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シニアの手しごと 『門松』

それは予想外もしないSNSを通しての門松制作の依頼でした。12月半ば、ひときたしゃべるのシニアにこの話を電話やLINEを通して持ちかけると、電話やライン越しに一同が目が点になっているのが想像できました。
 今まで『できない』と言う言葉は滅多に聞いたことがなく「先ずはできるように考えよう」という考えのじいちゃん、ばあちゃんたち。それがカッコ良くも、頼もしくもあって、そんなひときたしゃべるのシニアチーム。

しかしながら、今回の依頼は制作期間が短く師走ということもあり各々のしごともある中で、誰一人として大きな門松を作ったことがないという難題でもあったのです。

じいちゃん、ばあちゃんたちの意見が珍しく分かれました。これを機に90代も含めた門松制作班のLINEグループを作りました。それでも、全員の気持ちがバラバラで12/17にミーティングを開くことに。その日の朝は雨。そして雨が止み、集合時間まで待っていられない一人のメンバーが「雨が止んでいるうちに俺、竹を切ってくるから!」と言い出し、集合時間になって集まったメンバーも自ずとその姿を見て全員が制作に挑戦する方向に気持ちが動きました。

竹の節を綺麗にナタを使い取ることができるのは一人だけ。亡きお父さんにこの技術を教わったそうです。どこか、この技を私もできるようになりたいと密かに初めて思った瞬間でした。

みんなで力を合わせることができるチームワークの良さ。決してこれは声を掛け合うのではなく自然に竹を支えたり気に掛けることがじいちゃん、ばあちゃんたちはできるのです。


住んでいる地域はみんなバラバラ。現在のひときたしゃべるのシニアメンバーは車で30分掛けて仙台市北部より来る人もいれば、バスで30分掛けて仙台市南部から来る人もいます。「遠いから行かない」「不便だから行かない」「車がないから行かない」ということも、このメンバーからは聞いたことがないので、これもこのメンバーの凄いところだと思っています。「老人クラブにはまだ老人じゃないから入りたくない。」「住んでいる居住地は自治会に属さないから退屈さを埋めるには自分で何かするしかない。」といったような今風でもあり、自分で自分をケアできているメンバーでもあります。特にひときたしゃべるのメンバーはどこに住んでいようが拘りは全くありません。自宅でできることは自宅で作業をお願いすることもあります。(メンバーも随時募集しています)

竹を切り倒した後が最大の重労働。生い茂る竹林。ノコギリで竹を分断させたとしても空を見上げると笹の葉同士が絡み合い竹が直ぐに地面に倒れてくれるわけではないのです。竹を後方や前に引っ張っていくのですが足場も悪く生い茂る竹や杉の木が
作業を難航させるのです。
90代を先頭に竹を肩に担いで運びました。普段あまり使わない上腕を使う機会にもなっていますし、竹が肩に圧が掛かりそれが心地良くもありました。


ひときたしゃべるに来る時だけが夫婦揃っての外出の機会なんだそう。自宅での夫婦の会話もこれを機に増えたんだとか。これも、ひとつの進歩?
知恵と技を各々が持っているメンバーがひとつになれば、この難関「門松作り」はできると心の中で確信していました。身体を張って鉄を機械で切っていたじいちゃん。見ているほうは火花が散る中で『危ない』と思いますが、当の本人は気にしていないから、やり続けるわけで。
いくつかの道具を使いこなせないとこの門松は完成できないということも分かりました。


2日目。12/27。

仙台は前日より雪が降り積雪の朝を迎えました。何箇所もの坂道を越えて来るメンバーが気になり朝イチで電話。自宅の雪掃きを終え「今日しちゃおう!大丈夫だから!」という声で決行しました。

人来田(ひときた)の自然の恵を活かして

 材料は全て用意していましたが、まさかのメンバーの気遣いで門松の飾りとなる材料をひときたしゃべるの拠点がある人来田の山から用意してくれていました。 

門松の意味。お飾りに使う素材の意味を今回メンバーと学び合う機会もできました。
竹の切り口は笑顔の象徴とも言われております
竹切りは竹細工の先生でもある末松さんに一任
「縄の縛り方は、ひいおばあちゃんから教わったの」と教えてくれた、あささん。しっかりその技を受け継いで、そしてその手しごとが活かされる場ができて伝承という物語を感じる一幕も

大まかな構図はあささんに見せただけで、その場でやりながら考え、喋り合っていくという門松作りでした。
完成すると直ぐにじいちゃん、ばあちゃんが珍しく我先にと携帯を一人一人出して写メを撮っていた光景に思わず微笑ましくなりました。そしてカッコ良いじいちゃん、ばあちゃんだなと想いました。
今回は仙台市内の社会福祉法人ライフの学校様からの制作のご依頼でした。2021年最後の締めにじいちゃんばあちゃんとの挑戦を楽しませていただきましてありがとうございました。


今では自宅の玄関に門松を飾る人が減り、作り手さんも減っているということも耳にしました。今回、門松を作ることができたじいちゃん、ばあちゃんはこれを機にスキルアップして貴重な存在になったのかもしれませんね。最高のチーム。

ひときたしゃべるは、最近耳にする通い場でも、介護事業所でもありません。シニアの得意とやりたいことをマッチングさせながら、しごと(私事・仕事)を通して身体を動かしたり、計算したり、手を使ったり、会話をしたりとフレイルや要介護状態となることを備える(予防する)ことに繋がるようにアプローチをしています。例えば認知症状が現れてきたからデイサービスなどの介護サービスを使う、或いは老人ホーム等に入居するということは高齢者ご自身が希望されている方は一体どれくらいの割合でいるのでしょう。また、介護保険サービスに直ぐに直結させてしまうという考えや支援も果たしてそれはプロとして「本人の尊厳」をどこまで尊重しているのか、ケアしているのかと想うところがあります。現在、日本では介護士が不足している中で、自宅にいても高齢者が好きなことができるサークル活動や自宅でも手しごとを通して社会と繋がることができるなどといったような、備え的な取り組みの強化やそれに対してのインセンティブ的な支援も必要なのではないかと想っています。

 本年もひときたしゃべるの企画にご参加いただいた皆さま。携わっていただいた皆さま。そして応援してくださった皆さま。ありがとうございました。皆様に取りまして2022年がご多幸多き、笑い多き一年となりますようにお祈り申し上げます。来年も楽しいことを通して、より多くの皆さまとご一緒できることを願っております。来年も引き続き宜しくお願い申し上げます。   

       

一般社団法人ひときたしゃべる 
  阿邊 里恵                             








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