見出し画像

ディンゴ

 プロ野球シーズン開幕前のこの時期が好きだ。
 キャンプやオープン戦では熾烈なポジション争いが繰り広げられる中、どのチームのファンも好き勝手に先発ローテや開幕スタメンなどを予想して「今年はウチが優勝」と胸踊るのが開幕前というものではないだろうか。

 我らの中日ドラゴンズが99年にリーグ優勝を果たした翌年、リーグ連覇と日本一の奪還、そして強竜打線復活の鍵を握る男が入団した。その男の名は、ディンゴ。本名はデビット・ニルソンで、当時では稀有な現役バリバリのメジャーリーガーだった。日本シリーズでダイエーホークスに敗れて日本一を逃し、シーズンオフの間も意気消沈していた当時小6だった筆者は、月刊ドランゴンズに掲載されていたその待望の大砲獲得の記事を何度貪るように読んだことか。


 ちなみに、初めて生でディンゴを観たのは初出場となった浜松でのオープン戦だった。強烈なスピードで右中間を破った打球を目の当たりにして「これがメジャーか」と、子どもながら度肝を抜かれたのを覚えている。当時行きつけだった床屋の辛口なドラキチのオヤジも「ホームラン40本は打つぞ。ライトスタンドが慌ただしくなるぞ」と珍しくベタ褒めしていたほどだ。


 しかし、蓋を開けてみるとディンゴは日本の投手に全く対応できずシーズン途中に2軍落ちして夏にはオリンピック出場もあり退団。まだシーズン序盤だったある日の中継で解説者が「日本の花粉症に苦しんでいる」と分析していて、当のバッターボックスのディンゴを見てみると本当に鼻が真っ赤だった。そして、ユニフォームの肩の部分で何度も鼻の辺りを拭いている仕草が今でも鮮明に筆者の脳裏を焼き付いて離れないのだ。


 結局40本どころかホームランは横浜スタジアムで打った場外1本に終わったディンゴ。 
 見事に期待を裏切られたはずなのに、プロ野球開幕前のこの時期になると、大人になった今でもあの胸の高鳴りを思い出してしまう。

文・ひとくちギョウザ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?