一片 綴

ひとひら つづる。小説を書きます。 ▼処女作「心意と魔法の旅々」10年来の集大成、マイ…

一片 綴

ひとひら つづる。小説を書きます。 ▼処女作「心意と魔法の旅々」10年来の集大成、マイペースにBrushUP中。 ▼新作「プルミエ旅行記」性癖全開、勢いで生まれた2作目。

マガジン

  • 「心意と魔法の旅々」完結済

    ぼんやりとした哀しみを抱く一人の少女、モコ・スプラウトの、心意と魔法の旅々。

  • お題即興小説シリーズ

    お題から即興小説を書いた成果物。

  • 短編小説集

    掌編から短編まで幅広く格納するやつ

  • 自動記述(エクリチュール・オートマチック)

    書く内容を予め用意せず、考えるよりも早く筆を動かして文章を書いていく、シュルレアリスム的手法のこと。

  • 「プルミエ旅行記」完結済

    刻印持ちは、嘘を吐く。悪人であり悪魔である彼らは、刻印の呪いからか短命を強いられており、その刻印は心が死んだ折、黒く肌を焼くようにして胸に刻まれる——。それは古代、魔法使いが存在した時代の終焉と共に訪った。生きることを諦めた不幸な人間の胸に〝刻印〟が現れてからというもの、人々はその未知なる刻印を畏怖し、差別した。18歳の旅する水彩画家・アルノーもまた、刻印持ちへの色眼鏡を掛けている。アルデン連邦共和国の駅に立つアルノーは、自称魔法使いの少女・ルイーズと出会う。彼女の手によって「目が合った人の心が伝わる精神感応魔法」を掛けられたアルノーは、それとも知らずに「一つの国で、一枚の絵を」と汽車に乗り神国バランへの行旅に発った。そこで、ある修道院の両階段からすっ転ぶシスター・ティニと目が合う。しかし、彼女こそがアルノーの色眼鏡から色を落とす人間——否、刻印持ちであった。

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心意と魔法の旅々 一幕一節「始まり」

 心寂しい墓地で、わたし達は袋小路に迷い込んでいた。  眼前の目新しい墓石で眠る彼のように、誰も口を利かず目を伏せるばかり。身勝手な感情を懐裡にぎゅうと押さえつけるままに、そこで呆然と立ち尽くすことしか能わない。  五本と伸びた陰の巡る様が少年少女の盲いた目を釘付けにして止まず、唯々光明たる白日の許に曝している。その光に人殺しだと咎められているようにも感じられたけれど、しかし今思えば、あの瞬間こそが終わりで始まりのときだったのかもしれない。   心意と魔法の旅々 一幕「光

    • サイコパス寄りの人間が考える『サイコパス』の定義について

      以前より、「僕がサイコパスであってもなんら不思議ではない。むしろ、サイコパスであるなら〝自分〟についての幾つもの解釈が一致するな」と思っていた。 その時点で、僕が思うにはサイコパス寄りだ。なぜなら、普通は「サイコパスだったら嫌だ」と考えるところを、僕は「サイコパスだったら楽だな」と考えている。 その時点ですでにサイコパスだろうとは思うのだが、確かにサイコパスであるとされているわけではないので、あくまで自称——というか、厳密にはサイコパスではなくて、「サイコパス寄りの人」だと

      • 掌篇小説『変貌』

        ある日、Steamでゲームを買った。 たまに見ているストリーマーがプレイしていたからだった。 配信の最後で、ストリーマーが感想を述べていた。明るい昼、田舎の駅で一足のスニーカーだけがぽつんと転がり、たまに電車が通り過ぎるだけのタイトル画面と『変貌』の二文字を背景にして、感想を述べているのだった。 「いやあ、この雰囲気は非常に良いですよね」 僕はなぜかその言葉と、ひどく美しいタイトル画面だけを理由にして、そのゲームをプレイしてみようと思った。 僕はゲームを始めた。 スタ

        • 先行公開版・心意と魔法の旅々(BrushUP) 序章 / 一章一節

           心寂しい墓地で、わたし達は袋小路に迷い込んでいた。  眼前の目新しい墓石で眠る彼のように、誰も口を利かず目を伏せるばかり。身勝手な感情を懐裡にぎゅうと押さえつけるままに、そこで呆然と立ち尽くすことしか能わない。  五本と伸びた陰の巡る様が少年少女の盲いた目を釘付けにして止まず、只々光明たる白日の許に曝している。その光に人殺しだと咎められているように感ぜられたけれど、しかし今思えば、あの瞬間こそが終わりで始まりの時だったのかも知れない。 序章 『あの人』  父は今日も酒に

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        心意と魔法の旅々 一幕一節「始まり」

        マガジン

        • 「心意と魔法の旅々」完結済
          20本
        • お題即興小説シリーズ
          4本
        • 短編小説集
          9本
        • 自動記述(エクリチュール・オートマチック)
          2本
        • 「プルミエ旅行記」完結済
          11本
        • 「プルミエ旅行記」草案原稿
          8本

        記事

          後輩、眼鏡、その扉を開いて

           文化祭が終わった。雪の気配が見られ始めたと思えば春になる陽気に騙されながら、連日と退屈凌ぎに忙しい俺らは、めったに笑い合わない距離感が心地良い友人関係だ。 「遥輝、おはよう」 「仲本先輩。おはようございます」  丸眼鏡がやけに似合う後輩、嶋尾遥輝は——もう春からずっと交友しているというのに——俺を今でも仲本先輩と呼んだ。それについて一度、裕大でいいよ、と何気なく伝えてみたのだが、呼び方を変えようとしなかったのでそのままで良いかと諦めている。 「今日は冷えんなあ」 「どうせ、

          後輩、眼鏡、その扉を開いて

          宇宙(そら)に映る花火

          「HQ、こちらAF-1。本当に敵艦隊は分隊規模か。確認願いたい」 「AF-1、こちらのレーダーがプロキオン星系で捉えた敵コルベットは、ブリーフィングと変わらず現在も十二隻だ。何か問題でも?」 「本当に情報は正しいのか? こちらのレーダーでは……数えきれない数を捉えている——」  人類がアポロ11号で初めて月面に降り立ってから太陽系外を自由に探索できるようになるまで、実に三百年の歳月が要った。  しかしそれからさらに異星人を発見するまでは、ものの数年のことだった。  二十三世

          宇宙(そら)に映る花火

          自動記述シュルレアリスム(2)

          金魚鉢の人間像は甘くて狭くて儚くて。 遠く遥か遠くの存在だ君は、どうにもならないものだった、今となっては。 あまりに鬱屈としていた、後悔ばかりが燻っているのは風船ガムと派手な靴下のせいだった。 手遅れになる前に逃げよう、さもなければ行かねばならない。 お茶をもらっていいかな、と好々爺。 ただ破裂したのだった、僕の頭の中にあったものがすべて、言葉の恣意性ばかりが優遇されたのだった、どこまでも飛び立ってどこまでも飛び降りてしまうような言葉だった。 四六時中カタカタカタカタとキーボ

          自動記述シュルレアリスム(2)

          優しい世界だったな

          思わせぶりなタイトルからの、ただの近況報告を済ませるための散文である。 2023年、10月末。 「ライターズ・ブロック」についてを書いた。 間違いのないように言い添えると、あれはすべて真実だった。 ここ数日、僕は『心意と魔法の旅々』のブラッシュアップを行っている。 ただの推敲ではない。完結した作品に大きく手を加える改稿だ。 作業量としては、体感、1から同じ文量の長編小説を書くこととなんら相違ない。それなりのHPを使うし、MPも使う。 さりとて、僕は今、書けている。 書

          優しい世界だったな

          ライターズ・ブロック

          久々にこうして筆を執る。 何を話すでもなく、ただシュルレアリスム的に、或いは恣意的に、ただ思ったことを思ったように、誰でもいいから伝えたいなと思って、乱雑にも筆を執っている。 一つ書くならば、これを書こうと思った動機についてがちょうどいい。 僕は最近、或る現象に悩まされている。 これをなんらか、既存の現象に当てはめるなら「ライターズ・ブロック」として扱うことが適切かもしれない。 「ライターズ・ブロック」とはなにか。 端的に言って、〝物を書けない状態〟にあることだ。 つま

          ライターズ・ブロック

          高村光太郎「道程」

          どこかに通じている大道を僕は歩いているのではない 僕の前に道はない 僕の後ろに道はできる 道は僕の踏みしだいてきた足跡だ だから 道の最端にいつでも僕は立っている なんという曲りくねり 迷いまよった道だろう 自墮落に消え滅びかけたあの道 絶望に閉じ込められたあの道 幼い苦悩に揉み潰されたあの道 振り返ってみると 自分の道は戦慄に値する 四離滅裂な また無惨なこの光景を見て 誰がこれを 生命《いのち》の道と信じるだろう それなのに やっぱりこれが此命《いのち》に導く道だった そ

          高村光太郎「道程」

          ひとりぼっちの生き残り

           それは、大穴だった。  大空洞と表現した方が、より適切かもしれない。足許の彼方、地下何千メートルまで続いているだろうか——地表が、まるで神の怒りによる雷霆に劈かれたかのようにして、ひび割れているのだった。 「これは回り道するしかないかもね」  わたしを乗せて走る、年代物の古暈けたトラックを停めたミシェルは、やれやれと言った風に、もしくはその身で降参を示したように、はたまたこの無念たる状況を馬鹿にするようにして、操縦棍を握っていたはずの両手を小さく挙げながら首を振った。 「見

          ひとりぼっちの生き残り

          自動記述シュルレアリスム

          正解と不正解、失念と忘念の先に人生の価値がある。 終末と幻想、人間の存在理由を1と2の境界で唱えよう。 嗚呼、革命家よ、抗い給え、闘い給え。または空を飛び給え。 世界は失念している。失望している。失墜している。 仮初の残飯に有りつけるのは何も自分だけじゃない。 称賛のクラップと一瓶の錠剤は紙一重。 公園の喧騒、幻聴、静寂(しじま)の隙間にて。 無害な言葉に騙されてはいけない。 百年の歳月を生きる化物ほど人間を呪い愛する存在はない。 世界を奪う少年少女、雑踏に飲まれて消える。

          自動記述シュルレアリスム

          水を飲んだシャンプーボトル

           ジュウゾウは風呂場で一人、手のひらを受け皿にしたまま、苛立ちを覚えていた。シャンプーのボトルが切れているのだ。ポンプを押せども押せどもしゅこしゅこと鳴るだけ、一向に出てくる気配はない。仕方が無いので、詰め替え袋を手に取った。しかしこの袋、半分程しか残っていない。足りるだろう、そう思ったジュウゾウは内容液をボトルに詰め替えた。しかしどうだ、ボトルには幾許か空きがある。足りぬのだ。そこでジュウゾウは一つ閃いて、風呂場の蛇口を捻ってやった。わんさか流る水をボトルに飲ませる。  す

          水を飲んだシャンプーボトル

          「プルミエ旅行記」 終章

               「希望に就いて」  アルノーはティニと共に神国バラン行の汽車に搭乗し、バランの宿で一晩を明かした。早朝に修道院を訪ってみると、しかし家族同然の顔触れが出迎えてくれる。やはりヴォージュの刻印牢に入れられていたようだったが、しかしヨハネスがこっそりと出してくれたのだと語ったのは、あの男勝りなシスターだ。ティニは約束でしたからね、と言ってガレットを焼いて振る舞うと、改めて旅に出る旨を明かし、アルノーと共に修道院を後にした。  次にアルノーは、アルデン連邦共和国行の汽車

          「プルミエ旅行記」 終章

          「プルミエ旅行記」 三章 3

          「用は済んだか。——では、始めよう」  ヨハネスはデスクの上で魔道具の準備を進めていた。アルノーは一切の言葉も無く、衣服の襟に指を掛ける。僅かばかりに抵抗するのは、胸元の絵筆ポケット——最後まで画家としての自分が抵抗している。しかしアルノーはもう、淋しいのは御免だったから——ティニの笑顔を想起しながら——胸元を晒してみせた。 「いつでもどうぞ」 「伝えたか? 少女には」 「いいえ、哀しませたくなどありませんから」 「どちらにせよ、哀しむだろうに」  ヨハネスは椅子を持ってくる

          「プルミエ旅行記」 三章 3

          「プルミエ旅行記」 三章 2

          「考えは、纏まったかな」  再び刻印研究所を訪えば、先まで刻印持ちだった男はとうに姿を消していた。居るのはヨハネスただ一人、坐ったままにくるりとこちらを向き直っては、開口する。世界は寂寥《せきりょう》として静寂を好み、この時のために汎ゆる音をまるっきり消してしまっているみたいで、聞こえるのは小さな呼吸が二つだけ。かつ、かつと靴音を鳴らして、ヨハネスの許に向いながら、 「ええ——」  と一つ、己が答えを告げてやる。 「——そうか。私は、君の事を深くは知らんが——君ならばきっと成

          「プルミエ旅行記」 三章 2