ひとひら

本と映画の感想を書いています。

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映画「ドライブ・マイ・カー」

『幕』  自我が重い幕を下ろした傷に、自己は粘り強く諦めずに傷を見ろ、という。  脚本、稽古、舞台、ドライブ、が刺繡をするように丁寧に幾重にも織り上げられ、記憶の幕を開けていく。見事だ。  車から宙に突き出た2つの手と、2本の煙草の灯火は静かで尊い。けむりは過去を弔うかのように夜の空にほどけていく。  白い雪の中を赤い車が走って行く。それは血のように鮮やかで、真っすぐな生命のようだ。  自己は『ワーニャ伯父さん』のようにつらかったことを認めることを最初から知っていた

    • 映画「17歳の瞳に映る世界」

      『旅路』  その場所がペンシルベニアでもニューヨークでも彼女たちの瞳に映る世界は変わらない。世界中のどこであっても。  長距離バスと地下鉄。どうなるのかと、手汗を掻いて観る人もそこにいるような圧倒的臨場感。緊張、不安、屈辱、恐怖、絶望の中でオータムは若い女の自分を否応なしに知らされていく。  こんなに危うい長い夜はないけれど、朝を向かえても暗く紛れもなく痛い現実が突き刺さる。  少女たちが声を出せない分、際立つカウンセラーとのセッション。  少女たちの悲しみの行先がない

    映画「ドライブ・マイ・カー」