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Driver's license War_2

カベドン_

何日目の夜だったろうか。彼らは消灯時間を忠実に守り、夜の10時には明かりを消して寝るようにはしていた。早々にいびきをかき始めたり、魂を吸い取られたようにスマホを見続けていたりと様子はそれぞれであったが、この日は以前から気になっていた隣部屋の音が一段と騒がしい。笑い声や走り回っているような音が聞こえてくる。いつもの日常とは異なる環境で眠りが浅くなっていることに加えてこの追い打ち。最初に我慢の限界が来たのはつちやだった。

どん!と勢いよく彼は壁を蹴り飛ばした。部屋が揺れる。舌打ちをしてかなりイラついているようだった。一瞬、ほんの一瞬静まり返ったのだが、素早いレスポンスでアンサーが返ってきた。

ドンドンドンドンドンドン!!!!

連続パンチを壁に繰り出してきた模様。ゲラゲラと大きな笑い声もオプションでついてきた。こんなにも露骨に壁ドンに対するレスポンスをかましてくることがあるのか。

「はっw」

つちやは笑った。心底バカにして見下した侮蔑の念が篭っている。一周回ってどうでもよくなったような様子。ごっちは「やべえな・・・」とぼやく。せんむはモゾモゾと寝返りを打っている。彼らは早々にあきらめて目を閉じ続ける作業に戻った。

翌日、どうやらバイクの免許を取りに来ている高校生の集団だということが分かった。金髪やらピアスやらでガラが悪い。「(こいつらか・・・)」と教習所で横目にチラリと目をやるが、それ以上のアクションは起こさない。チキン。

彼らはミヤオイに「バイクの免許を取りに来てる奴らがうるせーんだよ」などと愚痴る。「あーゆーのは俺も苦手」と共感をしてくれ、奴らは今日にも教習を終えて出ていくらしいという情報も提供してくれた。彼らは安堵し、その夜は部屋で好きな音楽を流した。隣部屋からの音は無い。何日かぶりのリラックスした夜。彼らは何故かThe BeatlesのRevolution 9をひたすらリピート再生していた。消灯時間を迎えても憑りつかれたように「なんばーないん・・・なんばーないん・・・なんばーないん・・・」と死んだ魚のような目をしながら口ずさみ、深い夜へと誘われていく。騒音が無くなったにもかかわらず熟睡できなかったことは言うまでもない。

続く


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