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書籍『女性ジャズミュージシャンの社会学』を読んで

5月のいろいろ(2023年)」に書きましたが、追記していくとかなり長くなってきたので、別記事でポストします。

こちらの書籍です。
『女性ジャズミュージシャンの社会学』

まずは、「5月のいろいろ(2023年)」に書いたものです。


ディスクユニオンで物色していた時に、たまたま見つけた本。
当事者として読んでおこうと思い、買いました。

フランスのジャズ界での社会学調査。
ただし、調査して書いた著者がジャズシンガーなので、第一部のジャズシンガーをめぐる状況の項目は主観的な目線が多く、客観性において少し留保が必要かなと思いました。
状況は日本も似ているので非常に理解できますが、そもそもインストゥルメンタル主体の音楽において、勉強しなくても良い、歌詞があるから、と言っているように読めなくもなくて、そのぼんやりしたマインドも差別を後押しし正当化する要因になっていることは、女性の私から見ても、思うところはあります。
それはもう通用しない時代になっていると思いますし、実際に周囲のシンガーを見ていると、この本の調査の時期と現代の事情は変わっているなと思います。
調査の時期が1998年からと少し前のことなので、その後、グレッチェン・パーラトや器楽的なシンガーが世界を引っ張る状況になり、今のシンガーは、皆もっと勉強している。また、Me Too運動の始まる前から徐々に社会的な意識も変化しており、この本が出版された時より大きく社会と個人の意識も変わってきたな、ということを実感しました。もちろん、まだまだ途上です。

第二部の女性器楽奏者については、私自身が当事者です。
「女性性をどのように出していくか、常にコントロールが必要」というところには全く同意で、過剰に男性っぽくふるまうことも、女性らしさを強調するビジュアルでいくことも、意識的、無意識的に関わらず常に留意して、常に評価の対象にされてきた実感があります。男性が仕事を得る、バンドに入る際に、男性性をどれぐらい出すかなんて、考えないでしょう。

日本の場合、2000年代以降、女性器楽奏者は非常に多く、レコードデビューする機会が多いのは圧倒的に女性でした。
売れるからですよ。ジャズリスナーは圧倒的に男性で、女性の方がCDが売れる。結局男性社会の市場に向けて、男性の製作者が女性ミュージシャンを見つけて放り込む形になっており、日本の女性ミュージシャン比率は高いといえど、これはこれで別のジェンダー問題があったわけです。
私もその背景からデビューした身で、そういう構造の中で生きてきた当事者であり、「女はすぐデビューできる」「女だから客が入る」「女は下駄を履かせられていいな」などと言われる中で、いわばその構造、大きくジェンダー問題がある構造を〈利用して〉、サバイブしてきました。
だから、構造を利用した私も、その構造の再生産に加担してきた意識があり、今問題意識を持っているから、この本を購入して読むという現在に繋がっています。

細かいことは本当に沢山あって長くなりますし、いくらでもこの本の感想や意見は書けるので、どこか依頼があったらちゃんと書きますが、問題とされている「女性比率が少ない」は日本では少し違う状況になっているということは言っておきたいと思います。
今は、レコード会社や媒体の力が弱くなって、皆がフラットになってきたと思います。女性ミュージシャン同士、皆好きに楽しくやってますよ。



ここから、今回追記した部分です。

その後、実際日本のジャズクラブの女性比率はどうなっているのだろうと、
何の気なしにチェックしたら、〈女性が多くなった〉というのは体感というだけで、実際には全然多くないということがわかりました。
すみません、私の認識不足でした。数字を出したら全然多くなかったです。当事者として、もっと多いと思っていた。フランスのこの本の調査の時期に比べたら、その比率はかなり多いですが、それでも全然多くなかった。

暇な日があったので、6月のジャズクラブスケジュールで発表されているブッキングを見て、男性と女性の数とその比率を出してみました。
東京、埼玉、横浜エリアのみです。
同じ店に何度も出ているミュージシャンも、出演の都度、複数カウントしています。これは「出演者」ではなく「出演機会」としてカウントしました。
存じ上げないミュージシャンで、お名前から男女どちらでも考えられるお名前の場合、女性の方にカウントしています。(女性の方が少ないので) ノンバイナリーの方がいるかもということは、今回考慮から外しています。入れたとしても、男女で圧倒的に差が出たので、おそらく結果は変わらないと思います。
そして、ヴォーカルに特化したブッキングをしているクラブも、除外しています。これは、最初から女性シンガーのオアシス的な立て付けになっている部分も大きいので。(これはこれで別に統計取った方がいいかもですね)

(お店 出演者男性の数、出演者女性の数、比率、収容人数規模)

A店 男52 女19  73:27 30人規模
B店 男19 女14  57:43 30人規模
C店 男33 女4  89:11 20人規模
D店 男22 女18  55:45 20人規模
E店 男26 女10  72:28 30人規模
F店 男55 女12  82:18 老舗 100人規模
G店 男137 女20  87:13 老舗 100人規模
H店 男36 女10  78:22 老舗 50人規模
I店 男74 女19  80:20 老舗 50人規模
J店 男109 女18  86:14 老舗 100人規模
K店 男81 女33  71:29 老舗 100人規模
L店 男81 女19  81:19 老舗 50人規模
M店 男117 女22  84:16 老舗 50人規模
N店 男43 女32  57:43 30人規模
O店 男63 女26  70:30 30人規模
P店 男65 女27  71:29 老舗 100人規模
Q店 男46 女14  77:23 20人規模
R店 男65 女8  89:11 30人規模
S店 男99 女9  92:8 100人規模
T店 男28 女12  70:30 老舗 50人規模
U店 男38 女21  64:36 100人規模
V店 男51 女19  73:27 30人規模
W店 男112 女19  85:15  100人規模




実際のそのお店特有を思われる男女比があるとすれば、半年以上は継続して調査し比率を出さないと、確かなデータとは言ないと思います。
当月は、たまたま男性が多いということも考えられます。

お店にパリテを求めてはいませんし、個々のお店の問題ではなく労働環境・社会環境の問題なので、お店の名前は伏せています。

「このお店は女性ミュージシャンが多いから」と、暗に〈客寄せのためで、真剣なブッキングをするお店ではない〉と、半ば揶揄的にお店を評すようなミュージシャンの会話を聞いたことは、何度もあります。

男性ミュージシャンの中には、女性ミュージシャンがリーダーの仕事のことを「お姉ちゃん系」などと呼び、暗に〈お金が入る仕事だからやっている、音楽に魅力があるからではない〉とほのめかすような会話を聞いたのも、一度や二度ではありません。

『女性ジャズミュージシャンの社会学』を読んで、上記に挙げられる女性の出演を小馬鹿にする言動がこれまで少なくなかったことを思い出し、(同時に女性インストミュージシャンもそこにヒエラルキーを見出し、それに迎合したりするのですが)、実際に日本のお店には女性ミュージシャンが多いのか、多い気はするけれどそうでもない気もするし、ちょっと気になってきたので、調べてみようと思いました。

結果、全てのお店で、女性は男性より少なかったです。老舗の比率が興味深いのと、老舗に出演する女性ミュージシャンは、同じミュージシャンがかなり重複しています。女性ミュージシャンは、シンガーとピアニストが圧倒的に多いです。

「女性が多くなった」というのは体感というだけで、実際には全然多くないということがわかりました。
当事者として、もっと多いと思っていたんですよ。私の認識不足でした。

体感でもっと女性が多いと思っていた原因は、今、女性同士でつるんでいる時間が、過去に比べて長いからだと思います。
ご飯食べるとかリハするとか、一つ一つの付き合いが同志感があって、少し踏み込んだ感じになるからだと思いました。
男性とライブの後に飲みに行ったりって、なかなかしないです。男性同士はよくしていましたよね。それが、現場に女性が増えることで、女性同士もそういう交流が多くなってきたのでしょう。

余談ですが、〈歌だけ女性、リズム隊は男性〉と決まっているお店とか、昔はありましたね。最初から女性の器楽奏者は排除されていたけど、それは普通のことと私自身も受け入れていました。(現在そのお店はそんなシステムは止めています)

そんなわけで、明らかに、20年前よりは女性ミュージシャンは増えているとは感じています。それでも少なかったんだなあと、出てきた数字が大変興味深かったので、別記事にして書きました。




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