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「Copilot+ PC」の未来〜Snapdragon X Elite/Plus 搭載PCの発表

5月20日、Microsoftが「Copilot+ PC」の詳細を発表した。少し聞きなれない用語だが、今までPC業界で「次世代AI PC」(Next-Gen AI PC)と呼ばれていたものが、今回の発表で正式な名称として「Copilot+ PC」となったのである。

2023年に発表されたAMDのRyzen7040シリーズ(リフレッシュ版の8040シリーズ)IntelのCore Ultraプロセッサーを搭載したAI PCが第1フェーズのAI PCだとすると、Copilot+ PCは第2フェーズのAI PCとなる。今まで各PCメーカーは、ARM版Windowsに消極的と思えるほどARM搭載PCを発売してこなかった。

一世代前のSnapdragon 8cxを搭載したPCは指を折るほどしか発売されなかった。動かせるPCが少ないこともあり、ARM版Windowsはそれほど発展せず下火になっていった。しかし、今回は何かが違うと思わせるほど、各メーカーは搭載PCを発表している。

この日が解禁日なのか、MicrosoftのSurface ProとSurface Laptopはもとより、Acer、ASUS、Dell、HP、Lenovo、SamsungなどのグローバルOEMメーカーがSnapdragon X Elite/Plusを搭載したノートPCを一斉に発表し、6月には販売開始するモデルも多い。不思議なことに、各メーカーの発表したノートPCの中に、AMDやIntelのCPUを搭載するノートPCが一つもない。各メーカーが本気でSnapdragon X Elite/Plusに力を入れていることが伺える発表となった。

今回のMicrosoftの発表では、Copilot+ PCの要件も明らかにされた。

・Windows11の要件を満たしていること
・Microsoftが承認したSoCで、NPUが40TOPSの性能を実現していること
・DDR5またはLPDDR5で16GB以上のメモリ
・SSDまたはUFSで256GB以上のストレージ

メモリやストレージはこれより低い容量だと満足いくように動かせないということだと思う。確かに近年のPCで「メモリ8GB、SSD128GBで快適です」という場面は少なくなってきている。スマホでもメモリ12GBとか搭載する時代ですし、ブラウザ利用だとしても動画の画質向上など比較的メモリの消費容量も増えてきている。PCとして利用する限りは、使用制限をかけずに快適に利用したいという思惑は納得できる。これら要件の中で特筆すべきは、40TOPSというNPU性能であろう。TOPSとは「Trillions Operations per Second」の略で、1秒間に命令処理を何回実行できるかを表す値である。40TOPSということは「1秒間に40兆回の命令処理ができる」ということになる。これがどれだけすごい値かというと、現時点で存在しているSoCのTOPSを比べてみると分かる。

・AMD Ryzen7040シリーズ:10TOPS
・AMD Ryzen8040シリーズ:16TOPS
・Intel Core Ultra:11TOPS
・Apple M4:38TOPS
・Qualcomm Snapdragon X Elite:45TOPS
・Qualcomm Snapdragon X Plus:45TOPS

以上のように、最新のCPUやSoCを見ても、40TOPSを超えているのは、今回発売が発表されたSnapdragon X Elite/Plusだけである。2024年後半に発売が予定されているIntelのLuna Lake(45TOPS以上)、AMDのRyzen AI 300シリーズ(旧Strix Point/48TOPS程度)はCopilot+ PCの要件を満たすように登場するが、現時点で要件を満たすものがほとんどないほど、40TOPSという要件は厳しいものである。AIを取り込む形で進歩する計画のMicrosoftとしては、それを見越しての高い水準を提唱しているのかもしれない。

昨年より生成AIを巡る環境は激化し、競争が激しくなっている。MicrosoftはChatGPTを開発したOpen AIとパートナーシップを結び、Copilotのような生成AIアプリを提供している。
このことから他のプラットフォーマーよりも一歩さきに出た感がある。

GoogleはGeminiを投入し追い上げようとしているが、Appleは完全に出遅れた感があり、AmazonやMetaもAIに乗り出しているがまだ形になっていない。この状況をみると、Microsoftとしては1日でも早くCopilot+ PCを発売して、他社を引きはないたいと考えたに違いない。
そうなると、大切になるのが心臓部のSoCである。

以前は、Wintelと呼ばれたほど蜜月関係であったMicrosoftとIntelを知る者しては、「なぜIntelでなくQualcommのSoCでローンチしたのか」が腑に落ちなかったのだが、40TOPSという要件を見て、「なるほど」と合点がいった。Intelも開発をしていなかったわけではなく、Luna Lakeで要件をクリアしているが発売が遅すぎるのである。Snapdragon X Eliteは2024年の第一四半期の段階で出荷できる準備が整っていたという情報がある。つまり、今すぐ発売ができる状態にあったのが、Qualcommだけだったというのが答えだろう。

裏事情は分からないが、QualcommもMicrosoftの発表に合わせて搭載PCを出荷できるように努力したとも考えられる。この両社の思惑があっての今回の発表と思うと、我々は策にまんまとひっかかったといえる。第一四半期で出荷できるものを第三四半期の5月まで隠すことで、OEMメーカーは搭載PCを作る猶予ができ、それを多くのメーカーが一斉に発表するというインパクトのある商品発表になったのである。ユーザー側としては、新しいSoCのPCがこれだけ発表され、6月には購入できるとなると、ワクワクしてくることだろう。

AppleのM1発表のときと似た感覚を持ったのは僕だけだろうか。「M1という新しいARMは高性能らしい」「アプリの互換性も高いらしい」という前評判からの深夜2時の発表、発表後の受注受付、と、あの日の高揚感は今でも鮮明に覚えている。

実際に手に取ったときの性能の高さには脱帽した経験があるからこそ、その後のM2、M3、M4も期待して手に取ってみたくなる。今回のは多くのメーカーに分かれているので、M1と状況はことなるが、アーリーアダプターでなくとも使ってみたくなる。

しかし、現状として残念な点もある。「x86、x64ベースのアプリとの互換性について、つまり、ARM版Windowsについての明確な説明がないこと」「5G対応のセルラーモデルが2024年後半まで発売されないこと」
この2点は、僕が一番気になってた点であるだけに、今回の発表で解明されなかったことが非常に残念であり、不満でもある。まだ隠すのか、説明できるほど完成していないのか。

今使えるARM版Windowsは、MacのParallels Desktopくらいであるが、中身は、Surface Pro Xに搭載されているものと同じであるため、x86、x64の互換性はないに等しい。さすがのMicrosoftもここまでお膳立てをしておいて、OSが互換性を持たないとはいえないと思うが、こればかりは商品を手にしてみないと分からない。発売が6月18日からだということなので、もうしばらく我慢をする日が続きそうである。

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