そういえば女でした。
以前から当然のように知っていたと思っていたけど、改めて知った。
わたし、女でした。社会的にも生物的にも女でした。これから、どうしよう。
わたしは10年以上、仕事一筋で自分で事業もしてきて、とにかく仕事が第一優先だった。お付き合いしていた男性とも、「仕事が優先できるかどうか」が最重要で結婚<仕事だった。
仕事一筋だからこそ、事業のリーダーに選ばれてきたし、責任ある仕事を任されてきた。それがわたしの生き方で、そんな自分に誇らしささえ感じていた。
そんなわたしに、事件が起きた。
先月、受付の女の子が産休に入った。その社員を見てふと
「羨ましい」
と思ってしまった。わたしも結婚して、こどもが欲しいと思ってしまった。
「羨ましい」
事業の代表や、プロジェクトリーダーとして走っているより、受付なら辞めたい時に辞められるように見えた。決して受付業務を馬鹿にしてるわけじゃない。でも、今の私の立場より自由がきくように見えた。ふと自分はいつ結婚して出産するんだろうと考えた。
そこから名前のない罪悪感が続いた。
その、「羨ましい」と思った気持ちを、今までわたしを信用してリーダーに抜擢して下さっていた代表に恐々伝えた。代表はひとこと
「来年の新規事業は中止にしよう。」
心臓が冷えた。続けて代表は言う。
「新規事業をしたら少なくとも3年間は、仕事一筋で動かなきゃいけない。経営者として当然のこと。少しでも、女性としての幸せが羨ましいと感じたのであれば、責めないけど、経営者としてブレてしまっている。そんな人間に多額のお金を投資して、事業はさせられない。」
ごもっとも。正論だった。代表らしい愛情ある意見だと思った。そう、頭では理解した。同時に心は止まった。
事業がしたい、仕事で活躍したい、会社に貢献したい、心から思っている。
でも、そういえばわたしは女だった。結婚したい、こどもが欲しいと思ってしまったのも本当の気持ち。
あぁ、わたしは女だったんだ。知っていたはずなのに、知らなかった。女じゃなければ良かった。
わたしは結婚したいんだろうか。事業をしたら、こどもは自分が何歳の時に出産することになるんだろうか。
そういえば、女だったのに。知っていたのに、仕事もしたいわたしは涙が止まらない。
事件が起きてから1ヶ月。未だにわたしは、明日からの生き方が決められずにいる。
明日から、どう生きようか。