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シリーズ「地域のために、わたしたちにできることってなんですか?」TURNS・堀口さんと考える、東京の企業として目指したい地域との関わり方。

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株式会社読売広告社・ひとまちみらい研究センターは、「地方創生のまん中に、ひとがいる」を理念に掲げ、地域が抱える課題に対し「観光振興」「産品開発」「移住・定住」「ブランディング」等、独自のワンストップソリューションで応えるプランニングチームです。

地域の潜在価値を掘り起こし、高めていくためのモノづくり・コトづくり・場づくり、そして最も私たちが重視する担い手(ヒト)づくりで、地域を熱くサポートしています。

今後さらに地域の方々に寄り添い、本当の意味で「地方創生のまん中に、ひとがいる」状態を目指すために、地方創生の第一線で活躍する方々と対談を重ねながら「地域のために、わたしたちにできることはなにか? 」をあらためて問い直す企画を始めることにしました。

その名も、「地域のために、わたしたちにできることってなんですか?」

もちろんこの問いに絶対の正解はありません。わたしたちに「できること」を見い出すために、地域に関わる第一線で活動されている方々と議論を交わしながら答えを模索していきます。

第2回目の対談相手は、株式会社第一プログレス取締役/TURNS プロデューサーの堀口 正裕さん。当時広告代理店だった第一プログレスに入社後、雑誌『TURNS』を企画、 創刊を手がけ、日本全国あらゆる地域の魅力を発信しています。
今回は、雑誌媒体をはじめ、ウェブマガジン、リアルな場を通してさまざまな情報を提供し、移住・定住に関心のある人と地域の架け橋となっている『TURNS』プロデューサーの堀口さんと「東京から地域に関わる」企業としての「目指したい地方との関わり方」をディスカッションしていきます。地域のために、読売広告社・ひとまちみらい研究センター(以下、読広(よみこう)ができることはなにか?堀口さんと一緒に考えてみたいと思います。

●対談相手
堀口 正裕さん
株式会社第一プログレス代表取締役社長/TURNS プロデューサー
国土交通省二地域居住等の推進に向けた有識者委員、地域づくり表彰審査委員、総務省地域力創造アドバイザー等、地方創生に関連する各委員を務める他、地域活性事例に関する講演、テレビ・ラジオ出演多数全国各自治体の移住施策に関わる。東日本大震災後、豊かな生き方の選択肢を多くの若者に知って欲しいとの想いから「TURNS」を企画、 創刊。地方の魅力は勿論、地方で働く、暮らす、関わり続ける為のヒントを発信している。
●ファシリテーター
岡山 史興さん
70seeds株式会社の代表取締役/ウェブメディア『70Seeds』編集長
「次の70年に何をのこす?」をコンセプトに掲げる70seeds株式会社の代表取締役編集長。
これまでに100以上の企業や地域のパートナーとしてブランド戦略立案からマーケティング、PR、新規事業開発を手掛ける。
2018年から「日本一小さい村」富山県舟橋村に移住、富山県成長戦略ブランディング策定委員などを務める。
●株式会社読売広告社・ひとまちみらい研究センター
角田 文彦
ひとまちみらい研究センター センター長代理
1968年東京都世田谷区出身。テレビ局担当後、営業局にて、ビール・飲料、食品・出版・電力会社などを担当。2021年より現職、地方自治体では山梨県、長野県、島根県、大分県、熊本市など担当。ネブタ・スタイル有限責任事業組合職務執行者として青森のねぶた祭りの産品開発にも従事。

寺尾賢人
1992年生まれ滋賀県育ち。2017年読売広告社に入社後、営業局にて映画配給会社やガス事業会社などを担当。2020年内閣府政府広報に携わり、2021年よりひとまちみらい研究センターに配属。地方自治体では山梨県等を担当。
※2022年3月時点。


“your TURN”あなたの番。生き方を提案するローカルメディア

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雑誌『TURNS』が創刊されたのは、東日本大震災の翌年、2012年。
これからの生き方を見直す人や、地域との関わりを模索する若者が増え、価値観の転換期にあった当時、堀口さんは3つの意味を込めて『TURNS』を創刊しました。

移住・定住で使われる、“Uターン、Iターン、Jターンのターン”
“人生の折り返し地点としてのターン”
“そして、次に行動を起こすのはあなたの番(your TURN)”
───TURNSホームページより参照


定年後の田舎暮らしではなく、これからの生き方を考える若い人たちに向け、今よりも楽しく豊かな人生を送るヒントを届けたい。移住・定住の情報だけでなく「地域での生き方」も発信したい。そんな気持ちが、雑誌『TURNS』の原点でした。

それから10年が経った現在(2022年)では、毎号の発売を楽しみにする読者も多く「うちの地域も取材してほしい」「ライターとして記事を書きたい」という声も全国から寄せられています。

一方、『TURNS』にできることは、あくまでも情報発信。地域で事業を営む人・暮らす人々への敬意を持ち「評論家にならないこと」を徹底しているという堀口さん。脈々と受け継がれてきた地域の担い手、歴史・風土・文化を大切にしながら情報発信をする『TURNS』は、“あなたの番(your TURN)”のメッセージとともに生き方を提案するローカルメディアです。


「地方創生ってなんだろう?」濫用される言葉への違和感

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岡山:堀口さんのお話や、『TURNS』の記事を拝見すると「地域」という言葉が多く使われているのが特徴的だなと思いました。対して、昨今は「地方創生」という言葉をあらゆる場面でよく耳にしますよね。「地域」と「地方」それぞれの言葉の使い方について、視点の置き方・考え方があるのでしょうか?

堀口:厳密に決めているわけではないのですが、あまり「地方」って言わないですね。地方と言うと「東京の対極」というか離れた存在のように聞こえてしまう気がして。もちろんタイトルやコピーで使うこともありますが、ふだんの会話やコミュニケーションの中ではほとんどないです。

岡山:そうすると「地方創生」自体に、どうなんだろう?と疑問に思うこともありますか?

堀口:そうですね、正直とても思います(笑)「地方創生」という言葉が頻繁に使われるようになったのは、2014年頃から。『TURNS』創刊はその2年前ですし、当社としては25年くらい前から地域の情報発信をやってきているんですよね。長い年月をかけて地域と信頼関係を築いてきた我々からすると、都心の企業・メディアがこぞって地域に行きはじめたのを見て、真っ青になったのを覚えています。

角田:真っ青に、というと?

堀口:極端な言い方をすると地域を本気で”良くしたい!”という気持ちを持っているのだろうか、と感じさせる人たちもいて、「地方でどうやって稼ぐんですか?」とか初対面で聞いてくるんですよ。いきなり地域にやってきて、敬意のないコミュニケーションを取ってしまう人が増えてしまうとどんな影響が出るかと懸念していました。

岡山:そもそも「地方創生」という言葉の意味を深く考えずに使っているケースもありますよね。

堀口:そうですね。よく東京で「地方創生をやりたいんです! 」と言う人に会うのですが、「地方創生ってなんですか? 」と聞くと「地域を元気にしたいんです」って答えるんです。でもそれなら、今すぐ行って元気にしましょうよって(笑)。

これは、東京から地域に関わる企業としての我々のスタンスなのですが、やっぱりそこに住んでいないよそ者が「元気にする」なんてことは、軽々しく言ってはいけないと思うんです。

東京に拠点を置く『TURNS』ができるのは、あくまで「地域を取材した情報発信」です。自分たちのスキル・知見を活かして地域の役に立てるのはありがたいことですが、それさえも一つの側面でしかないと思うんですよね。

岡山:東京の会社だからできることもある一方、東京の会社だからこそ地域に入りきれない部分もある。読広さんも東京の広告代理店として地域に入るときに苦労した経験はありますか?

角田:ありますね。とある地域のプロモーションを担当していたのですが、同じ県の同業者から「邪魔をするな」と会社にクレームの電話が来たことがあって。いくらこれまでの実績があっても、現実はなかなか意見を聞いてもらえなかったり理解されないこともあります。信頼してもらうには足繁く地域に通い、0から地域の人たちと関係を築いていくしかないなと感じますね。

東京の企業だからできる、地域と企業のつなげかた

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岡山:自分たちができることで地域の役に立つ、というお話もありましたが、情報発信が起点となり、現在は、地域で新しいビジネスをつくる学校『TURNSビジネススクール』も開講・運営されているんですよね。

堀口:そうなんです。地域との関わりを模索している人、移住・定住をして仕事も生み出したい人に向けたビジネススクールをはじめました。講師は『TURNS』で取材をした、地域に根を張り地域の皆さんから信頼を得て事業展開されてる方や『TURNS』を応援してくれている地域の方々にお願いし、地域資源の活かし方や、ブランディング、マーケティングなどビジネスに必要な多くの要素を学べるプログラムになっています。地域のリアルな声が反映された生きた授業が提供できるので、『TURNS』らしいビジネススクールができたんじゃないかなと思います。

角田:情報発信の枠を超え、ビジネススクールの開講に踏み切ったのには、どんな背景があるのでしょうか?

堀口:これまで『TURNS』『自給自足』『カメラ日和』『LiVES』など、いろいろなメディアの取材を通じて、しっかり地域に根を張り、信頼を得て、事業を立ち上げた人をたくさん見てきました。そういう方々を「素晴らしいですね! 」と発信するだけで終わってしまってはもったいない。移住・定住といった地域とのつながりを提案するだけでなく、地域にお金が落ちるビジネスづくりのヒントも提供できたらと思ったんです。

岡山:地域にお金が落ちる事業を、地域の人がつくっていく。『TURNSビジネススクール』はその後押しをしているのですね。

堀口:そうですね。あと『TURNS』がビジネススクールをやる理由はもう一つあって、受講生の事業立ち上げの挑戦にメディアとしても伴走したいと思っているんです。学んで終わり、ではなく地域でなにか動きがあれば取材して発信する。そこから仲間集め、社員募集、さらには投資の話にもつながったらいいなと考えています。

角田:わたしたち読広も、地域に寄り添いたいと思う一方で、東京の企業という立場からどのように地域に貢献できるのか?というジレンマを抱えています。堀口さんが今後さらにチャレンジしていきたい方向性があれば教えていただきたいです。

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堀口:地域と企業をつなげる、ご紹介してマッチングすることも積極的にやっていきたいですね。東京の企業だからこそできる、地域の役に立てることってなんだろう?と考えたとき、わたしたちがお取引きするクライアント企業と地域をおつなぎすることによって生まれる価値もあるのではないかと思うんです。

角田:なるほど。第一プログレスがこれまで積み重ねてきた「地域とのつながり」をクライアントにも提供する、ということですね。

寺尾:実際に「地域を紹介してほしい」といった相談もあるのでしょうか?

堀口:ありますね。最近は、働き方も柔軟になってきたので「サテライトオフィスを出したいのですが、どこの地域がいいですか? 」「リモートワークを導入したいのですが、ワーケーションをするならどこがおすすめですか? 」と聞かれる機会も増えました。

社員さんも地域と関わることによって人生が豊かになったり、ウェルビーイングを追求する生き方ができたら結果的に企業の生産性も上がり良い循環が生まれると思うんです。

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岡山:マッチングがうまくいくと、地域にとっても、東京の企業にとっても、良い結果になりそうですね。

堀口:そうなんです。働き方だけでなく、ビジネスの相談もありますね。以前クライアントさんから、「地域事業としてビール醸造をやりたいのですが、空き家、空き物件、廃校のある地域はありませんか? 」とご相談いただいたことがあって。いくつかの自治体を紹介し、最後は長野県の辰野町に決まりました。

岡山:地域と企業をつなぐことで、ビジネスが生まれ、経済が回り、結果的に地域にも還元できる。一方的に、地域のため。企業のため。とするのではなく、第一プログレスも含めた三者が良くなる取り組みですね。

角田:我々としては、どこまで地域の方々と一緒にできるのか?どこまで地域に入れるのか?なかなか座ぐみが組めず、プロポーザル以外の選択肢を見出せずにいるのですが、事例を聞くともっと個々のコミュニケーションから広がるビジネス、人とのつながりもあるのだなと考えさせられました。どうマネタイズしていくか?という部分も含めて考えたいです。

堀口:もちろん、すべての地域・企業が同じ形でなくていいと思うのですが、事例を紹介することで「うちも同じようなことができたらいいな」と思ってもらえたり、その地域らしいつながり方を提案できたら嬉しいですね。

もし堀口さんが読広の社長だったら、どうしますか?

角田:ありがとうございます!では最後に、もし堀口さんが読広の社長だったら、どうしますか?という質問で締めさせていただきたいと思います。

堀口:地域と企業を、どうつなげるか?それによって地域の人たちが喜ぶ関係性をどうつくっていけるか?を考え、形にしていくと思います。

例えば、いまワーケーションが浸透するにあたって地域のコーディネーターが必要になってきているんです。でもその地域を知らない人が、東京から来た企業をつなげることなんて絶対にできないと思っていて。すでに全国あらゆる地域と関係性があり、広告代理店としてクライアント企業とのお付き合いもある読広さんだからこそできる、コーディネートがあるんじゃないかなと。

それが一つの仕事、これからの新しい地域と都市のコミュニケーションになるかもしれません。

堀口:でもそこで大事なのは、まず自分たちが地域に足を運び、体感してから発信すること。『TURNS』でも納品・販促物・制作物を作るときはなるべく現地に行くようにしています。ワーケーションを特集したいのであれば、一週間なり滞在して自分が体感したことをベースに記事を書く。

地域にどんな困りごとがあるのか?課題はその地域にいるからこそ見えてくるものなので、まずは自分たちがコミュニケーションをとり、ご紹介できそうなクライアント企業があればおつなぎする。

信頼関係を築くにはもちろん年月が必要ですし地味な取り組みですが、自分たちが持つスキル・つながりから、役に立てることを考え足を動かし続けることが、東京から地域に関わる企業としてのありたい姿なのかなと思いますね。

◯まとめ
テーマ:東京の企業として目指したい地域との関わり方
・自分たちのスキルを活かしつつ、地域へ敬意を持った関わり方をする
・東京の企業だからこそできる「企業」と「地域」をつなげる役割を担う
・実際に地域に行き、関係を築きながら「東京の企業だからできること」を実践し続ける

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※本取材は撮影時のみマスクを外し、インタビュー時はマスクを着用、感染症対策を講じた上で実施いたしました。

コンテンツ制作・監修 70seeds編集部
執筆:貝津 美里 編集:岡山 史興 写真:鈴木 詩乃 制作進行:大森 愛