手に入れたそのさきは。
「今月お誕生日のあなたに特別ご優待」
誕生日が近いことをいつ買ったかわからない通販サイトからのメールで気づく。歳を重ねれば自由が増える。そう思って学生時代は踏ん張った。そして歳が増えたことで自由にできることも多くなった。
だけど今度は自由すぎることに苦しめられている。
日常的な自由。今日の夜ご飯に何を食べるのか。終盤に差し掛かった本を読みながら次はどんな本を読もうか考える。
生き方の自由。今の仕事をこれから何十年も続けていくのか。結婚をするのかしないのか。家を買うのか買わないか。
どれも自由すぎて、選ぶことに疲れてしまう。いっそのこと誰かに決めてもらった方が楽なのになんて思うこともある。
隣の芝生は青いとか、ないものねだりという言葉ができるくらいだから生きるとはそういうもんなのかもしれない。
何かないものを手に入れることを目標にしても、結局手に入れた途端こんなはずじゃなかったを繰り返す。手に入れたら人生が変わるんじゃないか、いいことが起きるんじゃないかという甘い期待に踊らされる。でもそれでいいんじゃないかと思う。その期待が希望となって頑張れるのであれば。
自分を騙しながら、騙していることを自覚しながら、自分の意思で踊るのも悪くないのかもしれない。
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