『スクロール オア スワイプ？　ダークホースにフリック』

　「ちょっと、篠原君！　こう、画面上でページを捲ることは何て言うの！？　スクロール？　それとも、えーと、あ！　スワイプ？　そもそも何だん、スワイプって！　ちょっと、スクロールと何が違うの！」
⁡
⁡
　仕事中、タブレット端末と睨めっこしているベテランのパートさん(以下、師匠と呼ぶ)が、指でページを捲るようなジェスチャーをしながらこちらに問いかけてきた。現在社内で伝票のデジタル化が進んでいて、その本格的な導入に向けて実際に現場ではタブレット端末の試験的な操作とフィードバックが行われている。母と同世代だと推測しているその師匠は、どうやら日頃頻繁に参照する関連の伝票をタブレット上でパラパラと捲れるようにして欲しいといったことをフィードバック用のアンケートに書いているようだった。ちなみに、以前に師匠から「ちょっと、篠原君。LINEの公式アカウントを友達追加して色々質問したら、世界中の人たちにそれ見られるってこと？　そんな簡単なこともわからないのかなんて、わたし世界中の人に見られたくないんだけど」ともクエスチョンを投げかけられたことがる。「公式とはマンツーマンなので心配ないです！」と、LINEに対する乏しい知識の範疇内でできるかぎり論理立てて説明させてもらったものの、そう考えてしまう気持ち、何だかわからなくもなかった。
⁡
⁡
　「んー、そうですねぇ……あ！　何となく経験則になってしまいますが、指で上下左右に画面を動かしたり、拡大縮小したりするのがスクロールだと思います！　ということは、指で捲るのが恐らくスワイプですよ！」
⁡
⁡
　「ん？　スカイプ？　スワイプ？　あ、そっか、ビデオ通話するのがスカイプね。本当にややこしいわー」
⁡
⁡
　その瞬間、そういえば今までスクロールとスワイプの違いなんてしっかり考えたことがなかったことに気がついた。日常会話でそれら双方を咄嗟に使うことがあったとしても、確かに曖昧なニュアンスで使っていたはずだ。そのことに気づいていつも以上にスクロールとスワイプの違いについて意識し始めると、それらの明確な定義に対して急激に興味が湧いてきた。早速「スクロール　スワイプ　違い」とググってみると、次のように出てきた。
⁡
⁡
　"「スワイプ」は、画面をタッチして指で行う「スクロール」作業のことです。
　「スクロール」は、方法は問わず、画面を上下や左右に移動させることです。"
⁡
⁡
　ほへー。
　つまり、スワイプはスクロールでもあり、タブレットもスマホ同様に画面に指でタッチしてスクロールするからこの場合はスワイプだと。プリントアウトしたそのウェブサイトの解説を師匠と一緒に読みながら「勉強になりますな」と二人で感嘆する。師匠は師匠で「チコちゃんに怒られてまうわ」とつぶやきながら、消しゴムで何度か文字を消した痕跡のあるアンケート欄に、鉛筆で力強くスワイプと書いた。自分も自分で、これからはスクロールとスワイプに自信を持っていこうと、人知れず心の中で固い握り拳をつくってみせていた。
⁡
⁡
　※ちなみに改めて確認も兼ねて一人で調べてみたところ、今回のケースの場合、本当は「スワイプ」ではなく「フリック」の使用が適切だったかもしれません。
⁡
⁡
　知らないことを知ることが、大人になればなるほど好きになっていく。
　まぁ何というか、パッと見て些細なことや一見無駄でくだらなそうに見えることにもついつい躍起になってしまうような大人になっていきたいと、ふと思ったのだった。