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ティッシュというブラックボックス

箱ティッシュって、使いやすい。
 
ティッシュという難儀な物体を箱から引き出すたび、そんな風に思う。
 
ティッシュは人間が扱うには、薄すぎると思うのだ。

広げれば向こう側が透けてしまうほどの薄さ。昔はこれをスカートの生地にしたら光の加減が綺麗だろうなぁとか考えていたが、雨の日なんかは大惨事になること間違いなしの発想である。私は思いつくとなんでもやってみたくなる「やってみたがり病」に罹っているので、当時の自分が思いとどまってくれて本当によかった。
 
そんな薄くて扱いづらい物体を規則正しく折りたたみ、半ば自動的に次々引き出せるようにした人間の発想力と行動力と企業努力に敬意を表したい。
 
感謝の気持ちでいっぱいになりつつ、私は今日も幾度となくティッシュを引き出す。
 
さて、そんなティッシュであるが、私が箱のティッシュを使うとき、いつも疑問に思っていることがある。


「今から引き出すティッシュはどんなティッシュだろう?」
 


もちろん普通のティッシュなのだけれど、不思議なのだ。
 
どうしてみんな今から引き出すティッシュが、今までと同じ普通のティッシュだと信じられるのだろうか?
 
ここにティッシュの箱がある。
五センチほど顔を出したティッシュを引き抜いたら、もしかしたら、1メートル級のティッシュかもしれない。
 
いや、わかっている。

そんなわけはないのだ。

そんなことがあったら驚きと興奮で特に意味もなく体に巻き付けてしまうだろう。
 
そんなことはわかっているが、考えてしまうのだ。
 
例えばすごくカラフルでイケイケなティッシュが出てくるかもしれない。もしかしたら星形のティッシュが出てくるかもしれない。「大当たり!」と書いたティッシュかもしれない。下半分がビニール質のティッシュが出てくるかもしれない。
 
かもしれない。
 
もちろんそんなわけないのだ。
 
しかし考えてしまう。
 
花粉症の時期、鼻がムズムズしてたまらないときにそんな個性的ティッシュを引いてしまったらどうしようという不安に駆られる。逆に平凡な気持ちのときは、そんな個性的ティッシュが当たったら面白いと思ったりもする。
 
箱ティッシュというブラックボックスは面白い。
 
最近はフィルムで覆われた、そもそも箱ではないタイプも目にするようになったから、いずれこのドキドキは特別な嗜好品のように贅沢なものになるのかもしれない。
 
……そんなわけないか。
 
そんなことを思いながら、次はどんなものが出てくるのだろうとドキドキしつつ、今日も至って普通のティッシュを引き抜くのだった。

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