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『New Heritage Of Real Heavy Metal』ライナーノート


■ プロダクションノート (本人ライナーノートより、本企画の経緯など)

私は、2006年にスウェーデン録音のCD『キュービアム』をアミューズ傘下のスパイス・オブ・ライフから発表してデビューし、以降13枚のアルバムをリリースしてきました。これまで、ジャズ雑誌などのインタビューやライナーノートなどで、「高校時代、イングヴェイ・マルムスティーンが好きだった」と、時々触れることがありました。
高校2年までクラシックピアノを真剣に学んでいた私は、ある日突然ぷつんと糸が切れてしまって、その後1年間ピアノを弾くことを完全にやめていましたが、その期間どっぷり嵌っていたのは、メタルです。
周りにバンドをしている友人が多かったので、彼らが聴いて一生懸命コピーしている音楽に興味を持って聴き出すととても面白く、一緒になって夢中で聴きました。
特に感動したのが、イングヴェイ・マルムスティーンの『ザ・セヴンス・サイン』というアルバムです。もう本当に馬鹿みたいに聴いていました。スウェーデンでデビューCDを録音することが決まった時、真っ先に思ったのが、イングヴェイの国だということでした。
クラシックピアノの反動からか、ギターの面白さに目覚めて、イングヴェイを中心に当時よく聴いていたのが、スティーヴ・ヴァイ、ドリーム・シアター、ストラトヴァリウス、ミスター・ビッグなど。そこから辿って、ディープ・パープルやレインボーもよく聴いていました。その後、音大のジャズ科に入学すると、ジャズに熱中するあまり、メタルを聴くことからは離れてしまいました。

今回の企画は、本作ディレクターの阿部淳氏と、昨今のアニメソングのカヴァー作品について、雑談していたことから始まります。
阿部氏との雑談の中で、私は「アニソンのカヴァーは、アニメタルUSAが一番格好良くて好きだったなあ。」と、話しました。その30分後、阿部氏が「さっきの話だけど、逆にメタルをジャズでカヴァーするのって、できないかな?」と言い、私も即座にやりたい!と思ってしまったので、今回の企画が始まりました。
というのは、私は自分のバンド・パララックスで、「イン・ザ・デッド・オブ・ナイト(U.K.)」をカヴァーしたいと、もう何年も思っていたのです。
この曲は、メタルではなくプログレ畑の曲ではありますが、この曲を最初に知ったのは、イングヴェイの『インスピレーション』というアルバムで、この作品と実際に聴きに行ったイングヴェイのコンサートで、最も衝撃を受けたカッコいい曲でした。そして、最初に入れてもらったコピーバンドで最初に取り組んだのもこの曲で、私にとってこの曲は、メタルの思い出とともに、自分の音楽人生の中で、非常に大事な曲なのです。

阿部氏と最初から話していたのは、レッド・ツェッペリンやフランク・ザッパに取り組むジャズミュージシャンは以前から多く、それらに加え、プログレ方面もジャズと親和性があるのですが、今までジャズであまり演奏されていないものやろうよ、ということでした。幸い、私はツェッペリンやザッパは高校時代もあまり嵌らず、イングヴェイを軸にメタルを聴いてきましたし、しかも楽器的には全くメタルというジャンルに関係ない、アコースティックピアニスト。面白いものができるかもしれないと思い、今作に取り組み始めました。

選曲について、前述のとおり「イン・ザ・デッド・オブ・ナイト」だけは決まっていましたが、その他は今年1月から自分の所有メタルCDを全て聴き直し、また新たに聴くものも加えて計100枚弱の中から選曲しました。
90年代前半にバンドを始めてメタルに憧れていた、その時代感覚は色濃く出したいと思っていたので、同世代で当時バンドをしていた人たちは皆弾いたであろう、ミスター・ビッグやメガデス、パンテラは、必須と思っていました。
それに加え、メタルのクラシックであるレインボーやディープ・パープルの有名曲は、歴史的なスタンダードとして、押さえておきたかったです。
そして、企画が始まってから色々チェックする中で、なんとなく面白そうと買ってみたベビーメタルがあまりにも強烈で、どっぷり嵌ってしまい、早速カヴァーしました。これに関しては、通常ならプロデューサーが売るために「新しくて流行っているものも一曲入れてよ」とか言ったりしてアーティストが渋々カヴァーするところですが、私の意思で入れています。正直に言うと、最初は色物のアイドルと思っていましたが、本当に素晴らしい、メタルの歴史を塗り替えつつあるプロジェクトだと思いますし、大ファンです。
ディレクター阿部氏から、「テクニカル系を真正面からやる曲を1曲入れて」という注文がありましたので、こちらは、今回の企画のために聴き直して面白いなと思ったバンド、アングラの新作曲に取り組むことにしました。実際のライブも見たかったので、来日ツアーも聴きに行ってきましたが、学生時代に人間椅子を聴きに行って以来のスタンディングのメタルのライブは、体力的についていけるのか不安でしたが、とても楽しくノリノリで帰ってきました。ミイラ取りがミイラになったとはこのことです。

この選曲作業に膨大な時間を費やしましたが、以前と違うのは、リスナーとしての視点だけでなく、プレイヤー&プロデューサーとして、分析の耳で聴けること。
アコースティックピアノでカヴァーするとなると、メタルの本質である「重い、速い、強い」を真似することは、楽器的に無理があります。また、反復して音楽を強くしていくのも、ジャズの即興性と相容れない部分があります。
ですので、曲の骨子をくみ取って、パワーコードでなくても、ギターのカッティングがなくても、ツーバスでなくても、反復しなくても、絶対に世界観の崩れない強いメロディーを選び、なおかつ自分の音楽としてアレンジできる曲を選びました。
と書くと格好良さそうですが、結局は、私が個人的に好きな曲たちです。結果的に、ディープ・パープルからベビーメタルまで広い世代の曲が揃いましたが、なるべく30代の目線でカヴァーしようと心がけた結果の選曲です。

トリオを組むメンバーも、日本のジャズシーンにおいて第一線で活躍する、同世代の大変優秀なプレイヤーです。勿論メタルを通っているので、リハーサル時は勿論、当時の話や共通して聴いていた曲やバンドの話になると、なんだか高校生に戻った感覚です。

ジャズだと、その場に応じて即興でどれだけ何ができるか、その日何が起こるのか、ほぼ毎日ライブで演奏する中で、常に最高のアイドリング状態を保たなければいけない部分があり、日常的に緊張感のある状態で生活しています。どこか、音楽の興奮や新鮮さと自分自身が並列になっている感じがあるのですが、メタルを再度聴き始めると、圧倒的なパワーや世界観にひれ伏すというか、「うわ、カッコイイよ!なんだこれ!」という興奮が戻ってきて、これって凄く大事な音楽のスタートラインの興奮なんですけれど、毎日の音楽生活で希薄になっていた感覚でした。おかげで、普段の演奏活動もメリハリがついたので、この企画を与えてもらって感謝しています。
今回アルバムを構成するにあたり、録音したけれど収録しなかった曲や、取り上げたい曲はもっと沢山あったので、今から第二弾の選曲の妄想が始まっています。

西山瞳

(2015年CD付属のライナーノートより)


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