ワンパンマン二次創作 Alice 9

no reason 1 



買い物客でにぎわうその街の中心に、それが降り立ったのは休日の午後15:30分を少し過ぎた時刻だった。晴れ渡った空に凱旋を思わせるジェットエンジン音を響かせて飛来したのは、全長5メートルを越す真っ白な二足歩行型ロボットだった。穏やかで、何処か怠惰な街の喧騒を切るように現れたそれは、スクランブル交差点真上で飛行を停め、徐々に高度を落とし始める。脚の裏に設置されたバーニアはアスファルトを焼きながらゆっくりと大地へ着地する。派手なエンジン音とそれらを制御する機械音は街の中に響き渡り、行き交う人々は皆でその音の方向を見た。地響きを伴って着地したのは直立した巨大なロボットの姿だ。
その頭部は陽光に照り映え、鋭角なマスクは遮光ガラスで虹色に輝いていた。大凡5メートルを越すその巨大なロボットの外観は真っ白で、鷹揚と立つその姿は勇者や神を彷彿とさせた。だから少年は母親の手を引っ張りそのロボットへ走り出そうとしたし、若者は笑いながらスマホでその姿を撮影した。張り出た肩は柔らかな直線で纏められている、腕は太く手は黒い装甲で覆われていた。スーツを着た会社員は、またヒーローのお遊びか、と鼻で笑い、若い女性達はそのロボットが戦うかもしれない怪人の出現に身を硬くした。
けれども、その白い勇者の内部に潜むのは怪物である。人間社会が作り出した、弱者という怪物。胸部の超硬化装甲、そこに設置されたコックピットの中で弱者とすら認められない怪物が、息づいている。画面に映る人々の好奇の目を睥睨して、ノリオは唇を噛んだ。両手を円形タッチパネルに載せる。身体中についている管を媒介にして白い破壊神に彼は成り替わる。溢れそうになるのは涙と様々な想い、それを全て憎しみに変えながらノリオは唇をかみ、静かに『絶叫』した。ミサイルの発射ボタンを押しながら。
『いくぞおおおおお!』
白い機体の肩が展開し、そこから発射されたミサイルは動かない人々の頭上をかすめ、様々な場所へ着弾し爆発を起こす。ビルの腹、車のフロントガラス、信号機、コンビニ、そして人々。着弾した数発は、彼の怒りの様に一拍の空白を置いて炎を撒き散らす。ヒーローの出現を期待した人々の目の色が瞬時に変わっていく。目の前にいる勇者の様なロボットはヒーローではない。それは怪人である。目的もない、理由もない、ただ人類の死だけを望む哀れな存在。何も知らない人々の頭上に割れたガラスの雨を降らせ、怪人は降臨した。断末魔の声、爆発音、怒号、悲鳴、燃え盛る炎の合間から人々はその白い機体を今一度確認した。未だ状況を飲み込めていない数人の人間も、その機体の背中から肩に展開した黒い銃口が正面を向いている事を理解して、やっとその表情に恐怖を滲ませた。
ノリオはそれらを許さず、第二波を射出した。そのまま深く踏み込んだ機体は、バーニア噴射の力学にて、高く跳躍し、着地し凡そ1キロ先のアスファルトを砕く。水道管は破裂して辺りを水浸しにした。バスを掴んで、パーキングに投げ入れたし、フェラーリやらランボルギーニは積極的に蹴り飛ばした。その白い機体の身長は5メートルほどではあったが、クセーノ博士から教わった技術はその機体の全てに生かされている。コンパクト故に素早い機動力を持ち、尚且つ頑丈で、何よりも特筆すべきはその破壊力だ。バーニアに点火、高速で超高層ビルの側を上昇していく、その白い機体の風圧で駆け抜けた道筋にガラスが破壊されていく。やがて避雷針の先に位置を定めたノリオは、右手を開きビーム砲の充填を開始した。やめろ、やめろ、と誰かが言っている様な気がした。けれどもう止まらない。
「うるせえ!馬鹿にしやがって!お前らなんて誰一人許さない!」
うう、と空気が唸って、青白い光が一気にそのビルを破壊する。崩落が始まり、正にゴミの様に人々が落下していく。皆口々に助けてくれ、助けてくれ、と口にしている。機体の中でそれを聞きつけて、ノリオの目は輝き出す。何が助けてくれだ。
「俺、言ったよなあ?助けてって言ったよなあ?」
でも誰も助けてくれなかった。彼らの顔が、表情が、かつて見てきたあいつらと重なる。そいつは自分を蹴り、殴り、陰口を叩き、ゆすり、たかり、弱みに付け込んできた。正しい、とノリオは遠く別の街に展開しているaliceを思う。alice、君は正しい。僕達は全員死ぬべきだ!
巨大な鳥の様に、空中旋回したノリオは再び高速で地面に迫る。あそこにまだ人がいる。人は殺さなければ。歯を食いしばりGに耐えながら、ノリオは怪人としての責務を全うする。地面近くで体を捻り、バーニアを焚きながら静止した機体の画面に映るものは地獄である。穏やかだった日常はもうない。
黒煙と炎と血液と、灰と埃と悲鳴。けれどまだ足りない。ノリオは生きながら殺され怪物になった。この世界に存在するすべての人間から殺されたのだ。なら復讐の方法はただ一つだ。
黒煙の向こうに人影が見えた。右手を開きビーム砲を充填させようとした直後、凄まじい衝撃が外部からもたらされ機体のバランスが崩れる。崩れるばかりではない、10トンはあるその重量はそれ以上の力でもって吹っ飛ばされた。バーニアにより摩擦が少ない状態になっていたとはいえ。即座にバランスを正し、ノリオは正面を見据えた。黒煙から現れたのは金髪のサイボーグ。右手には全く同じ型のビーム砲を備えている。予想通りだ、ノリオは思う。ヒーロー様の登場だ。怪人が怪人である為には、ヒーローの存在が必要だ。その金髪のサイボーグは自分の数倍もある白い悪魔に物怖じもせず、無表情でこう告げた。
「排除する」

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