見出し画像

『都会の憩い』⁡



 目が覚めてから布団の上でウダウダ過ごしていた、晴天の日曜日の朝十時過ぎ。窓の外の陽気に誘われて、無性に散歩に出かけたくなった。
 久屋大通公園を少し散歩してから、久々にラシュールのモーニングに行こう。そう思い立つやいなや最近おろしたばかりのTシャツに着替え、サコッシュに手帳とボールペンを入れて家を出た。イヤフォンからは好きな音楽を流して、近所の久屋大通公園南エリアに位置する光の広場をあてもなく歩く。舟型のモニュメントから太陽に照らされたクスノキ並木の新緑に目線を移し、燦々と注ぐ陽の光を全身いっぱいに浴びて深呼吸する。吹き抜けていく柔らかい風が、肌のあちこちを撫でて心地よい。空いていたベンチに腰掛けて、聴いている曲の歌詞を時々調べること以外は基本的に音楽を聴きながらボーッとしていた。公園の向こう側にはちょうどPARCOや松坂屋といった商業ビルが立ち並んでいるのが見えて、目線を落とした先の歩道を人々が次から次へと通り過ぎていく。隣のエディオン久屋広場でこの週末にちょうど催されている手羽先サミットの賑わいとともに、街が動いていることをありありと感じる。それにしても、周りを囲む街の喧騒と打って変わったようなこの光の広場のゆったりとしたグルーヴが、どこか地元の慣れ親しんだグルーヴに近くて落ち着くから好きだ。

 ベンチに座って音楽を聴きながらまったり過ごしていたら、何だかもっとここに長居したくなってしまった。そうなったからにはラシュールにモーニングに行くのは諦めることにして、突如コンビニへ向かうことにする。セブンイレブンでフレンチトーストとツナパン、それからアイスカフェラテを買ってまた光の広場へと戻る。すぐそばに隣り合わせなはずの喧騒さえも不思議と遠ざけてしまうこのチルアウトな雰囲気に影響されてなのか、いつも以上にパンをよく噛むことで少しでも味わって咀嚼しようとしていることに気づいた。
 
 少し離れたベンチでは、おじさんがだらしなく寝転がりながら昼間からお酒を飲んでいる。手羽先サミットの行き帰りなのかただ散歩で来ているのか、はたまた通り抜けのためなのか、目の前を老若男女が絶えず通り過ぎていく。そうやって、光の広場にたまたま居合わせた見知らぬそれぞれが、この正午前の日曜日を思い思いに過ごしている。
 
 そしてこの穏やかなはずの最中、素面なのに、昼間なのに、ましてやそもそも一緒にここには来たことだってないのに、目まぐるしく移り変わるその人影の中に気づいたらあの人の幻影を探してしまっていた。
 家を出る時に今日やることリストを書こうと思っていた手帳のページは、まだ空白のまま。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?