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夢喰い堂の悪食 プロローグ
あらすじ
過去の傷に苦しむ人の前に突如として現れる奇妙な〝夢喰い堂〟。
獏のゲテと火車の黎は、淡々と獲物を待つ。艱苦の燈會に導かれた人間は、その世界へと迷い込む。
恐怖を感じると体が固まる会社員。引きこもりの青年。雨に怯える大学生。
様々な傷を抱えた人々が、夢喰い堂に囚われる。
苦しみの記憶を喰われるか、それとも残すか。
そして、記憶を喰うゲテの目的とは。
現実ではない世界で現実と向き合い葛藤する人々と、呪いを受けた妖怪たちの物語。
艱苦の燈會が今日も輝く。
本編
プロローグ
「ほら、見てご覧、黎。艱苦の燈會がこんなにも強く燃えているよ。これは久しぶりにご馳走の予感がするね」
甘く透き通る声と細く長い指が燈會を撫でる。燈會は煌々と燃え上がるほどに強い光を発している。
「そうとうに苦しい思いを抱えているらしい。早く救ってあげないと」
しわがれた声が否定する。
「アタシにとってもアンタにとっても、所詮食事だろう。人間の苦しみなど興味もないくせに、よく言うわ」
くすくす。控えめな笑みも、この静かな空間では澄んで聞こえる。
「バレているか。君とは長い付き合いだしな。とはいえ、あまり気が進まないのも事実だよ。腹は減っているがね、アレは気分がいいものではない。それしか喰えぬから喰っているだけさ。食事と人助けの半々だと思っている」
「傲慢な解釈だな」
「手厳しい。しかし、世の中、人の苦しみは多いらしいというのに、なかなか艱苦の燈會が反応してくれないものだから困ったものだ。こんな調子では、甘露の夢を返す相手は到底見つからない。この燈會、一度、骨董屋に見せてみようかな」
「見せたところで無駄だろうが。修理に出すなら、お前の悪食ぶりだ。修理して治るならな」
あはは、という快活な笑い声が響く。
「無茶な。好きでやっている悪食でもないし、修理で呪いから逃れられるなら、苦労はしていないよ」
「とにかく、その馳走を逃がすなよ」
「承知した」
軽快に了承を告げる言葉が発せられたあと、また場は沈黙と闇に包まれる。
続き
第1話
第2話
第3話
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