香りの記憶
ずっと使っていなかったオードトワレを、二年ぶりに使ってみました。
なぜ今日まで使っていなかったか、理由は二つありました。
ひとつは、マスクで香りが遮断されて意味がないから。
もうひとつは、心身ともに余裕がなかったから。
忘れもしません。新型コロナウィルスの感染拡大が始まった2020年2月最後の日の夜、2012年から週3日出向して仕事をしていた会社の社長からLINE(!)がきました。「明日からお願いする仕事がなくなりました」と。
今にして思えば、業種が食品製造で、主力商品がお土産・贈答品の会社でしたので、危急存亡の危機に直面していたのだと思います。
その文面を見た瞬間、目の前が真っ白になったのか、真っ暗になったのか覚えていませんが、スマホを持つ手が震えたことだけは覚えています。震える指で「承知いたしました。お世話になりました」とだけ返信しました。
その会社への出向がなくなるということは、主たる収入源を失うということです。外出自粛が始まった3月をただただ呆然として過ごしました。
その後、緊急事態宣言下の4月に入院中だった義理の父が亡くなり、6月に茨城の実家で一人暮らしをしていた父が心破裂で倒れ、一命はとりとめたものの入院→施設入所→入院で、仙台と茨城を往復する生活が始まりました。
さらに一人暮らしになった義理の母の視力低下と認知症が進んだため、家人の実家にも通う日々。
父の容体が落ち着き、いわきの施設に入所したのが2021年の1月。アルバイト待遇で勤めていた食品製造会社に見切りをつけ、家人が就職したのが3月。5月に義理の母が施設に入所。
7月から8月は、仙台文学館で「みちのく妖怪ツアー展」がはじまりドタバタ。9月から12月は、河北新報の連載準備でドタバタ。
年明けからもバタバタと薄氷を踏むような日々が続いて……いるうちに、心臓の調子がおかしくなり、緊急搬送。からもあれこれバタバタして、ようやく落ち着きを取り戻したのが先週の日曜日でした。
流れを変えたい。失った何かを取り戻したい!という気持ちが強くこみあげてきました。……で、思い出したのです。「そうだ、あの香り!」と。
震災前から使い続けている「ローパケンゾー」を取り出して、両手首の内側と、耳の後ろにつけてみました。
文字通り、懐かしい香りがしました。そして、気持ちが落ち着きました。
2年間と同じ日々はもう戻らないけれど、懐かしい香りに支えられて、ちょっとだけ前に進めそうな、そんな気がしています。
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