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LINEスタンプにて時代錯誤


「失念防止のため、なにかスタンプ貰っていいですか? 明日まで未読にしておきます」

 保険会社の担当とLINEで手続きのやり取りをしていた時にそう言われ、思わずスマホの前で頭を抱えてしまった。これまでLINEスタンプを使うことから目を背け続けてきた心当たりならある。おかげでLINEでのやり取りを上手く切り上げることができず、結果的にどちらかが既読スルーしてやり取りが終わってしまうことが多々ある。だからといって人間関係に目立った支障が出ているわけでもなければ、言うほど普段からそのことに固執しているわけでもないけれど、やはり顔と顔とが見えないこともあって、その時ばかりは少しばかり寂しい気もする。気の利いたスタンプ一つでもサラッと押すことができればスマートにやり取りを切り上げることができるのかもしれないし、ひよっとしたらそういうところから生活が華やかに彩り始めていくのかもしれない。

 とにかく何かしらのLINEスタンプを押さなければならない。失礼のないように、なおかつウィットに富んだスタンプを。決してここまでの文脈から突拍子のないように、欲を言えば程よい遊び心も効かせて。あわよくば相手をクスッとさせて「お! センス良いな」と言わせしめたい。……駄目だ、全然押すスタンプが決まらぬ。もはや、今までスタンプを使うことから逃げてきたことが恨めしい。

 迷いに迷った挙句、以前に趣味でイラストを描く知人から頂戴したアマビエのオリジナルキャラクターが前屈ストレッチをしながら「よいしょ」と言っているスタンプを押し、不慣れなことからやはりそれだけではどうも具合が悪く、その後に「よろしくお願い致します!」と付け加えて守りに入ったのだった。

 この時ばかりは、LINEスタンプを普段から自然に押せる人たちを羨ましく思った。しかし、そんなこともこれを書いている今となっては、結局すっかり忘れてしまっていた。

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