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呻き声が聞こえる

せんむ、つちや、ごっちの三人がルームシェアをしていた時代のお話。

スキャンした書類 (3)_page-0001

scene1_せんむ


「うヴぁあああ、、、」


月曜日の朝。いつも通り早起きをし、かったりいなあと思いながら仕事に行く準備をしていた。隣部屋から変な声が聞こえたが、また飲み友達と朝まで遊んで酔いつぶれているんだろうな、と軽く流して出勤に向かう。酒の飲みすぎは本当によくない。いい加減ほどほどにすればいいのに。

scene2_ごっち

早朝だったが目は覚めていた。騒々しい隣部屋のアラームを笑うくらいの余裕さえあった。

動けない。

幸い今日はバイトのシフトは入っていないが、起き上がることが出来ない。尋常じゃないくらい腰が痛い。学生時代から毎晩酒を飲む習慣は出来上がっていたのだが、こんなにも早く体にガタが来てしまうのか。少しでも動こうとすると激痛が走り、痛みに耐えきれず呻き声をあげる。何度も立ち上がろうと挑戦したが、強烈な痛みに襲われてどうしようもできない。毎日同じ時間に聞こえるドアの開け閉めと鍵の音が聞こえ、せんむは仕事に行ったのか、と冷静に我が家の状況を鑑みる。このままではまずいと思い、まだ寝ているであろうつちや君にラインを入れ、救急車を呼んだ。

scene3_つちや

ぼんやりとした寝起きのタイミングだった。タバコでも吸おうかなと思って寝転んでいると、スマホの通知に気が付いた。ふじのが救急車を呼んだらしい。

・・・救急車?

ピーポーピーポーと騒がしい音が近づいてくる気がするが、まだ半信半疑。一応様子を見てやろうと思い、ガラガラっとふじのの部屋を開けてみた。すると奴は半笑いで横たわりながら「動けねえwww」とか言っている。少し驚いたが救急車を呼んだのは本当のようで、ほどなくして救急隊が駆けつけてきた。「身内の方ですか・・・?」と訝しげに声をかけられたが、想像通り全く違う。いや別の想像をしたのか?しかしもう流れには逆らえず、救急車に同乗してついて行くことになった。救急車の同伴なんて初めてだ。それが薄ら笑いを浮かべて腰が痛えなんて言っているコイツかよ。もはやちょっとしたイベント気分だった。

scene4_ごっち

救急隊員に抱えられて担架に乗せられる。手際よく車内に運ばれ、つちや君もついてきてくれた。「オレ救急車乗るの初めてだよ」と半笑いのつちや君だったが、これが結構救われた。気が楽になる。

医者によると「疲労ですかね」とそれだけで終わってしまった。湿布を処方してもらい、会計などの手続きも全てつちや君が済ませてくれた。車椅子に乗せられ、看護師さんにタクシー乗り場を教えてもらう。まさかつちや君に車椅子を押してもらう日が来るとは想像もしてなかった。「俺もだよw」彼も笑っている。ルームシェアをしているアパートに到着し、肩を抱えてもらって自室まで送ってもらった。「なんかあったらすぐ言えよ」そう言って彼は自室へ戻っていった。就活に忙しいところ申し訳ない。

scene5_せんむ

つちやからラインが来ていた。仕事中で忙しく、後で確認しようと思いすぐにスマホをポケットにしまおうとしたが、


「ふじのが救急車で運ばれた・・・」

というところまで読んでただ事ではないと思い、すぐにラインを開いて全文を確認した。


「ふじのが救急車で運ばれたwww」

草が生えていた。俺の心配してやった思いやりの気持ち返せ。まあ別に大丈夫なんだろう。退勤後につちやから状況を教えてもらったが、どうやら大したことではなさそうだ。一応何か食料でも買って帰ってやるか。

scene6_ごっち

「コンコン」

自室にノックの音。「おう」とぶっきらぼうに返事をするとドアが開き、せんむが仕事から帰ってきた。「大丈夫かよお前」といって乱暴に買い物袋を部屋に投げ込んでくる。スポーツドリンクと菓子パン。「とりあえず食い物あれば大丈夫だろ?」「ああ助かるわ」横たわりながら返事をする。

実際さほど大したことではなかったらしく、翌日にはなんとかバイトに行くことが出来た。ルームシェアをしていてよかった。これが一人暮らしだったらまた状況は違っていたんだろうな。

FIN


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