店みたいな店内で優しいスープに麺と野菜が絡み合ったやつ、好きになる。そういえば前に住んでいた家の近くに福山雅治がオーナーの長崎ちゃんぽんを出す店があったっけ。出島は埋立地の町並みにまぎれて「全然出島じゃないじゃん」って心の中で突っ込んだ。西欧的なもの、中華的なものが混ざり合ってここがどこだかよくわからなくなる風景の中を歩く。そんなときはちょっと坂を登って海を見る。脚が重たい。ああ、ここは長崎。いいところ。

書いた人|大雅


あとがき

お試しの0号、ひとりごとに聴き耳を立ててくださりありがとうございます。
隔週ペースで更新していく予定です。どうぞお付き合いください。

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