見出し画像

【再掲】最高で最愛のチャレンジャー

4月23日はわたしの大切な記念日の一つになった。きっと生涯忘れない日になる。

それをつげられた瞬間は
思っていたよりも、ずっと唐突で
現実味がなくて
まるで誰かのドキュメンタリー映像を
静かに隣で見ているような印象だった。


「おめでただね。」


薄暗い、内診室の診察台のカーテン越しに
今日会ったばかりのクールな印象の先生は静かにそう言った。

わたしは自分の右手の壁に設置された
液晶画面に映し出された白黒の画面を
横になりながら、ぼんやりと静かに見つめた。

今、わたしが置かれている状況の色々が
全くリンクしなかった。
情報処理が全然追い付かない。

わたしに向かって先生は確かに
「おめでただね。」と言った。

カーテン越しで表情は見えないし
なんだか当の本人のわたしの耳にも
その言葉はまるで他人事のような
温度感で聞こえた。
思わず沈黙してしまった。

こういう時、どんな反応が正しいのか
今でもよくわからないけれど
先生は不思議に思ったのだろう。
少し緊張感が走った。

はっと我に返る。

先生が超音波の機械の向きを少し変えて
その「おめでた」の証を
出来るだけ大きめに、かつ鮮明に
映し出そうとしてくれた。

小さなあぶくのようなもの。
微かに一部がパクパクと動いていた。

よく見ても理解できるものではないけれど
わたしはもっと、出来る限りよく見ようとした。

「ここ、動いてるのわかります?微かに。これが心臓」

先生はお休み前の子どもに
そっと言って聞かせるみたいな
静かで柔らかな、だけど淡々とした調子で
わたしに念押しのように言った。


妊娠は6週目に入っていた。

診察台から降りる。
言葉もまばたきも停止。
とりあえず無心でパンツをはいた。

その瞬間

もう、こころが叫びだしそうだった。
平静を保つのに必死だった。
今までに感じたことがない、経験したことがない感情が言葉が
身体中から吹き出してきそうだった。


窓口で診察料を支払い、診察券を受け取り。
「おめでた」の証の写真を受け取り。
冷静ないつものわたしを顔をして
産婦人科の自動扉に向かった。

静かにしていたけれど
心の中ではまるで
となりのトトロのメイちゃんみたいだった。
トウモロコシを胸に抱き締め
シチコクヤマの病院のお母さんの元に
今にも駆け出しそうな勢い。

早く!早く!一刻も早く!
この感情を誰かと分かち合いたかった。

駐車場の自分の車に静かに乗り込み。
ジワジワと、現実が染み込んできた。

わたしは、、、とても不謹慎なことに
この数年で1番ニヤニヤしていた。


連日テレビをつければ
新型コロナウイルスの報道
閉塞感や不安を感じる毎日が続いていた。

これから先の妊娠生活を思うと
なかなか手放しで喜べないなと。
頭の端をぐるぐるした。
でもそれを差し置いて、、、

わたしは、、、
ここ数年にないくらいワクワクしていた。

この時代、このタイミングをめがけて
わたしを選んでやってきてくれた。
このチャレンジ精神あふれる選択に
思わず笑ってしまった。


変わりたくて変わりたくて
十数年もがき続けていた、わたし自身と
何だか重ねあわせてしまった。

「あんたは、どうして人が選ばない、大変な方をいちいち選ぶのかなぁ」
いつの日か、そう母親に言われたことを思い出した。

わたし自身はいつも、面白い、やりがいがあると思ったから選んでるだけで。。

結果的にもっと楽な方法もあるかもしれないし
しなくていい経験もあるかもしれない。

でもしてみたい。自分で味わってみたいんだ。
この世の中の色々を。

きっと、君もそういうタイプ。。。?笑


君がその覚悟なら。わたしも覚悟を決めたよ。

はだかんぼうで、何も持たずに
この時代、このタイミングで
わたしのお腹を選んできてくれた
最高で最愛のチャレンジャー。

この難局を、母としてできるだけ
楽しんで過ごしていきたいと思う。

最後まで読んでいただき
ありがとうございます。

※この記事は2020年5月末に作成しました。
一度公開していましたが、もう一度当時の気持ちを振り返って書き直したいと思い、少し手を加えて再度上げ直しました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?