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シリーズ「地域のために、わたしたちにできることってなんですか?」 うきはの宝・大熊さんと考える、地域の課題を解決するビジネスの考え方。

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株式会社読売広告社・ひとまちみらい研究センターは、「地方創生のまん中に、ひとがいる」を理念に掲げ、地域が抱える課題に対し「観光振興」「産品開発」「移住・定住」「ブランディング」等、独自のワンストップソリューションで応えるプランニングチームです。

地域の潜在価値を掘り起こし、高めていくためのモノづくり・コトづくり・場づくり、そして最も私たちが重視する担い手(ヒト)づくりで、地域を熱くサポートしています。

今後さらに地域の方々に寄り添い、本当の意味で「地方創生のまん中に、ひとがいる」状態を目指すために、地方創生の第一線で活躍する方々と対談を重ねながら「地域のために、わたしたちにできることはなにか? 」をあらためて問い直す企画を始めることにしました。

その名も、「地域のために、わたしたちにできることってなんですか?」

もちろんこの問いに絶対の正解はありません。わたしたちに「できること」を見い出すために、地域に関わる第一線で活動されている方々と議論を交わしながら答えを模索していきます。

初回の対談相手は、うきはの宝株式会社、代表の大熊充さん。2020年4月に「ばあちゃん食堂」をオープンさせ、地域のおばあちゃんたちが生きがいと収入を得られることを目ざして、75歳以上のおばあちゃんたちの働く場・活躍する場づくりをしています。

今回は、地域で事業を営むプレーヤーである大熊さんの視点から、地域の課題を解決するビジネスの考え方についてディスカッションをしていきます。地域のために、読売広告社・ひとまちみらい研究センターができることはなにか?大熊さんと一緒に考えてみたいと思います。

●対談相手
大熊 充さん
うきはの宝株式会社 代表取締役
1980年福岡県うきは市出身。バイク事故での約4年の入院生活後、 2014年にデザイン事務所を創業して代表に就任。2017年専門学校日本デザイナー学院九州校に入学し、グラフィックデザインとソーシャルデザインを学ぶ。在学中にボーダレスジャパン主宰の社会起業家育成の学校、ボーダレスアカデミーを修了して起業プランを固め、うきはの宝株式会社を2019年10月に設立、代表取締役に就任。2020年福岡県主催のビジネスコンテスト 『よかとこビジネスプランコンテスト』で大賞、2021年農林水産省主催の「INACOMEビジネスコンテスト」で最優秀賞を受賞。
●ファシリテーター
岡山 史興さん
70seeds株式会社の代表取締役/ウェブメディア『70Seeds』編集長
「次の70年に何をのこす?」をコンセプトに掲げる70seeds株式会社の代表取締役編集長。
これまでに100以上の企業や地域のパートナーとしてブランド戦略立案からマーケティング、PR、新規事業開発を手掛ける。
2018年から「日本一小さい村」富山県舟橋村に移住、富山県成長戦略ブランディング策定委員などを務める。
●株式会社読売広告社・ひとまちみらい研究センター
角田 文彦
ひとまちみらい研究センター センター長代理
1968年東京都世田谷区出身。テレビ局担当後、営業局にて、ビール・飲料、食品・出版・電力会社などを担当。2021年より現職、地方自治体では山梨県、長野県、島根県、大分県、熊本市など担当。ネブタ・スタイル有限責任事業組合職務執行者として青森のねぶた祭りの産品開発にも従事。

松尾 彩香
福岡県直方市出身。営業局にて、食品メーカー、化粧品メーカー、自動車メーカー、インフラ会社等を担当。2020年から国の需要喚起キャンペーン事業を担当し、日々地域の事業者対応に従事。
※2022年3月時点。

「ばあちゃんへの恩返し」が出発点。対象者ありきで始めた地域事業

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大熊さんが「ばあちゃん食堂」を立ち上げようと思った原体験は、20代の頃。

大きなバイク事故に遭い長い入院生活を余儀なくされていた当時、辛い気持ちを和らげてくれたのが同じ病院に入院していたばあちゃん達でした。事故と長期入院のショックから、塞ぎ込んでいた大熊さんに「どこが悪いと?」「どうしたと?」と毎日話しかけてくるばあちゃん達。最初は頑なにコミュニケーションを拒んでいた大熊さんもついには笑ってしまい、精神的に追い込まれていたところを救われたといいます。

「ばあちゃん食堂」の拠点である福岡県うきは市は、大熊さんのふるさと。人口減少や高齢化を悲観する地元の人が多いなか、自分にできることは何か?を考えるため、まずはボランティアでお年寄りの無料送迎を始めることにしました。

そこで感じたのは、高齢者の生活困窮の課題。おじいちゃん・おばあちゃんからは「年金だけでは生活がカツカツで、あと月2.3万プラスであれば生活が楽になるのに」という声を多く耳にします。さらにコロナ禍の影響でおうち時間が増え、週に一度、会話をするのは大熊さんだけ。という高齢者も少なくありません。

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「じいちゃん・ばあちゃん達に、生きがいがなくなっている」
「人に必要とされる役割がなくなっている」

彼ら彼女らの生活を目の当たりにし、辛いときに人生を救ってくれた「ばあちゃんの存在」に恩返しがしたい、とばあちゃんたちの仕事づくり・生きがいづくりに一生を捧げるつもりで設立したのが、75歳以上のおばあちゃんたちの働く場「ばあちゃん食堂」でした。

地域創生や高齢者問題が目的ではなく、あくまで、ばあちゃんのため。「ばあちゃん食堂」が賑わうことで、結果としてうきは市が元気になる仕組みをつくりたい。そう話す大熊さんは「人がいて、地域がある」対象者ありきの地域創生を体現しています。

自分たちの地域に自信をもつには?プレーヤーが旗を振る大切さ。

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岡山:地域を元気にする過程において、住んでいる地域に自信を持つことの大切さを大熊さんの取り組みから改めて実感させられます。それこそ読売広告社(以下、読広(よみこう))が提唱しているシビックプライド「自分たちの住む街に誇りを持つことが大事だよね」という考え方にもつながるんじゃないかなと。

大熊さんの経験から「こういうステップを踏むと自信がアクション(サービス展開や事業立ち上げ)につながるんじゃないか?」という考えがあれば伺いたいです。

大熊:自信がついてから行動するのではなく、まず行動することが大切だと思うんです。受け身ではなく、自分から旗を振ること。自信は後からつくものだと思うので。

松尾:具体的に、大熊さんが起こした行動でいうと、どのようなものがありますか?

大熊:とにかく旗を振ることは意識していました。「ばあちゃんたちの仕事づくり、生きがいづくりがしたい! 」と周りの人に話すことで共感・応援してくれる人に出会え、事業も具体化していきました。仲間なしでは無理だったと思います。

ばあちゃん食堂の他にも、古民家のシェアオフィスの運営もしているのですが、入居企業はうきは市内外問わず10社もあるんです。応援してくれる企業があってこそ、事業が継続でき自信や誇りにつながった実感がありますね。

岡山:シェアオフィスで仕事をしていると、一緒に仕事をしている入居企業同士のつながりができるのもいいですね。

大熊:そうですね。嬉しいことに、ばあちゃんのことで困っていたら「手伝おうか?」「取り引き先つなごうか?」と言ってくれる人もいますし、その場でプロジェクトが立ち上がり課題が解決しちゃうこともあるんです。

ここに来る人からは「どこからどこまでが、大熊さんのところの社員なのかわからない! 」と言われるくらい(笑)。境界線のない仲間づくりを意識していますね。

地域 × 外部プレーヤーの関わり方の課題感

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岡山:読広も地域の方々と組んでプロジェクトを進めていくことが多いと思うのですが、その中で感じる課題感などはありますか?

松尾:東京の企業ということもあり、地域との関わり方・コミュニケーションの取り方を考えていく必要があるように感じています。大熊さんの視点から、「地域の人たちにとって、都会の企業とこういうふうに一緒に仕事ができると嬉しい」、逆に「これをされると困る」といった事例はありますか?

大熊:都会の企業がコンサルティングとして地域に入ってくれることはとても助かるんです。地元の人だけ、地元企業だけではどうしても上手くいかないこともあるので、風穴を開けてくれる地域外の企業・人の存在は貴重です。

ただその上で、地元の人・地元企業が置き去りになり、行政と都会の企業だけでプロジェクトが進んでしまうケースも少なくなく、違和感を感じることもあります。

例えば、業務の委託先や建築物の設計者を選定するときに、複数者に企画を提案してもらい、その中から優れた提案を行った企業・人を選定する「プロポーザル」。

知らないうちにプロポーザルが行われ、プロジェクトを実行する企業と契約期間、ミッションが設定されたあとに、僕たち地元の企業・人に話が来るんです。

そのタイミングで「君たちの地域のお手伝いをするんだから一緒にやろうぜ!」と言われても、そもそも行政との関係がよくなかったり、よくわからないうちに「これやってください」と突然指示が飛んできたり。さらに契約期間を終えたら帰ってしまうので、複雑な気持ちになることもありますね。

松尾:私たちも契約期間は一生懸命やらせていただき、それ以降は地域の人たちが自走できる施策ができればと思っているのですが......。どうしても契約期間内のお付き合いになってしまう部分は課題に感じています。

大熊:おっしゃる通り、地域の人たちが自走できなければせっかくコンサルティングで地域のブランド価値が高まっても一時的になってしまうんですよね。言われた通りにしたら売れたね!と喜ぶのもいいですが、指示してくれる人がいなくなったらまた売れなくなってしまうのは問題だなと。プロポーザルやコンサルティングが悪いわけではなく、もっと事前に行政と地元企業が話し合いコミュニケーションをとっておく必要があるのかなと思いますね。

プレーヤーの育成と全国規模のネットワークを活かした場づくり

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松尾:弊社は広告代理店として、プロモーションや情報発信をメインの業務にしているのですが、それによってどこまで地域に貢献できているか?どう関わることが地域のためになるのだろう?と日々の業務を通して考えさせられています。

大熊:地域との関わり方でいうと、例えば単発で盛り上げるのではなく、中長期的にプレーヤーを育成する視点を持つのはどうでしょう?PR案件であったとしても、地域の人との関わりしろをあえて作り、彼ら彼女たちにプロジェクトの過程を見せるのがいいと思うんです。

岡山:契約期間が終わったら地域へ引き継ぐのではなく、最初から地域の人たちも入って一緒につくりあげるということですね。

大熊:はい。全体像を共有しながら進めることで「こうしたら、こうなるのか」と仕組みが理解できます。結果として、地域の人たちが自走する力もつくと思うんです。

松尾:なるほど、その視点は新発見でした。

大熊:なので、「育成」とか「教育」という意味で地域に関わってもらえると一番いいのかなと。人が育たないと、地域も育たない。どこまでいっても人なのかなと思いますね。

角田:具体的に、読広のポジションだからできる地域へのアクションについてもご意見を伺いたいです。

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大熊:読広さんが持つ地域とのネットワークを活かして、ノウハウ・機会(チャンス)を共有し、県内外問わず民間企業・行政といった横のつながりを生み出していくのはどうでしょう?私たちも「ばあちゃん食堂」を一つのビジネスモデルとして全国展開するときは、ただフランチャイズの加盟店を見つけたいのではなく、必要としている地域や課題感を抱えている方々に届けたいんです。

でも現状、全国規模でのネットワークは持っていないため、問い合わせが来るたびにばあちゃん食堂の事業モデルがその地域にマッチするのか地道にやりとりをしながら進めています。もし横のつながりがあれば地域同士の連携がスムーズになり、お互いに情報共有をしたり、助け合えたり、より良いものが生み出せるのではないかなと思いますね。

岡山:今のお話から、地域同士の化学反応が起きるのを待つのではなく、むしろ読広側から仕掛けていくこともできそうですね。

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松尾:そうですね。私たち「ひとまちみらい研究センター」だけでなく弊社には各地域に支社もあるので、これまでつながりのある地域同士のネットワークを活かしたサポートができそうです。

角田:ただ、どうしても簡単に実らない、時間がかかる気がしてしまう部分もあって、営利企業としては社会貢献事業だけでは立ちいかないジレンマもあります。

大熊:これまで通り、プロポーザルや広告業で収益を出しつつ、少しずつ地域同士がつながる場づくりにもシフトしていくのが良いと思います。

僕らの運営する古民家シェアオフィスもそうですが、横のつながりが生まれる場を設けることで「これとこれを掛け合わせたらどうだろう?」「こんなことできそう!」と、入居企業同士で勝手にプロジェクトが生まれるんですよね。そうやって人が集まるところには情報とお金も集まってくる。

もっと言うと、読広さんのノウハウを活かせば、戦略的にマッチングさせることもできると思うんです。「AとBの地域が組めばより良いプロダクトができそう」「AとBの企業でコラボすれば市場が取れそう」とか。

行政・民間企業問わず、地域で何かやっていきたい人たちは、横のつながりを作りたいニーズはあると思うので、今あるネットワークを活かして仕掛けていってもらいたいです。これまでの実績そのものが読広さんの強みなんじゃないかなと思いますね。

もし大熊さんが読広の社長だったら、どうしますか?

角田:ありがとうございます!では最後に、もし大熊さんが読広の社長だったら、どうしますか?という質問で締めさせていただきたいと思います。

大熊:もっともっと地域に入り込むと思いますね!読広さんが持っている強み・実績は、地方の田舎にはないものなので、より深く地域に関わることで必要不可欠な存在になると思います。

そのとき、なるべく多くコミュニケーションが取れる関わり方ができるといいですよね。極端な話ですが、その地域に暮らしながら関わる人と、年に一度だけオンラインで関わりを持つ人とでは違いますから。

「地域のことをやります」と言うよりは、地域につながりが生まれる「場をつくる」。そうやって接点を持つことで、ぜひ全国各地の行政・民間企業同士をつなぐ役割を担ってほしいなと思います。

◯まとめ
テーマ:地域の課題を解決するビジネスの考え方
・地域で自信がついてから行動するのではなく、まず行動すること。自分から旗を振る
・中長期的に、地域におけるプレーヤーを育成する視点を持つ。(人が育たないと、地域も育たない)
・プロポーザルや広告業で収益を出しつつ、全国各地の行政・民間企業同士をつなぐ「場づくり」にも挑戦する
・「場づくり」を行った後は、行政・民間企業問わず戦略的にマッチングさせ、ビジネスチャンスを創出する

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※本取材は撮影時のみマスクを外し、インタビュー時はマスクを着用、感染症対策を講じた上で実施いたしました。

コンテンツ制作・監修 70seeds編集部
執筆:貝津 美里 編集:岡山 史興 写真:大森 愛