現役医学部生が考える「医学部で(基礎・臨床医学以外に)学んでおきたいこと」-第一弾-

 ほとんどの学生が医師を志し、ほとんどの授業が必修科目である医学部。倫理観や患者さんとのコミュニケーションなどについても一部教わりますが、病態生理学や臨床医学といった科学としての医学を扱った授業が大半です。授業時間は長く、お腹いっぱいだと感じている学生も多いと思いますが、私は「医学の社会的側面」について学ぶ機会が現状では足りていないのではないかと感じます。今回は、その実現可能性やリソースの問題は一度おいておき、もっとこんなことも学んでおきたいと思うことの一部を、今まさに医学部で学ぶ学生の一意見として書いてみました。 

①医療コミュニケーション-どのような情報が医療者間で共有されるべきか-  

 最適な医療の提供には多職種によるチーム医療が必要であり、大抵のところで行われています。チーム医療を推進するための基本的な考え方については厚生労働省より、資料[1]が出されています。そこではチーム医療を行う上で、医療の質的な改善を図るためには、①コミュニケーション、②情報の共有化、③チームマネジメントの3つの視点が重要であり、効率的な医療サービスを提供するためには、①情報の共有、②業務の標準化が必要であるとされており、いずれにおいても情報の共有が大切であることはわかります。ただ、どこまでの情報が共有されるべきなのかは不明です。 

 参加させてもらうカンファレンスの中でも沢山の患者さんの情報が共有されます。適切な医療の提供に必要なことも多いですが、住所、親族関係、言動、観察記録といったすべてが共有されます。個人情報を守るため、情報の持ち出しや口外は禁じられますが、医療チームの中での共有には何一つ制限がありません。  私は、学校教育における生徒の性的嗜好について、教師によるアウティング(性的指向や性自認を本人の許可なく暴露する行為)が問題となったニュースを目にしたことがあります。まだ実際のケースは見ていませんが、患者さんの性的指向や性自認が医療機関のチーム内で共有されるというようなことはあり得るかもしれません。

  過去の文献では、患者が自分の情報をどの程度共有しても良いと考えるかは職種や関係性によって変わるということが言われています[2]。  現在の、あらゆる職種間で電子カルテを通して情報共有をするという在り方は正しいのか否かという議論を含め、どういった法律や前提のもとで情報を共有していくのかを共通認識として学んでおきたいです。 


 ②医療行為とお金の話  

 実習中に遭遇した場面です。薬の効果が芳しくない患者さんに、先生が有効な治療法としてボツリヌス毒素の注射を薦められました。しかし、その患者さんはボツリヌス毒素の注射には5万円を超える負担が生じるとの説明を受け、同意をされませんでした。先生は現在の薬代でも年間3万円弱の負担をされているため、注射代がそこまで負担になるのかと、あまり腑に落ちない様子でいらっしゃいました。学生の視点からは、効かない可能性の話も先生から受けた上で、五万超えの費用を一括で支払うということに抵抗があるのではないかと思いました。

  医療行為にはお金がかかります。生活にお金は必須で、金額によって選択が変わることも有り得ると思います。そのため、どの医療処置にどれくらいのお金がかかるのかは大まかに学生のうちにわかっておきたいです。 少し前に、『研修医だからこそ知っておきたい「救急外来診療メニュー表」で学ぶ“お金”の話』といった記事[3]も話題になっていましたが、こういった自分たちの医療行為により患者さんに発生する金銭的負担の感覚は学生のうちから身につけておくべきだと感じます。

 

③医者の働き方-医者ってなんだ?-  

 新専門医制度が始まり、その説明はよく受けます。ただ、その専門医の資格の維持や医局制度、常勤や非常勤での働き方についての情報は不足していると感じます。

  制度が始まったばかりであるからか、その維持については、詳しく聞く機会がありませんが、維持の条件は診療科によって全く異なります。将来、数年のブランクができることを前提に専門医の情報を調べると、維持が不可能であることがしばしばあります。ただし、ブランクへの対応も自分が調べられていないだけで各科に存在するのかもしれません。様々な診療科を検討する学生のうちに、各々の専門医の維持や働き方について知っておきたいです。  医局のメリットデメリットも取り沙汰されていますが、入局の有無による生活やライフスタイルへの影響をもっと知りたいです。地域や診療科による偏在、非常勤化といった問題についても、自分の人生に直結することであり、実際に今起きていること、問題点も深く学びたいです。個々人の人生がある中、医師としての働き方がどうあるべきかという議論も含め、学生のうちから考えていきたいです。 

  大学で学ぶ私たち学生自身も「医師になるための専門学校」と表現するような医学部の教育ですが、患者さんとの関係を円滑に、最適な医療を提供するためには、唯一解が明確にある科学的知識だけでは対応できません。医学部教育にも、「訓練training」の側面だけでなく「教育education」の側面も必要であるはずです[4]。  求められる複数ある社会的側面についての学びのうち、今学んでいることに加えて学んでおきたいことを挙げてみました。みなさんは、どんな授業があったらいいと思いますか? 

                               文責:山﨑智加

[1] チーム医療推進方策検討ワーキンググループ(チーム医療推進会議)「チーム医療推進のための基本的な考え方と実践的事例集」https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ehf7-att/2r9852000001ehgo.pdf、厚生労働省、2011 

[2] 前田樹海ら「職種および関係性の違いによるカルテ情報の共有範囲:入院患者を対象とした全国調査より」医療情報学、728-731

 [3]三谷雄谷「研修医だからこそ知っておきたい「救急外来診療メニュー表」で学ぶ“お金”の話」https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2020/PA03391_02、医学書院、2020

 [4] ZoË-Jane Playdon: Education or training: medicine's learning agenda, BMJ 314:983, 1997

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