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コロナ禍でのオンライン講義

2020年3月、世界中の大学で講義がオンラインになりました。新型コロナウィルス感染拡大により、各大学がキャンパスを閉めたからです。キャンパスを閉めたからといって、講義を止めるわけにはいきません。

オーストラリアでも、国境を閉めてからも国内の感染者が増えていましたので、いつオンラインになってもおかしくない状況で私も準備をしていました。そして3月半ば、大学から今週の講義からオンラインへという指示がありました。その約10日後、オーストラリアはロックダウンに入りました。
オンライン講義に関する事は、土木学学会誌2021年5月号、「座談会 コロナ禍という「外力」により教員・学生・スタッフは何を見たか」でもお話ししておりますが、ここではどのような状況で、オンラインで講義をしたかを振り返り、今現在のデルタ株の感染拡大をめぐる状況をお伝えしたいと思います。

オンラインシステム

まず、パンデミック以前からオーストラリアのほとんどの大学ではオンラインシステムを導入していました。よく使われているのは、MoodleやCanvasなどです。当大学ではCanvasを使っています。このCanvasは、講義で使う資料などをアップロードして、履修学生に配布することができます。また急な講義内容の変更やキャンセル等のアナウンスができるようになっています。そしてこのシステム上で講義の録音やオンライン講義もできるようになっています。私もオンラインシステムの使い方などをトレーニングしていましたので、コロナ禍でのオンライン講義への移行にはあまり抵抗はありませんでした。

2020年3月、全世界の大学教員の間で流行り、220万回以上再生された'I Will Survive, Coronavirus version for teachers going online'
テクノロジーに苦手な教員の苦労がよく表現されています。

Zoomを使う

私はこれまでオンラインで講義する時はCanvas内のシステムで使えるBlackboard Collaborateというオンライン講義のプラットフォームを使っていましたので、Zoomを使ったことがありませんでした。ただこのシステムだと、海外にいる留学生が特定の機能にアクセスしにくいという問題が発生しました。そこで留学生にはアクセスしやすいZoomを使うことにしました。Zoomだと1画面に25人分のスクリーンしか見えませんので、当時の履修者160人を見るには、講義をしながら画面をスライドしなければいけないというのが面倒ではありました。対面講義だと、これが一度にできるので、学生にきちんと内容が伝わっているかどうかを知るのは、やはり講義室の方が便利だと思いました。

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写真は昨年の講義の一コマです。

利点と問題点

大学内では、オンラインになることで、学生の講義の参加頻度や参加態度などがどのように変わるかとても心配していました。まず良かった点は、普段教室ではなかなか発言をしない学生が、オンラインでは気軽にチャット機能を使って質問をしたりコメントしてくれたことです。学生はチャットの方が慣れているのかもしれません。問題点としては、学生側のインターネットの接続状況で、ビデオカメラをオンにするととてもアクセスが悪くなると言う理由からカメラをオフにする学生もいて、全員の学生の顔が見えない事でした。教える側としては、相手の顔が見えないというのはやりにくいものです。講義への参加ですが、ロックダウンでアルバイトなどもお休みになる学生がほとんどでしたので、参加率は変わらなかったです。

やっぱりサポートは必要

全体的には、ほとんどの学生はうまく対応できていたと思います。ただ中には、生活上の心配などや家庭環境、プライベートな理由からメンタルが病んでしまって、学習自体に集中できないという学生もいました。また、金銭的な事情から、インターネットへのアクセスをアップグレードできない、カメラ(webcam)やヘッドセットなどを買うことができない学生もいて、そちらは大学でサポートをしていました。私が1番気になったのはやはり学生のメンタル面です。精神的な事情で、学習に打ち込めないという学生に関しては、これまでの経験からなんとなくサインを感じる事ができますので、他の教員と情報をシェアしてサポートをするようにしました。(私はMental Health First Aiderの資格も持っていますので、資格取得の際に学んだ事も役に立ちました)

オンライン講義は続く

2020年内の講義は11月に終わりました。このセメスター2までは、オンライン講義を続けていましたが、キャンベラでは感染者数がゼロと言う状況が続きましたので規制が緩和されました。そこで2021年からは、キャンパスに来られる学生(キャンベラや周辺の地域に在住)は、基本的にはキャンパスで講義を受けることになりました。もちろん、ソーシャルディスタンスが十分に取られない状況では、マスク着用などのルールは残ります。2021年の第1セメスターは2月から5月の間でしたが、この間大きな問題もなく無事終了しました。しかし、キャンパスに来られない留学生や、時々起こった感染拡大による国内の移動制限によってキャンパスに来られなくなったキャンベラ以外に住む学生のためにオンラインの講義も同時並行で行いました。私は、実習のような講義を行っていませんが、同じ学科で例えば建築のコースだと実習がありますのでそういった学生に関してはキャンパスに来られない学生が不利にならないように担当教員が色々と工夫をしていました。ここでも、キャンパスに来られない学生でなんとなく学習に遅れが生じていると思われる学生に関しては、教員間で情報を共有しサポート体制をとっていました。

どうなる今年の第2セメスター?

2021年前半は、オーストラリアでは、コロナ感染はあまり大きな問題もないままに過ぎましたが、6月に入ってデルタ株の感染拡大が起こっています。7月17日現在シドニーとメルボルンはロックダウンに入っています。こうした状況から、現在キャンベラでは各都市から住民以外が入る事はできません(特別に許可された場合を除いて)。そして、キャンベラがあるACT政府はすでに、他州から来る学生には特別措置を取らないと発表しています。第2セメスターは8月の1週目から始まります。キャンベラ以外の地域の出身の学生で、冬休みを実家などで過ごしていた学生は、当然講義が始まるまでにキャンベラに戻ることができません。当大学では、今週こうした学生に対してはオンライン等で学べるように措置を取るように教員に指示を出しました。今現在、このデルタ株の蔓延がいつ収束するのか、全く見えておりませんし、もしかしたらキャンベラでも感染者が出るかもしれません。こうなるとまた全学生に対してオンライン講義をするという事になるでしょう。
大学運営においては、こういった状況にも常にフレキシブルに対応することが必須であり、今回のパンデミックが、大学教育に大きな課題をつきつけたと言えるでしょう。

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